幕間

ユージンの異変

 ユージン・ゴトランドは冒険者稼業に専心していた。その理由は妹であるプリムローズにあった。

 プリムローズの足が突如動かなくなったのは10歳の頃だった。医者に診せてもお手上げ状態が続き、何人ものの医者を巡り最終的に何らかの呪いが原因という結論に至った。

 プリムローズはリハビリの末に杖を使えば歩けるようには回復したが完全な解決には程遠い状態だった。ユージンはプリムローズにかけられた呪いを解くためにアヴァロニア各地の遺跡を潜る日々を送るようになったのだ。


◆◆◆◆◆


 王都アヴァロニアでも治安の悪い地区として知られているイーストエンド地区。ユージンはイーストエンドにある古い廃屋敷に来ていた。

 なぜユージンが廃屋敷にゃってきたのか。冒険者の依頼で子供連続誘拐事件の調査協力を依頼されたからだった。

「この廃屋敷のどこかに秘密の地下室の入口があるはずだが巧妙に隠されているな」

 邪悪な魔術師の巧妙な隠蔽にユージンは悩まされていた。

 かれこれ一時間は探っているが目に見える成果は出てこなかった。

 ユージンは冒険者としての鋭い瞳で大広間を見渡していた。

「ユージンさん、この絵画、なにか怪しくないですか?」

 ユージンは大広間に掛けられた絵画を見た。そこはかとなく違和感を感じた。ユージンは絵画に入った額縁を外してみた。

「……これはスイッチ? なるほど、絵画でスイッチを隠しているわけか」

 ユージンは躊躇なくスイッチを押した。仕掛けが動き出し、暖炉が横にスライドして地下への階段が出現した。

「中に踏み込もう」

 ユージンは静かに地下へ降りていった。

 

 それからユージンが地上に戻ることはなかった。


◆◆◆◆◆


「お兄様、戻ってくる時間が遅いですね。何かあったのでしょうか?」

 プリムローズは夕方を過ぎても戻ってこない兄を心配していた。

 いつも明るいプリムローズも今回は少し険しい表情を見せる。プリムローズはちらりと暖炉の横で惰眠をむさぼる黒猫を見た。

「グシオン、お兄様はどこで道草を食っているのかしら?」

 すると、黒猫――グシオンは器用に耳を動かし喋った。

「……そんなこと言われても俺の知ったことではない。そんなにユージンの行方を知りたかったら冒険者ギルドに話を聞いたらどうだ」

 グシオンは投げやりな提案をした。グシオンにとってはユージンはほとんど興味の範囲外のようだ。

 すると慌てた様子でゴトランド家の使用人がプリムローズに駆け寄ってきた。

「プリムローズお嬢様! 大変なことになりました! この手紙を読んでください!」

 プリムローズは使用人に促されるままに手紙を読んだ。内容を理解したプリムローズは思わず手紙を取り落としだ。

「お兄様が誘拐された!?」

 衝撃的な出来事にプリムローズは卒倒しそうになった。

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