第11話

「では私たちはここで……反対側の扉からナディス様が来られます」


 そう言うとイネロさんと受付嬢の女性は部屋を退室した。

 先程案内された部屋とは明らかにグレードの違う豪華な部屋で待たされる俺とトバリ、もう少しすれば入ってきた扉の反対側はエルフ側のギルドに通じているようでそこからナディスと呼ばれるエルフの女性が来るそうだ。


 シスターが優しい性格の人物だったので勘違いしそうになってしまうが、本来エルフはキツイ性格の人が多い

 エルニアが存在したころはエルフの少年少女が人間たちに拉致されるという事もあり険悪な関係だったのだが、長い月日が経った今でも変わらないという


 険悪と言うよりは対等な立場として見られないと言った方が正しいのか、最初の第一声はどうしようかと考えているとガチャリとドアノブが回される音がする。


 ゴクリと唾を飲み込み、開けられた扉から部屋へ入ってくる女性を見る。ナディスと思われる女性はエルフらしい端正な美しい顔立ちをしていた。

 優し気な目をしていたシスターと違い、その女性はキリッとした凛々しい目をしておりトバリと同じように漆の様な綺麗な黒髪をしていた。


 長い髪を高い位置でまとめたポニーテールになっており、エルフ耳と呼ばれる人間の耳より長く尖ったような形の耳がはっきりと出ている。そして陶磁器のような白い肌と対照的な鮮血の様な鮮やかな赤い目はその肌色も相まって非常に目立って見える。

 流石エルフ、と言った綺麗な女性なのだがその美しさが厳しそう見た目をしているのでどこか近寄りがたい雰囲気があった。


「……あんたが」


 部屋に入ってきたナディスさんは俺とトバリを見た瞬間ぼそり、とつぶやいた。イネロさんにナディスさん宛の手紙を事前に渡していたのでこちらの状況は知っているのだろう


「あぁ、ここで大丈夫だ」


 後ろには人間の女性が待機していたのだが、ナディスさんは軽く制止するとそのまま人間の女性は軽くお辞儀をして静かに部屋を退室した。


「あなたがナディスさんでよろしいでしょうか?」

「あぁ……本来であればハイエルフの方にこのような言葉遣いは無礼なのだが、こういう性格だと思って許して欲しい」

「いえ、自分としてはこの方がありがたいです」


 粗暴、という訳では無さそうだがどこか面倒事に巻き込まれた。と言った表示が見て取れる。


(まぁ、めんどくさいのには間違いないけど)


 シスターが推薦する人物なので悪いエルフでは無いのだと思う、実力者でありながらリスクの高いソロで冒険するという事は余程性格に難があるか、人付き合いが苦手かのどちらだ。

 冒険者というのはパーティーのメンバーが優秀であればある程良い、そうすれば多くのお金を稼げるし、常に危険が付き纏うダンジョン内でも安全に攻略出来る。


 その為、実力のある冒険者や回復魔法といった希少な支援魔法が使える冒険者も人気がある。

 だから態々自ら誘わなくても様々な勧誘が届くだろうし、中にはパーティー内の分け前を多く渡すといった有利な条件を出すところも事もあるだろう


「アリアナからは君たちが一端の冒険者になるまで先生をやって欲しいとある……まぁ妥当な判断だな、かのハイエルフをアビスの大穴に挑ませるなど、本国の連中が聞いたら発狂物だろうが」


 鼻で笑うように、ナディスさんはシスターからの手紙を読む


「ご迷惑だと思いますが、やはり冒険者として出来るだけの事はやっておきたいので」

「それは正解だな、普通の人間ならプライドの無い軟弱者だというだろうが素人二人がいきなりアビスの大穴に挑めというのは酷だ」


 アビスの大穴は俺が知らない間にダンジョンの環境が激変したそうだ。上層部であっても一般的な小型ダンジョンの深部クラスには難しく、死亡率も高い

 なのでアビスの大穴に挑む冒険者の多くはどこかのダンジョン都市で経験を積んでからこの都市へ来るそうだ。


 勿論俺たちの様に初めて挑むダンジョンがアビスの大穴、という人間も居るそうだがその多くは早死にしてしまうそうだ。

 その為、現在ラノンの冒険者ギルドでは他ギルドで実績を経てからダンジョンの挑戦を許可するべきではないかと言う論調もあるそうだ。


「それとね、エルフ同士の会話だから自重しているのかもしれないけど、君も聞きたいことがあったら話した方が良いよ?」

「……トバリ?」


 ナディスさんと今後について話していたら、急にナディスさんは横目を見てトバリに問いかけた。

 白熱していた為、トバリについて意識を向けてなかったが彼女はぼーっとした様子で俺とナディスさんを見ていた。


「は、はい」

「まぁ一般的な人間にエルフと会話しろって言う方が酷な話か、他エルフならそれで正解だけども、私はこれから君たちの面倒を見る。疑問があるなら答えなさい」


 ナディスさんに言われて俺はハッとした。

 なまじ冒険者としての経験があったので俺一人で話を進めようとしていたのだが、彼女もこれから一緒に活動する仲間の一人だ。

 そして人間はエルフに質問してはいけない、冒険者であれば何度か目にすることからその意識は弱いけども一般人として生きてきたトバリならその意識は強いはずだ。


 だからこそトバリは余り話そうとはしなかったのか、元々口数が少ないのかと思っていたのだがそれは勝手な思い込みだ。


「……すまないトバリ、俺が君の気持を汲み取れなかった」

「いえ、ミナト様は悪くありません……ただエルフの方々とは極力話すなと母から言われてましたので」

「実際にアリアナや私以外のエルフと相対するなら静かにするのが正解だ。君の場合は最悪エルフとして話せるけども、他エルフがトバリを不快に思ったらその場で斬られても可笑しくはない」


 そんな馬鹿な、と一瞬思ったがナディスさんの口調からして全くの嘘では無いのだろう


「実際に居るんだよ、殆どのエルフは無関心だけど人間を甚振るのが好きな奴がね……そういうエルフに限って弱いんだけど」


 そうナディスさんは言うが、それでも人間の冒険者からしたらずっと強大な力を持っているのだろうだからこそ、そう言ったエルフの冒険者に絡まれない様にもシスターやナディスさん以外の冒険者とは極力近づくな、俺の素性の秘密以外にもトバリは注意しなければならないそうだ。








「まずは冒険者カードの登録からだ。そこで覚醒した能力を見てから装備を選ぼうか」


 その後はトバリも含めて、この都市で注意しなければいけない事について話し合った。ある程度話が纏まったらナディスさんの方からまずは冒険者カードの登録をするようにと言われた。


「生憎だけど、私はエルフだから君たちのギルドにはついてはいけない、ミナトはエルフのギルドでも出来るだろうけど万が一があるからね」


 一応俺はハイエルフの特徴である頬の魔紋をシスターから貰った特殊な軟膏で隠している。

 ただ注意されたのが、大量の魔力を消費する魔法を行使したりすると魔紋が輝くので注意が必要だと言われた。


 他にも覚醒前の段階ですら近づけばわかる程度には独特な魔力を体に纏っているそうだ。なので魔紋は隠していても人間側のギルドの方で登録をした方が良いだろうと言われた。


「良くも悪くも人間は魔力感知に鈍感だからねぇ、私からしたら羨ましい限りだけども」


 魔力感知に敏感なエルフなどの種族は、一瞬で他人の膨大な魔力を浴びると体調を崩してしまうらしい、平衡感覚を失って船酔いや馬車酔いといった不調に悩まされ酷いとそれが数時間も続くそうだ。


 だからこそ人間はある意味魔力感知が鈍感で羨ましいとのこと、それを聞いた俺とトバリは何とも言えない複雑な気持ちを浮かべた。

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