第20話

 闇討ちは警戒していればそこまで脅威ではない、だから彼らが襲ってくるのが何時どの場所かが肝心になる。


 この様な対冒険者の戦闘も経験が豊富なナディスさんは襲撃を防ぐのに適した魔法を教えてくれた。


『我は400の魔力を消費することで千里を見通し、万物を直視する』


 千里眼、発動者を中心として円を展開しその範囲内を知覚する中級時空魔法の一つを唱える。

聖銀なる魔力ミスリルマジック〉によって強化された『中級時空魔法・千里眼』は第一層よりは小さいがそれでも十分な広さを持つ第二層の入り組んだ洞窟の全体の約半分を覆う、その範囲内に居る敵や宝箱、冒険者と言ったあらゆる事象を確認することができる。


「うん、あいつらもちゃんと追ってきているようだ」

「予想通りでしたか、師匠から教えて貰っておいてよかったですね千里眼の魔法」


 全くだ。三日かけて何とか発動まで出来るようになった覚えたての時空魔法しかもその中級をちゃんと発動したのを確認して第二層の洞窟を探索する。


 中級魔法ともなると知らない魔法言語が多く、今回は緊急だったので中級魔法言語をちゃんと覚えた訳では無い

 だからちゃんと理解している訳ではなく、一応魔法として使えると言った感じだ。突貫工事なので他の中級魔法に転用することも出来ない


 ただそれでも空から見通しているかのようにダンジョンの内部を見渡すことができる。不思議なのはその範囲に上下はあるものの、階層が変わる部分だとピタリと遮られて真っ暗になってしまう所だった。


(階層越しで見通せないのは不便だが……おぉちゃんと見えているな)


 千里眼で集中している為、先頭はトバリが警戒して歩いて貰っている。俺はその後ろをピタリと付いていく形で、その遥か後ろには例の三人組が同じルートを辿っていた。


「不思議だ。こんな暗い場所なのに間違えることなく追跡している」

「スキルにはこのような追跡に特化した物があるのかもしれません」


 周囲の警戒を解くことなく話すトバリになるほどと納得する。レベルアップで覚えたスキルなら魔法適性が無くても使用できるしその様なスキルがあっても可笑しくは無かった。


「トバリ、ここでいい俺はスキルで身を隠すから彼らをあぶりだしてくれ」

「はい、了解しました」


 着いた先は二手に道が分かれる少し開けた空間だった。

 ポタリと天井からは雫が垂れ落ち、小さな水たまりを形成している。


 ここで迎撃しようと俺が提案するとトバリが小さく頷く、俺は覚えている〈光学迷彩カモフラージュ〉を使用する。

 レベルアップで覚えられるこのスキルは魔力を消費する物の魔力言語を介せず効果を発揮する。薄暗い洞窟内に同化する様にうっすらと俺の身体が透明になっていく


 すれば開けた空間にはポツンと取り残されたトバリが一人、俺は透明化したことによって入ってきた道の横に隠れる。すると


「あれぇ?トバリちゃん1人でどうしたのかな?」


(ギルドからずっと着いてきたくせによく言う……)


 きょろきょろと俺の様子を探す様に指で輪っかを作ってそれを除いた動きを取る。その様子は彼らの背後を取った俺からしたら酷く滑稽な物だが彼らは俺に気が付いた様子はない


「あんな奴まぁいいや、俺らの目的はトバリちゃんなんだし」

「……なんですか、態々こんなところまで追ってきて」

「いやぁ?前も言ったようにトバリちゃんを勧誘しているだけだよ」

「どうだか」


 トバリには珍しく嫌悪を浮かべる表情をしていた。ケッと軽く唾を吐き戦闘できるように腰に携えている剣に手を沿える。


「おやぁ、いいのかな?君は鉄等級になったようだけど僕は同等級、しかも君と同じ鉄等級の冒険者が後ろに二人いるんだよ?」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。ラスティールの都市で出会った浮浪者もそうだったが、似たような笑い方をする奴らが多すぎる。男の口調は丁寧だが言葉の端々からはトバリを軽視する考えが見て取れるし、何を想像しているのか頬を赤らめていた。


「ラノンは良い都市だけどさー、風俗が高い唯一の傷なんだよねぇ……行きずり女がいないから金がかかるし・・・・・・まぁ潔癖症なエルフだったら仕方の無いか」

「で、私と何の関係が?」

「ほら、君とっても可愛いじゃん?で仲間なんだから女としてそれぐらい手伝う義務はあるでしょ」


 何を言っているんだといった様子で語る男だがお前こそ何を言っているんだと


 正面で男の話を聞くトバリも嫌悪どころか呆れすら感じているようだった。


「馬鹿を言わないでください、あなた達がどうなろうが私が知った事ではありません、別を当たりなさい」

「でもトバリちゃんずっとフードを被った辛気臭い男と一緒に居たら女でも溜まるもんは溜まるでしょ?いいじゃんWINWINな関係だよ」

「下種が」


 それがトバリの琴線に触れ、剣を抜いた。薄暗い洞窟内でもきらりと光る剣身ににやりと男は笑いそれぞれ武器を手に取る。


「あーあ、せっかく誘っただけなのに武器を抜いちゃったねぇ……こりゃ正当防衛だ」

「何を言ってるんでしょう?喧嘩を売ってきたのはあなた達でしょ」

「それを知っている冒険者はどこにいるんだい?すでに君は武器を構えている……ほら」


 ぺらりと男が取り出した物は武器を構えたトバリが描かれた物だった。男はその紙をぺらぺらと揺らしながら勝利を確信した様子で話し出す。


「俺の手下のバドックは念写技能のスキルを持っている。本来なら役場とかで重宝されるスキルだけどね、これが意外と便利なんだ」


 念写技能とはそのバドックと言う男が魔力を消費することで手に持った紙に映像を映し出すという物だ。念写技能は書類や本を執筆する際に重宝するスキルなようで活躍が期待できる役場とかでは重宝されるらしいが冒険者としては外れスキルだ。


「これが良い証拠材料になるんだよ、冒険者は武器を構えた時点で正当防衛が成立するからね、これから君がどんなひどい目に合ってもこの紙があれば反論出来ないって訳」


 なるほど、彼らとしてはこういう手を使って色々と悪さをしているんだろう、だから挑発する姿はどこか手慣れた様子があった訳で。彼らの最大の目的はトバリに武器を構えさせその姿を念写することだったか


「……真実薬は?」

「ハハハハハ!人間如きに高価な真実薬をあのエルフたちが使う訳ないだろ!いい加減俺たちの物になれ!」


 もう我慢できないといった様子で下半身のズボンを膨らませながらトバリに襲い掛かる。


「おまえた「失せなさい」」

「があああああああああああっつ!!」


 はぁ、と同じ男として何とも情けない姿にうんざりしながらメイスを振り降ろそうとスキルを解除した瞬間、トバリに襲い掛かった男たちの絶叫が洞窟内に響き渡る。


「う、腕があっつ!!!!」

「馬鹿な奴ら、そんな腕を突き出していたら切り落としなさいと言っているような物でしょう」


 チャキンと腕を切り落とした際に剣に付着した男たちの血を振り払い鞘に納める。その光景は歴戦の冒険者を想像させる。


「お前っ!こんなことをしてギルドが黙っていると思ってんのか!は、犯罪奴隷落ちだぞこれは!」


 眼をかっぴらいて叫ぶように告げる男、確かにパッと見ればトバリは男たちの腕や足を切り落とした凶悪犯だ。彼女の周りは男たちの血で海となっておりそのまま放置すれば失血死さえあり得る。


「大丈夫よ、あなた達の悪行はちゃんとわかるから」

「は?」

「私の知り合いにエルフの人がいるの、だから真実薬は用意できるって」

「んな……馬鹿なわけあるか」

「それは地上に戻ってから分かるわ、だから今はその不快な視線を私に向けないで」


 ガッと俺でも知覚できない速度で剣の腹の部分で男たちの後頭部を殴り気絶させる。



「……すまない、なんか一人でさせてしまったな」

「いいのです。女としてこんなやつらに腹が立っていたので、私こそミナト様の作戦を台無しにしてしまい申し訳ありません」

「態々謝らなくていい、元は俺が顔を隠してるのもいけないんだから」


 話を聞いた後だと消し炭にしてもいいかなって思っていたが、それすらする暇もなくトバリが無力化させてしまった。昨日も彼女の剣筋を見てきたはずだがこれまで速い剣筋は初めてだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る