第23話
「二人組だと一人が行動不能に陥った時、カバーできる仲間が居ないから3人組が多いんだろうね、私は危険な場所へ行くときは基本的に戦わないからソロでやっているけど」
ダンジョンから地上へ戻り、いつもの様に修練場へ到着した。その中で待っていたのは一人で修業をしていたのか若干肌に汗を帯びた様子のナディスさんだった。
「役割の分担も出来ますから、ミナト様は攻撃も支援も出来ますが普通の冒険者だと、どちらも出来る人はあまりいませんから」
「そうだね、支援は支援、攻撃は攻撃、壁は壁多くの役割をこなせる冒険者はそう多くは無い……アイアンの冒険者なら尚更だ」
「トバリも壁と攻撃、俺は攻撃と支援でパーティーとしては成り立っていますから二人組でも問題が無かったんですね」
俺もトバリも近接戦闘は可能だ。そしてトバリは複数の敵に対しても戦闘が出来るし、俺はトバリが持っていない遠距離からの攻撃も可能だ。偶然と言うには出来すぎているが複数の役割をこなせる冒険者は少ない、しかもこうやってお互いをカバーできるとなれば尚更だろう
「ミナトの秘密の関係もあるし、私は二人組のままで良いと思うよ?少なくとも10層までは」
ナディスさんがそう言う十層とはモンスターが出現しない安全階層と呼ばれる場所を境目にして第十一層以降から急激にモンスターが強くなることが挙げられる。
各都市に分かれていたアビスの大穴のダンジョンが合流し、本来のアビスの大穴に戻るとも言われ、階層の広さは勿論、出現するモンスターも非常に強い
実際に各階層の救援率と事故率を統計で取った資料がギルドには存在するそうで、救援を要請する数とパーティーが壊滅し半壊もしくは全滅した事件の数を纏めると十一層から二十層で起こるといわれている。
最初の壁とも言われており、未だ蘇生や重体の状態を回復させる高度な回復魔法を使用する為の高度医療保険や治療費が払えない冒険者も多く、蘇生時間との兼ね合いからそのまま死亡してしまう冒険者も多い
これがエルフの冒険者だったり、希少な種族の獣人だったりすればギルドや親族が肩代わりしてくれることも多いが、家から飛び出して独り身の多い人間の冒険者だとこのような事が多くなるのは悲しい事実だ。
「まぁミナトやトバリが万が一死亡しても私かアリアナが助けてやれるが死なないで済むならその方が良い、だから手間を駆けさせないでくれよ?」
こうやって言ってくれる人がいるだけで、俺はやはり恵まれているのだろう、蘇生や高度な回復魔法は場合によってはトバリがこの都市に来てからシスターからして貰った解呪魔法よりずっと高い
単純に解呪魔法も高いのだが、シスターが格安と言える程安くしているのが原因で、本来であれば10年かけても半分も支払えない程高いし、腕一本治すだけで莫大な治療費がかかる。
その為の保険な訳だが、その分保険料も高い……しかしこの保険はちゃんと入れとシスターは勿論師匠であるナディスさんからも言われている。
ミナト・ヤマダ 男 Lv:6
種族:ハイエルフ
耐久:14
魔力:-
筋力:38
技能:14
俊敏:24
幸運:-
トバリ・ハヤセ 女 Lv:5
種族:ヒューマン
耐久:23
魔力:0
筋力:40
技能:9
俊敏:28
幸運:11
ラノンの都市で冒険者となってから丁度一か月が経った。
第五層まで到達し、レベルも順調に上がっている。
「まぁこんなもんか」
基本的にエルフ族が伸びやすいとされている魔法が測定不可能なのでその他のステータスはトバリより軒並み負けている。
とは言ってもトバリも剣士の特殊技能を持っている為、人間の冒険者の中ではかなりレベルに対してステータスが高い、俺も種族的な恩恵もあってこれでも高い方なのだ。
(人間だったころ、結構悲惨だったからなぁ……)
今では日課になった魔法言語の勉強も初級魔法に関して言えば大体は覚えることが出来、中級魔法で使われる言語に差し掛かっている。
運動量の多いトバリは毎日のように部屋に戻っては倒れるように眠っている毎日だ。それでも本人は充実しているようで、次の日の朝食の際には昨日言えなかったことを話すのでトバリとの会話は朝が一番多い
ミナト・ヤマダ 男 Lv:6
種族:ヒューマン
耐久:13
魔力:2
筋力:10
技能:15
俊敏:15
幸運:2
ぐっすりと眠っているトバリの睡眠を妨げない様に、明かりは勉強に支障の出ない最低限な光量にしてある。使い古されたランプの灯りに新たに取り出した少し真新しさを感じる中級魔法用の魔法言語が書かれた参考書を取り出し読む、そんな傍らで人間だったころのステータスを思い出した。
(こう思えばどんだけ酷かったんだろう俺、このまま戻れても本当に戻ろうとするのか?)
今の俺はシスターやナディスさんと言ったエルフの女性と縁を結んでいる。これが前の俺なら見向きもされないだろうし、同じ人間のトバリですらパーティーを組むことが不可能だ。
トバリは天才だ。師匠であるナディスさんはトバリの異様なステータスを見て明言しないものの彼女の話し方を見て多分間違っていないと思う
人間だったころの俺のステータスは今のステータスに比べて同じレベルでも随分と低い、ただこれは俺のセンスが低かったというよりもトバリのステータスが高すぎるのだ。
英雄、種族の限界を超えた特別な冒険者に使われる言葉
御伽噺のレベルだがエルフや獣人以外にも人間の英雄は居たとされている。
人間でありながら倍の背丈以上もある人型モンスターのオーガを素手で殴り倒すほどの筋力とエルフ顔負けの魔力を保有していたとされる。
ただトバリは魔力を持たないが、それでもすでに人間の枠組みから超えたステータスを持っている。それは彼女が持ち合わせていた才能だろうが俺はどうだ?
(……)
本来であれば俺はその他人間の冒険者と同じように平凡な人間だ。光学迷彩という有能な隠密スキルはあったものの、それ以上に特別な能力は無い
そして俺がシスターやナディスさんとの関係、枠組みを外れつつあるトバリと対等にいられるステータスは何かから与えられた仮初の物だ。
俺の目標は元の人間に戻してもらう事、それを目的としてダンジョンに挑んでいる。恩義を感じているトバリは冒険者になることが大きな目標だったので達成された今、彼女は次の目標を探している最中だ。
俺はもし今すぐ元の人間に戻れるとして本当に戻るだろうか?戻れたら自由の身になって生活しやすくなるだろうが、その際今の周りに居る人たちはどうなるのだろうか、俺はそれが凄く不安で仕方なかった。
今はまるで指名手配犯の様に人目から隠れながら生活をしている。常に顔を晒さず行きつけの店もナディスさんが関係しているところしか行っていない
自由を求めて冒険者になったはずなのに、今では顔すら晒せない程の不自由がそこにはあったがその代わりに以前の俺では関わる事すら出来ない様な人たちと縁を結んで冒険をしている。
「難しいなぁ……」
いざ、死に際に望んでいたエルフになってみたものの、そこに待ち受けるのは逃亡生活のような暮らし、だからと言って人間に戻ろうとしても、手に入れた力に欲が働いて自分の心を縛り付ける。
ぼそりとトバリの寝息だけが聞こえる静かな部屋の中で俺はそう呟く、揺らめくランプの光が今の俺の心境を表しているかのようだ。この身体になった時はただ人間に戻りたいと思ったが今、戻れるとしても俺は即決できるか?そう言われたらハッキリと言えるという自信が今の俺には無かった。
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