第16話
「ここがダンジョン内か、凄いな」
「はい、照らされる光と言い流石世界三大大迷宮と言われるだけあります。」
アビスの大穴の外縁から階段状に下る階層、その第一層は確か地下のハズなのだが、天井には日光の様な日差しが燦燦と俺とトバリを照り付ける。
「……もしかしたら師匠もこの光景を見せたかったのかもしれません」
「確かに、ナディアさんならありそうだ」
俺が人間の冒険者をやっていた時はアビスの大穴のダンジョンはどこも狭く薄暗い場所が多かった。
勿論ダンジョン内に含まれる特殊な鉱石などで明るい場所も存在はしたのだが、流石に地上と間違う程の明るさは無い
「師匠から高価な時計を持たされた理由が分かりましたね」
そう言ってトバリが視線を向けるのは俺の手に持っている懐中時計、ある程度衝撃にも耐えられるように頑丈な造りになっているその時計はダンジョンへ入る際にナディスさんから渡されたものだ。
渡された時はなぜ時計をと思ったのだが、確かにダンジョン内が昼間の様に一日中階層を照らし続けていたら体内時計が狂いかねない、もしかすればこれも含めてこの階層で身体を慣れさせろ……そう言う考えもあったのかもしれない
緑が生い茂るダンジョンの草木を掻き分けるように茶色の物体が俺の足元まで迫ってくる。
焦げ茶色の毛並みを持った巨大なネズミ〈ガドラータ〉はその鋭いかぎ爪を使い地面を掻き分けながら赤い瞳がこちらを殺さんとばかりに光る。
『ギシャアアァァアァアア!』
素早い動きでパーティーの前衛を務めるトバリの警戒を掻い潜り後方で歩いていた俺に奇襲を仕掛ける。
知性があるとは思えないが、明らかに意図を持って襲ってきたガドラータに驚きはすれど身体が強張ることは無い
ガドラータが飛び出してその鋭いかぎ爪を持って俺の顔面を切り裂こうと草木から飛び出した瞬間を狙って構えていたメイスを振りかぶる。
グシャリとガドラータの茶色い毛並みを物ともせず、メイスを握った手にはガドラータの内臓を破壊したと思われる嫌な感触と音を感じた。
飛び出した瞬間、手を広げガドラータの腹の部分はがら空きだった。そこに質量のある物体が勢いをつけてぶつかればどうなるか?それを創造しただけでも軽く吐き気を催し、ゆっくりと内臓が破壊されたことでおびただしい程の吐血をしながら俺の前方数メートルまで吹き飛んだ。
何度か地面から跳ね、ピクリとも動かず絶命する。
「すいません!奇襲に気が付きませんでした」
こうやってダンジョン内の魔物と相対するのは初めてであろうトバリは数度の戦闘を行っているが、未だ動きとしてはぎこちない様子だった。
「いや、大丈夫だよ」
「しかし……いえ、もっと私が注意しておけば」
「余り気負わなくてもいい、ほら……解体しなきゃ」
巨大なネズミの様な姿をしているガドラータの様な生命体の死骸はダンジョン内で疫病が蔓延する懸念から余裕があれば解体もしくは焼却処分が指示されている。
魔物の死骸は少し特殊でちゃんとした手順で解体するとそのまま放置していてもダンジョンに吸収される。
ただ魔物の死骸の多くは換金できる優秀な素材となる部分が多いのでそのまま放置されて腐臭を漂わせるといった事は余りない
俺とトバリは一緒に膝ぐらいまである大きさのガドラータを解体していく、ちらりと横目で真剣な表情で解体作業を行うトバリの様子を伺うがガドラータの死骸を見ても気分を悪くしている様子はない
「ガドラータは十等級の魔石が心臓付近にあるはずだ。あとは毛皮が換金部位だからしっかり剥ぎ取ろうか」
「はい」
魔石とはダンジョンで産まれ落ちる魔物達が持つ特殊な物質だ。
例外とされる特級以上の魔石はあるものの、基本的には一等級、準一等級、二等級、準二等級、あとは3、4……と12段階の等級にランク付けされた魔石が存在し、どれもがダンジョン都市……ひいては周辺各国で幅広く使われるエネルギー資源だ。
魔道具と呼ばれる例え魔法適性がない人間であっても魔法と同じ効果を生む道具を魔石に含まれるエネルギーを消費して行使することができる。
その為、軍事から一般市民の日常生活まで幅広く使われる魔石は例え第一層の最下級モンスターであるガドラータの魔石でもちょっとした小遣い程度には売れるのだ。
毛皮と言った部位はその解体した冒険者の技量によって大きく値段が変わる。中には解体専門の冒険者をパーティーに入れるところもあるぐらいだが、今はそんな人は居ないので素人ながら換金対象である毛皮を剥ぎ取った。
そしてトバリが血だらけの手で持っているのは小さな木の実ぐらいの大きさな薄っすらと虹色に輝く魔石、無事にガドラータの体内から取ることができたようだ。
ミナト・ヤマダ 男 Lv:1→2
種族:ハイエルフ
耐久:8→8
魔力:-
筋力:13→16
技能:3→5
俊敏:11→13
幸運:-
「お、レベルが上がったな」
「私もです。筋力と俊敏が特に伸びています」
その後も数回ガドラータを狩り続け、胸に閉まっていた冒険者カードが振動する。その振動は持ち主である冒険者のレベルが上がった事を教える機能だ。
今も昔も変わらないんだな、とどこか懐かしくなりながらレベルアップで更新された情報を読んだ。
トバリ・ハヤセ 女 Lv:1→2
種族:ヒューマン
耐久:10
魔力:0
筋力:15
技能:4
俊敏:13
幸運:3
【魔法】
【特殊技能】
〈
・剣士として才能に恵まれる。
魔力以外ではトバリと俺のステータスは余り変わらないようだ。お互いダメージを受けていないので耐久は伸びていない
この世界に置いて魔法のステータスは他のステータスのどれよりも重要な物であり、それがエルフを最優の種族と至らしめる訳だが、それ以外のステータスの伸びであれば意外と変わらない
まぁその魔力があると無いとでは天と地ほどの差があるわけなのだが……それを考慮しなければステータスが良いのは獣人だったりする。
魔力でも負け、他ステータスでも負ける人間種が劣等種と揶揄されるわけだが、実際に獣人種が同レベル帯なら筋力や俊敏はこれからプラスして10ぐらいは高くても可笑しくはない
そして種族的特性によってレベルアップによるステータスの伸びも良い、勿論個人差はあるが身体能力で言えば獣人と人間は歴然の差とも言えた。
ただ幸いな事に一部の獣人族を除けば誤差レベルではあるものの魔法適性は人間の方が高い事もある。そして人間は魔法属性に関しては優秀なので魔力さえあれば様々な魔法が使えるのが強みだ。
これは人間がこれまで生きてこれた大きな理由の一つでもある。まぁ一番大きな理由は魔道具の登場なのだがそこは割愛しよう
「やはり耐久の値を伸ばすためにもある程度は攻撃を受ける必要があるのでしょうか?」
「どうなんだろうな、ナディスさんは言うには下層のモンスターは多少の耐久があっても意味ないみたいな事を言っていたし」
最善は攻撃を受けない事だが、攻撃を受けないと耐久の値は伸びない、ただそれは防具によってある程度カバーできるため耐久と言うステータスは結構低く見られがちだ。
実際に耐久が全く上昇していない冒険者も結構な割合で居る。ただ耐久はそのまま魔法の抵抗力の強さも兼ね備えているので全くの無意味と言う訳でも無い
魔法の抵抗力とは幻術だったり呪いと言った類から、火や水と言った攻撃魔法に対する防御力を指す。冒険者パーティーの役割の一つとして敵の注意を引きつけるタンクという役割があるが、
このタンクの役割を持つ種族の多くは耐久や筋力のステータスが高い獣人に優秀な冒険者が多い、身体を苛め抜き高めに高めまくった高耐久のステータスを持つ冒険者は時にはエルフの冒険者よりも需要が高かったりする。
ただ俺とトバリの師匠であるナディスさんはタンク職という物に余り意味を見出していない様子だった。
ナディスさんが言う下層とは歴代でも挑戦した冒険者が決して多くないとされる40層以降の階層にあたる。
ナディスさん曰くそこまで階層を降りると出現するモンスターも強力で生半可な耐久力と防具では歯が立たないのだと語った。
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