第12話
「—————これが冒険者カードですか」
俺とトバリはナディスさんに言われた通りに、人間側の冒険者ギルドの受付窓口から空の冒険者カードを手に入れた。
それまでに必要な書類を書いたり、制約の魔法を結ばされたりと昔に比べて随分と手続きが面倒になったのだが強大な力を手に入れられる以上、仕方のない事なのだろう
ゴクリと喉を鳴らし、手に持った空の冒険者カードを見つめる。
「これに少量の血を垂らせば文字が浮かび上がる。トバリは大丈夫だろうけど俺は人気の無い所でやらないといけないみたい」
冒険者カードに血を垂らす事によって、その冒険者は特別な力を手に入れることが出来る。
医学に詳しい知り合いが言うには魔臓?と呼ばれる普通では休眠状態の臓器を強制的に起こす魔術らしい
人間であれば魔臓が動き始めても特に問題はない、身体能力に関しても増大する力は微々たるものなので特に不便は無いそうだ。
問題なのが、エルフと言った魔力適正のある種族たちだ。
優秀な素質を持っている彼らが魔臓を起こすと偶に暴走したり魔力波と呼ばれるオーラを周囲に解き放ってしまうそうだ。
幾ら魔力感知に鈍い人間であってもエルフの魔力波を間近で浴びてしまったら最悪の場合死んでしまう事もあるそうだ。
だから俺はこの場では出来ない、ナディスさん曰くハイエルフが魔臓を初めて起こすとなればどのような事になるか分からないので、都市から出て人気の無い場所でやるようにと言われた。
なのでトバリが一足先に冒険者として魔臓を起動させる。
冒険者カードと一緒に渡された針を取り出し、血を垂らす。
「これで私も」
やはりトバリ自身が冒険者として優れた素質を持っていたのか、血を冒険者カードに垂らした瞬間、ぶわりと彼女の長い髪が立ち上がった。
そこから纏う気配はまだ冒険者になっていない自分ですら感じ取れるほどだ。
にぎにぎと軽く自分の手を握るトバリは冒険者になった事で向上した力を確認しているようだった。
「やめてくれよ、冒険者になってから道具を壊す人は多いんだから」
人間であれば微々たるものだが、それでも力を入れれば鉄板をぐにゃりと曲げることはたやすい、その為か力加減を間違えて宿のドアノブを破壊したり道具を壊してしまったりする冒険者が後を絶たない
(俺も人の事言えないけどな)
かく言う自分も過去に似たようなミスをしでかしている。調子に乗って予め購入していた鉄の剣をポッキリと折ってしまい泣きを見たことは記憶に新しい
「大丈夫です。慣れるまでは他の物には触りませんから」
さらりとそんなことを言う彼女だが、それはそれでどうなのだろうか?
「よーし、いつでもいいぞーーー」
トバリが冒険者として覚醒し終わったので、次はラノンの都市をでて少し歩いた人気の無い平原で俺の覚醒を行う
遠くには大きく手を振って合図をするナディスさんとジーっと様子を見るトバリの姿が見えた。
「ではやります!」
エルフが覚醒する際、魔力が暴走してしまう事があるそうなのであらかじめナディスさんには普段ダンジョンへ潜る装備を身に着けて貰い、万全な体制で行う
チクリと鋭い痛みと共に赤い血が一滴、冒険者カードに足れる。
瞬間、かつて人間だった時に行った覚醒と違い、青白い光で冒険者カードの情報が記入されていく、今までに見たこともない羅列に眼を奪われるがそれ以上に気になる部分があった。
(体が熱い!)
まるで全身を内側から焼かれているかのような熱量が俺の身体を襲う
魔臓と思われる胃の奥から吹き出る熱量はまだ我慢できる。
ただ胸の奥からは焦げてしまうのではないかと言う程の灼熱に思わず足を崩してしまう
「大丈夫か!?」
予め準備をしていたナディスさんが近づいてくる。
落ちてしまいそうな意識の中で心配そうな様子でこちらに向かって走ってくるナディスさんを俺は手を突き出して止める。
「大丈夫!」
頬にあったはずの魔紋が腕の先まで伸びていた。
その模様も黒ではなく、銀色の様な輝きを放っていた。
(ここは)
俺はいつの間にか意識を失っていたようだ。
眼を開けてみれば空は既に暗く、長く意識を失っていたことが分かる。
「やっと意識が戻ったか」
夜空を見上げているとその視界を防ぐように美しい女性の顔が、さらりときめ細やかな黒髪が頬を触る。
「ナディスさん?俺は……」
「覚醒した後酷かったんだぞ私もトバリも気絶するし、都市も大騒ぎだ」
俺が意識を失った直後、俺を中心にして巨大な銀色の魔力の柱が天高く昇ったそうだ。
そして周囲にいたナディスさんやトバリは俺の魔力波を浴びて気絶してしまったそうだ。
それ以外にもラノンに住むエルフや魔力感知に長けている人間たちの多くが気絶もしくは立っていられない程の身体の不調を受け、現在ラノンの都市ではテロが起きたのではないかと大騒ぎが怒っており、厳戒態勢が開かれているそうだ。
ナディスさんが目を覚ました後は既に都市は厳戒態勢の為に入ることが出来ず。野営をしているそうだ。
「トバリもまだ気絶したままだよ、そう言う私もまだ脳が揺さぶられた感覚が抜けきっていない」
ハイエルフって言うのは馬鹿げた存在だね、と恨めしそうに話すが半分は冗談な感じだった。
寝ていた身体を起こしてみれば、トバリと一緒に逃げた夜の時を思い出す。赤々と燃える火を見ながらナディスさんは不調な身体を動かして周囲の動物を狩って焼いていた。
「幸いにも君の魔力波で周囲の動物も気絶していたから拾ってきただけだよ」「そんなに影響してたんですか……」
「そりゃそうだよ、なんせラノンの都市に住む住人の半数が君の魔力波を受けて気絶したんだからね」
ナディスさんは初めてあった時より何処か面白そうな様子で俺を見ていた。
ただ俺の何処が彼女が気に入ったのかは分からない、ただ面倒事と思われながら接しられるよりは全然マシだと思う
「それで、肝心な冒険者カードはどうだい?君が意識が無い内に見るのも失礼だしね」
「あ、そうですね……これです」
服の胸ポケットに入れられていたカードを取り出す。
ミナト・ヤマダ 男 Lv:1
種族:ハイエルフ
耐久:8
魔力:-
筋力:13
技能:3
俊敏:11
幸運:-
俺のステータスが書かれた冒険者カードの表面はこうなっていた。
やはり種族はシスターが言ったようにハイエルフになっていた。身体も変わってしまったせいで、レベルも初期化されている。
ただ、種族格差と言うべきか数値が不明の魔力と幸運を除いたステータスは当時人間の状態でLv8だった時より総じて高い
ただ技能だけは低くなってしまっているが、これに関して言えば種族関係なくレベルや本人の適性によるものが大きいので仕方のない事だろう
そして冒険者カードの裏側を見る。
【魔法】
〈
・魔力を消費して周囲の風景に同化する。
【特殊技能】
〈
・無尽蔵の魔力を有する。
〈
・世界から祝福される。
〈
・魔力を消費して身体を修復する。
〈
・魔法の威力を増大させる。
・魔法に聖なる属性を付与する。
「これは……」
魔法や特殊技能と呼ばれる物が記載されるカードの裏側には俺の知らない特殊技能が複数書かれていた。
魔法に関して言えばわかる。〈
ただ……特殊技能に関して言えば四つも存在するのは驚くしかない
特殊技能は非常に希少なスキルが多く、魔法や魔術では代替出来ない特殊な効果を持つものが多い
その効果に関してはピンキリな事が多いが、軽く見る感じどれも強いと思われる能力をしている。
特に〈
〈
そして〈
これは身体が傷ついた時に自動で魔力を消費して治療するという物だ。これを持っていると例え本人が治癒魔法や回復魔法を持っていなくても勝手に身体が治癒するといった物だが、消費する魔力も多く小さな傷でも発動してしまうので使い勝手が悪いと言われている。
ただこれも〈
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