第2話
転移トラップによって放り出された場所から離れて数百メートル、暗闇が広がる未到達領域を隠れながら進んでいたらとある遺跡を見つけた。
石材で建てられた廃墟かと思った。ここも昔滅んだ文明が流れ着いたものなのだろうと思い建物に触れた瞬間、その廃墟に使われている建材が見た事が無いもので出来ていると分かった。
それは同じような遺跡が存在する第七階層のと違い黒曜石のように黒く少ない光量すら吸い込んでいた。
「これ、魔鉱石を加工したやつか?」
近くに魔物の気配が無い為、常備してある松明に明かりを灯し周辺を照らす。松明の明かりに照らされた周りには多少朽ちた様子ではある物の傷一つ付かない魔鉄鋼で作られた建物が壁に埋め込んだ形で現れた。
「すげぇ、これひと欠片でも地上へ持って帰ったら大金持ちだ」
近くで松明の明かりで照らしてもその光を吸い込む漆黒の鉱石は魔鉄鋼と呼ばれ、別名黒いダイヤと呼ばれる非常に価値の高い物だ。
主に高性能な魔道具の媒介として使われ、指の爪ぐらいのサイズであっても小さな小屋を建てられるぐらいには大金になる素材で、俺らの様な下っ端冒険者はこの魔鉄鋼や加工前の魔鉱石を血眼で探す。年に一度のペースで見つかるので殆ど宝くじ感覚だ。
そんな魔鉄鋼が砦と思われる巨大な建物の全面に使われているなんて誰が信じるのだろうか、今現在見ている俺ですらまるで夢なんじゃないかと思う程の衝撃的な光景だ。
ただ悲しい事にこの魔鉄鋼を持ち帰る術を俺は持ち合わせていなかった。
魔鉄鋼は非常に硬く、専用の工具が無いと加工すら出来ない例えHR8の人外じみた力を持つ冒険者であっても傷一つ付けることが出来ないだろう。
その為俺はこの魔鉄鋼で作られた砦を指をくわえてみる事しかできない、まぁ単純にここは冒険者カードですら測定不可能な奥地なので地上へ帰還する事すら不可能なのだが
そんなトレジャーハンター専門の冒険者が見たら発狂ものの光景を見つつ砦の内部を探索する。半分ダンジョンの壁に埋まってしまっているが、幾つかの部屋は入ることが出来るようだった。
不気味なほど黒い魔鉄鋼で出来た壁や床に足を取られないよう注意しつつ、周辺を探索する。気分は泥棒になったイメージだが、この手の作業は第七階層では良くあることなので手慣れたものだ。
「めぼしい物は見当たらんな……」
魔鉄鋼で出来た砦だから内部はどれだけ価値があるのか、と期待したのだが生憎内部には木片の様な残骸や昔使わていたのであろう鉄鍋と言った生活用具しか落ちてなかった。
折角人類未踏の地まで飛ばされてしまったのだから伝説の剣や魔法の杖等見つけたかったのだが、運命はそう易しくないようだ。
フシュゥゥゥゥゥ...........
そんな感じで砦内部を探索していたのだが、粗方探索し終えた直後、獣の息遣いの様な音が聞こえた。
俺は節約の為に使用を止めていた
(う……そ…………だろ?)
絶句という言葉が似合うだろうか、余りの恐怖で叫び声すら出なかった。生命の放棄、この
三つ眼が横に連なり、爛々と暗闇に輝く赤い眼に縦に並ぶように二つの口がある異形の存在。
最上級モンスターとして有名な竜を彷彿とさせる大顎に、白く輝く牙はどこか神々しさすら感じた。
全身は蛇の様な見た目をしながら、その表面は甲虫の様な甲殻に覆われムカデの様な姿をしているがその凶悪さは比類出来ないレベルだ。
折りたたまれた羽の様な物が二つその魔物に追随しており、どういう原理か知らないが時折その羽を展開させては青く輝いた粒子を放出していた。
(体調が悪い、変な病気を貰ったか?)
この世に存在するとは思えない生命体から息を顰めるように逃げて、更に奥地へと進んでいた。
魔鉄鋼で出来た砦がめり込んでいたダンジョンの壁側には人が一人分入れる小さな穴が存在し、そこに這うように進んでいた。
見た感じここにいる魔物達は皆巨大な身体をしているのでこの狭い場所には入り込めないだろう、そう思い行く当てもないこの小さな穴を進んでいる。
そんな道中、思わず肺が軋むような痛みに襲われた。ゴホッと大きく咳をすると暗く見えないが口を押えた手に何やら液体が付着している様子だった。
ダンジョン内に置いて未知の病原体が存在するというのは聞いたことがある。このアビスの大穴では報告例は無いが遠い大陸にあるオブの大森林ではこのような未知の病原体が冒険者を襲い何万人と言う死者を出したとも文献に残っていたはずだ。
人類未到達階層ならこのような報告例の無い事も起きうるか、いよいよ俺の命も尽きたな、なんて内心ではもう無理だろうと絶望が心を支配する。
どうせなら先ほどの異形の魔物に食い殺された方がよかったか、魔物と戦って死ぬなら冒険者としてはある意味本望だろう、こんな身動きが出来ないような狭い空間で病死なんて何とも情けない事限りない
もう身体すら満足に動かない状況でカチリと聞き覚えのある音が聞こえた。すると這いずっていた胸の部分から見覚えのない魔法陣が展開される。
「ハッ、ここまで来れば悪運も極まっている」
淡く赤色に輝く魔法陣はダンジョントラップ、しかもこの奥地へ飛ばされたランダムテレポートの類の転移トラップだろう、本来であれば人生で一回経験するかしないかと呼ばれる珍しい罠に一日で二度もかかるなんてここまで来れば笑えて来る。
「これは……」
転移トラップは基本的に現在いる場所から下の階層しか転移しない、次は魔物の目の前かそれとも更に過酷な環境の奥地か半ばあきらめていた状態で目を見開いてみればそこは巨大な琥珀の様な物体が視界一杯に広がっていた。
「これはダンジョンコアか?しかしこんなに巨大なやつなんて聞いたことないぞ」
ダンジョンコア、ダンジョンの心臓部と言われる基本的にダンジョンの最下層に存在すると言われる巨大な未知のエネルギー体だ。
町一個分の大きさのダンジョンで大体りんご一個分の大きさのダンジョンコアが取れる。ダンジョンコアは非常に貴重な物で、このダンジョンコアを引っこ抜くと人類に益をもたらすダンジョンが使えなくなるなるので流通することはまず無い
ただ過去には例外もあって、不利益となるダンジョンを取り潰した際に入手したダンジョンコアが大爆発を起こし、そこに設営していた軍施設を吹き飛ばし一帯の地形を変えたとされる程の強大なエネルギーを持つと言われている。
その時のダンジョンはCクラスのダンジョンでその際入手したダンジョンコアは精々人の膝元ぐらいまでの大きさしかないスライムぐらいの大きさだろうと言われていた。それぐらいのサイズで連なる山三つ分ぐらい吹き飛ばしたのだからもしこれがダンジョンコアだった場合、爆発すればカイネス大陸全土を吹き飛ばしてしまいそうだ。
ギルドの資料の挿絵で見たダンジョンコア特有の黄緑色の淡い燐光の美しさに思わず目を奪われる。冒険者は希少な素材を持ち帰ったり人類未踏のエリアを踏破したり等ばかりが重要視されるが、普通の人生を生きていれば絶対見ることが出来ないような絶景を見たりすることも冒険者の魅力の一つだ。
魔法センスの無い俺ですらはっきりと感じる未知のエネルギーの奔流に思わず手を出してみる。硬い結晶に覆われているかと思えば手をかざしたらツプッとスライムに触ったかのような柔らかいゼリーのような感触が手に広がる。
未知の病原体とは恐ろしい物で咳込んでから体感数十分であるものの、もう碌に身体を動かす事すら出来ない
ダンジョンコアの淡い燐光に輝く手を見ると手の甲には黒い蚯蚓ののたくったかのような模様が浮かび上がっていた。
気が付けば右目の視界は奪われており口内も何やら痺れている気がする。
「ら……あ……」
呂律も碌に回らない状態で手のひらをダンジョンコアが温かく包んでくれる。
どうせ死ぬらな世界三大迷宮と謳われるダンジョンの一部となって死にたい、そんな気持ちがかすれた意識の中を埋め尽くし全身を擲つかのように飛び込んだ。
その直後、俺の意識は無くなった。
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