第13話
「確かに伝説に語られるハイエルフだけあって凄い能力をしているな、国の老人どもが信奉するだけある」
焚火にくべられた木々がパチリと破裂する音を耳にしながら、自分のステータスや特殊技能が書かれた冒険者カードを読むナディスさんはどこか納得した様子で話した。
「トバリに関しても人間にしては優秀な初期能力だ。特殊技能も使い勝手の良い剣士が付いているし運が良い……流石世界に祝福されているだけあるのかな?」
意味深に語るナディアさんを見て俺は複雑な気持ちになる。
ナディアさんが言うには特殊技能を持つ冒険者は1000人に1人の割合だと言われ、多くの冒険者はそれらの能力を持たない人たちだ。
それに関してはエルフも同様で、エルフの場合は500人に1人ぐらいらしい
それほど希少な特殊技能持ちの将来有望な冒険者の卵を今の段階で仲間にしているというのは少し都合が良すぎる。
だからこの出会いは俺の特殊技能の内の一つである〈
決められた運命だと思うと心がモヤッとする。決められたレールを走らされているような感覚が全身を襲い不快な気持ちだ。
これまでもこれからもこの特殊技能に操られると思うと苦しくなる。
「それでも……私はミナト様と出会ったことは幸運だと思います。それで救われた人間ここに居るのですからあまり悲観しないでください」
そんな内心が表情に現れていたのか、トバリがハッキリと聞こえる声量でそう言った。顔を上げて彼女の方を見てみれば意志の強い表情で俺の方を見ていた。
「いいのか?カーメリアの奴隷狩りにあったのも俺のせいかもしれないのに」
「確かに、あの時奴隷狩りにあったのは不自然だと思いました。今思えば強制的に運命が帰られたのではないかとも思います」
やはり、と俺のせいだ……と心の中で思った事から被せるようにですが、と彼女は言葉を繋げる。
「ですが、私は彼らに酷い事をされていません、殴られはしましたが夜枷を命じられたわけでも一生付き纏う様なトラウマを植え付けられたわけでもございません」
「それでも私はこうやってミナト様に救われました。道中色々ありましたが、遠い旅路の果てにこの場で冒険者となりました。目の前には優秀なエルフの冒険者から師事することも出来ます」
トバリが言うには確かに俺の特殊技能のせいで迷惑は被っただろう、ただラノンの都市へ入ってからはどうだったか?都市へ来てからは、伝説の冒険者として名高いシスターであるアリアナ様とも縁を結べ、そして彼女が信頼できる冒険者のナディアさんからこれから冒険者として学ぶことが出来ると
関係性を別にしても、ハイエルフというエルフを上回るであろう種族の冒険者とパーティーを組めるというのは私にとってそれまでの苦労を上回る程の幸運だった……とトバリはそう言った。
「ミナト、お前の負けだな……彼女はお前が思っている以上に強かだぞ?」
「えぇ、本当にそう思います」
トバリの独白に終始圧倒されていた俺を見てナディスさんはどこか楽しそうに俺に語った。それに対し俺は素直に負けを認めたが、どこか心は晴れやかになっていた。
「昼食が終わった後、冒険者ギルドの入り口に集合だ。私は表立って顔を晒せないから赤のフードを被っているはずだ。フフッ、お前とお揃いだな」
次の日になって都市の封鎖は解除され、中に入ることが出来た。出来たばかりの冒険者カードを門の前に置かれている装置にかざせて中に入る。
一日都市の入り口が封鎖されていた影響で、都市を出入りする商人を中心に混雑を起こしていた。多くの馬車が門前で渋滞を起こし、あまりにも暇を持て余しているのか道端の草を毟っている馬が居るぐらいだ。
そんな状況で、すぐに都市へ入れたのはナディスさんがエルフだったことだろう、その連れとして長い行列を並ぶ人たちを差し置いて優先的に都市へ入場することが出来た。
「とりあえずラノンに戻ってきたし、いったん解散かな?」
一日だけとはいえ、野営を行い全身にべたつきを感じるとの事、長期間の探索などもあるので、冒険者として水浴びをしないなんて日常茶飯事だが風呂に入れるならそれに越したことは無いとの事
ここら辺の意識の差は人間とエルフというよりは、男性と女性の性差の違いだろうか、横目に見れば女性であるトバリも宿に戻って水浴びをしたいと言われた。
緊急の用事もあるわけではないので、自分もその案に素直に同意する。どうやって暇をつぶそうかと考えていたらお前も汗臭いから入れとナディスさんに厳命され、宿に戻って真っ先に水浴びを行いしっかりと汗と汚れを洗い流した。
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