第17話

「ミナトもトバリも共にLv2か、まぁ妥当だな」


 その後も何度か戦闘を行ったがLv3へ上昇することは無かった。時間もそろそろ陽が落ちる時刻に差し迫っており、想像以上に広い第一層から気持ち早めに地上へ上がることにした。

 そしてアビスの大穴から脱出し、相変わらず人通りの多いダンジョン入り口付近の広場には赤いフードを深く被ったナディスさんが待っていた。


 俺とトバリの師匠なので早速今回の結果を伝える。上昇したステータスと今回の探索で得た魔石とガドラータの毛皮、それらを見せたらナディスさんは満足そうに頷いていた。


 現在俺とトバリ、ナディスさんがいる場所はギルドが管理する修練場だ。

 その施設の一部である練習施設、ナディスさんはカラーズの冒険者なのでこの様な場所でも顔が利くようでその練習施設の一室を丸々借り受けた形だ。


 ここで行うのは勿論修行である。その為訓練用の人形が数体配置され防具を身にまとっている。見た目は藁を束ねた物なので非常に脆そうな形をしているのだが、これでも魔術的な力が加わっているそうなのでアイアンの冒険者程度の攻撃だと傷ひとつつかないそうだ。







「トバリはいい、剣士の技能持ちだから才能は保証されている。私が居なくとも実力は伸びるだろう……問題なのはお前だミナト」

「はい!」

「お前は無尽蔵な魔力量にエルフ特有の属性の偏りもないから覚える事は山ほどある。それを実践レベルまで持っていくことは非常に難易度の高い事だ」


 ナディスさんが言ったように俺には属性の偏りがない


 本来、人間以外の種族は何かしら得意な魔法属性を持っている。

 例えて話すなら全員が同じ魔力量を持っていたと仮定して、人間は全部の属性魔法を100の威力で唱えられたとしよう。

 属性の偏りとは、その全部の威力が100で放てる人間と違い威力にバラツキがあることを指す。


 エルフでは基本的に風魔法が得意な冒険者が多い、勿論例外は存在するがこの場合エルフは風魔法の威力は150となる。

 勿論そこには練度であったり使用する魔法の位階によって変わってくるものの、その努力でカバー出来る以外の先天性な部分になる。


 その部分が俺は人間と同じように属性の偏りが無いフラットなタイプで、エルフではまず有り得ないとのこと


 ナディスさんはエルフには珍しい火魔法に適正があり、次に風魔法で水と雷が苦手になり闇魔法には全くの適性がないとの事だった。

 勿論、適性外の魔法も行使出来るそうだが、消費した魔力量に見合う結果があるかと言われれば無いという事だ。余程便利な魔法以外は適性外の魔法は覚えないとの事


 だからこそあらゆる属性が使える俺は覚える事が多いそうだ。特殊技能として剣士を覚えているトバリは才能は保証されているし、放置していても勝手に伸びると言っていた。

 勿論トバリの様子も見るが、ナディスさんは俺が一番心配だと言う


 そこにはハイエルフとしての種族的な部分もあるが、単純に知識を詰め込むという適性は単純なステータスでは測れないからだ。


「ミナトがどう思っているか分からないがそう話は簡単じゃないぞ、カードの裏面を出して親指で押してみろ」


 なんの事だろう?と思い言われた通りに冒険者カードを取り出し、その裏面の部分を親指で押し込む、すると


「これは」

「これは本人の魔法適性が表示されている。レベルアップによって適性値が上がったりするからな……そしてお前は

「精霊魔法って……精霊族以外が使えるもんなんですかね?」

「普通は使えない、例外は特殊技能にある精霊の愛し子持ちの冒険者ぐらいだが1つの属性だけだ」



【魔法適性】

 火:100 水:100 風:100 雷:100 土:100 光:100

 闇:100 聖:100 時:100


【精霊魔法適性】

 火:- 水:- 風:- 雷:- 土:- 光:-

 闇:- 聖:- 時:-


 冒険者カードの裏側を押し込むと各属性の魔法の適性値と精霊魔法の適性値が表示される。

 カードにこのような機能があったのは初めて知った。そして魔法の適性は各属性全て100になっている。


 適性が無い場合は0と表示されるようだ。精霊魔法適性が0と表示されていないのでおそらく俺の魔力や幸運ステータスの様な感じになっているのだろう

 試しにナディスさんの適性値の欄を見せて貰っても精霊魔法適性は各属性共に0と表示されている。


「ナディスさんは火属性の適性が230もあるんですね」

「得意な属性だしな、よく使う魔法ほどその属性値が上がりやすいからそこも気を付けると言い」


 特に聖属性や時空属性は特殊でダンジョン内の冒険でもユニークな効果を発揮するそうだ。

 聖属性なら回復魔法と言った物が使えるようになるし、時空魔法は敵の攻撃を防ぐ結界を張ったり罠を無効かさせる魔法などもあるので使い手も少ない分習得も大変だが覚える価値はあると言われた。


「精霊魔法に関しては私は教えることができない、精霊使いも居ないし精霊族はこのラノンの都市に居ないからな」


 精霊使いとは先ほど聞いた精霊の愛し子の特殊技能を持った冒険者の事を言うそうだ。


「精霊族はなぜラノンに居ないんでしょうか?」

「単純に数が少ないのとほとんどがダンジョン内にある街に居るからな」


 聞けばアビスの大穴内部に存在する街『モーヴ』と言う場所に殆どの精霊族が住んでいるそうだ。


「彼らは魔素が多い所が居心地が良いそうだ。モーヴを建てる際も彼らが主導して作ったぐらいだからな」


 なのでモーヴの行政は精霊族が管理しているそうだ。ダンジョン内という特殊な環境下の為、モーヴで販売されるアイテムや宿泊料はとても高いがそれでも重要な中継地点となっており多くの冒険者がモーヴに滞在している。








『我は魔力を10消費し、火の球を生み出す』


 ナディスさんが聞き覚えの無い言語を喋ると広げられた手のひらの上には拳大の火球が生まれる。


「火属性初級魔法の一、〈火球ファイアーボール〉だ。消費する魔力は5が適性値で私は杖の増幅無しで唱えたから倍の10を消費している」


 ナディスさんの手のひらの上にはフワフワと火の球が浮かぶ、まるで赤く輝くその光からは確かな熱量を感じる。


「行使した魔法は本人には影響を受けない、だから私はこの火の球に触れても厚く感じないし火傷もしない」


 そう言いながらナディスさんはもう片方の手で火の球を触る。

 それでもナディスさんは熱そうな様子はないし、手が火傷した痕もない


「まずミナトが覚えるべきは適切な魔力の量と魔法言語だ。魔力の量に関しては私が教えれるが魔法言語は座学になる……励めよ」


 魔力の量を正しく理解するには実際に魔法を使える人物に教わったほうが習得が速いそうだ。


「まず私がミナトの手に触れて今行使した〈火球ファイアーボール〉で消費した10の魔力量を流す。それをちゃんと知覚するんだ」


 イメージとしてはコップ一杯分の水だと思えば良いと言われ、早速ナディスさんの手が俺の手を握る。


「行くぞ――――――どうだ?」

「……はい、なんか流れてくるような感覚は分かりました。ただはっきりとは」

「いや、最初からわかるだけ充分だ。中にはこの感覚が掴めないエルフも多いからな」


 ナディスさん曰く、魔法感知に長けているエルフ族の中でもこのように体内に流れ込む魔力を上手く読み取れない人は割かし居るそうだ。その為行使した魔法の威力がバラバラになることが多く、想定以上の威力を持った魔法を唱えてしまい敵味方事吹き飛ばしてしまう……なんて恐ろしい事故も起きるらしい


「では次は5の魔力、10の魔力と増やしていく……その変化を覚えるんだ」


 優秀なカラーズであるナディスさんはこのような魔力操作は得意だという、その為魔力は1ずつ調整して流すことも可能でこれを出来る冒険者は中々居ないとの事










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