第32話

 西地区の散策は酷い目にはあったものの、その後、西地区を抜け南地区までやって来た。


 最初はトバリがシスターがいる教会も近いため、少し見に行こうと思ったが、ライザから仕事仲間の休暇を男性が邪魔をするのは無粋な行為と言われれば男のミナトからすれば行きづらい


 南地区はラノンの都市と交易を開いている諸外国が集う地区なので、その一つにはライザの生まれ故郷であるサンディアス帝国の領事館もあるそうだ。


 南地区でも比較的行政区がある都市の中央寄りに各国の領事館が集まり、周囲にはそれら仕事に就く外交官の家族達が住む住宅街もあった。


 ライザの遠い親戚もいるそうで、会いに行く?と聞いてみれば任務の関係上、自国の人間にもミナトの存在を教えることが出来ないから行けないと言われればあとは楽しく、多種多様の文化が彩る商店が立ち並ぶ表通りを一緒に歩く


 個人的にこの南地区の雰囲気は好ましい、単純に雑多に入り交じる文化がエルニアを思い出すのが大きいが、それを抜きにしても北地区とはまた違った落ち着きのある賑わい、どこか矛盾した言葉だが喧騒が似合う北地区と違う雰囲気がすきだった。


「私の生まれ故郷ではこのマレーナ式魔法技術書が読まれています」


 様々な国の品物が並ぶ南地区の表通りの一角にはライザの生まれ故郷で使われていた品物も並んでいた。


 薄暗く、ホコリっぽい古本屋にはマレーナ式というライザの国で一番普及している魔法の参考書が売られており、特に重要な火と水属性の本を購入した。





「なるほど、これはこれで面白い」


 トバリは協会で優れた冒険者として有名なシスターから武術について学んだそうだ。


 ロマ教四術と呼ばれ、剣術、槍術、弓術、徒手格闘術の4つを合わせた意味であり、戦闘神官と呼ばれる武装した教会が持つ軍事部隊では皆が優れた武術を収めているという


 その中には先日トバリが苦戦した第五層の真っ赤な亀のモンスター『ダントル』のような剣では倒すことが難しい、ただロマ教武術にはそれらの硬い守りを持つ敵に対しての対処法もあるそうで、レベルアップのために休日返上で教会へ出向いて学びに言ったそうだ。


 そんな中で休日とは言え遊び歩いたのは少し気まずい、トバリは気にしないだろうがミナトが気にするのだ。


 ただ休日出歩いたお陰で新たな発見をしたのは嬉しい、ライザから勧められた魔法の参考書だ。


 マレーナ式魔法技術書と題名された本にはそれまで学んでいた本と違い、魔法を行使する上で必要な魔法言語の単語が書いているわけではなく、その応用や魔法の仕組みに付いて詳しく解説していた。


 元々暗記自体はそこまで難しくはなく、一回読めばそうそう頭から抜けないこの優秀な頭脳には相性が良い、だからこそ別視点で語ってくれるこの本が余計に面白く感じたのだ。


 なので単語だけで言えば結構な数を覚えている。毎日暗記の勉強をしているとはいえ、忘れにくいと言うのは勉強する上で凄く役に立つ、冒険者カードには無い隠れた特性とも言えた。






『魔法には初級、中級、上級、特級と分かれますが、更に細かく分けると第一位階~第十位階まで分けることが出来ます』

『第一位階から第三位階までが初級と呼ばれる魔法で、中級なら4から6、上級なら7から9までの位階魔法が分類されます』

『それ以上の非常に強力な魔法は全て第十位階魔法と呼ばれ、特級魔法と呼ばれます。ただ特級魔法にも強さに差があります』


 マレーナ式魔法技術書によれば、初級火魔法・火球は第一位階魔法に位置し、その上位の大火球は中級魔法の一番下の第四位階魔法になるそうだ。


 以前、ナディスさんと比べてみた火球魔法の威力について、ナディスさんの監修の元、ミナトが発動する際に感じ取れる魔力量を調べた結果、込める魔力量に多少のブレ幅はあったものの、規定値からそこまで変わらないとのこと


 であれば魔法の威力を増加させる特殊技能〈聖銀なる魔力ミスリルマジック〉が関係してくるわけだが、ミナトの第一位階火魔法『火球』の威力は、第四位階火魔法『大火球』に匹敵すると言われた。


 それ以外にも、『中級時空魔法・千里眼』は本来であれば複雑な地形や壁の裏側などをせいぜい百メートルを見通すのが限界だと本には書かれていた。ただしかし、ミナトが第五層で使用した千里眼は倍以上の半径数百メートル及ぶ範囲を見渡し、巨大な階層の約半分を見通してみせた。


 仮定ではあるものの、単純な威力や効果だけであればこの聖銀なる魔力ミスリルマジック〉は3つ分の位階を上げてくれる特殊技能になると思われる。


 これが正しいのかはまだ情報が少ないので確定出来ないが、そこまで外れたものでもないだろうと思う、そしてこの結果からミナトの勉強方針は大きく変わった。


(うん、中級言語に比べたらやっぱり初級言語は楽だな)


 今の現状でさえ、過剰な火力を誇っているので、態々中級魔法を勉強するよりは各種属性の初級魔法を覚えたほうが良いのでは?と考え途中まで行っていた火と水の中級魔法の勉強を切り上げ、風、雷、聖属性の初級魔法の勉強を始めた。


 と言いつつも、覚えるのは属性詞だけなので一から学ぶよりは幾分楽ではあるが、全部の属性に適正があるので流石に一気に覚えるのは難しいと思い、回復魔法が使える聖属性を含めた3つの属性の勉強を始めた次第だ。



『治癒』


「おぉ、痣が一気に消えました。ありがとうございますミナト様」


 次の日の朝、シスターの訓練はよほど苛烈を極めたのか、いつも早起きのトバリが起きたのは午前の9時を過ぎようとしていた頃合いだった。


 トバリの綺麗な肌には痛々しい打撲痕が幾つも見受けられ、少し揺すってみてもピクリとも反応しないので、そのまま起きるまで静かに魔法の勉強をしていた。


 そしてトバリが起きてすぐ、覚えたばかりの初級聖魔法・治癒を行使して未だ傷の残るトバリの肌を治した。


 本来であれば聖属性の魔法は教会に出向き、祈祷から儀式といったものを積み重ねて実践で使えるレベルに適正値を上げるそうだ。


 なので聖属性の適正値100と他属性魔法の適正値100の難易度は全く違うそうで、聖属性の適正値100はその道に従事した人間が死に際にやっと届くと言われるレベルだそうだ。


「あれ、鼻血が・・・・・・」


 トバリにかけた治癒魔法は一瞬で、込める魔力も絞ったはずだがどうも治癒の効果が強すぎてトバリの鼻からはぽたりと血が垂れ、少し立ちくらみが起きている様子だった。


「す、すまんトバリ!いきなり治癒魔法をお前に使うのは良くなかった!」

「いえ、たしかに立ちくらみはしますが、腕以外の傷も治ってますので結果的には良かったんだと思います」


 どうもトバリの身体が元気になりすぎたようで、彼女の目はどこか充血しているようにも見えた。回復魔法もやり過ぎると害になる。被験者となってしまったトバリには悪いが彼女のお陰で回復魔法が万能では無いことを知ることが出来た。









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絶滅した種族に転生したけど俺は人間に戻りたい 青葉 @direl

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