アヴァロニアの六王

 数10分後、ベッドの上でアレックスは意識を取り戻したが、アレックスはまだ夢心地であった。突如召喚された赤髪のヘレティックで肉感的な女魔王にハグされたのだ。さっきの夢だと思い込むには無理もない話だった。しかし現実には美しき女魔王、アスタロトはベッドの横でアレックスを見守っていたのだ。

「マスターの意識が戻ってきてよかった……このままマスターが死んじゃったら、お姉ちゃん路頭に迷っちゃうことになってたよ!」

 アスタロトは自分がアレックスを気絶させた張本人だということに気づかないまま、アレックスのことを心配していたのだ。

「え、えっと……アスタロトさん、彼方の地からやってきたそうですが、なぜ僕のところに来たのですか?」

 アレックスは声を震わせながらアスタロトに質問した。魔王は強大な存在でありそれを倒せる冒険者など片手で数えるほどいないはずである。なぜ自分の前に召喚されたのであろうか? 心当たりがあるならば今、自分が身に着けている腕輪以外にあるまい。しかし、なぜこうなった? アレックスは純粋に疑問に感じた。

「マスター、答えは簡単だよ? キミが身に着けているアーティファクト六王の腕輪に選ばれたんだよ」

「えっ、六王の腕輪? あのおとぎ話の?」

 アレックスは困惑した。古いおとぎ話では古代アヴァロニアの英雄王、ヴィクトリアス・ペンドラゴンは六人の魔王を従えて、アルビオン大陸の諸王たちをアヴァロニアの王座のもとにに屈服させたと書かれていた。そんなおとぎ話の産物がなぜ古い遺跡に転がっていたのか?アレックスは甚だ疑問であった。

「真実は歴史を超えるものだよ、マスター」

 アスタロトに諭されてしまった。

「先代マスター、つまり英雄王ヴィクトリアスが亡くなってから、あたしたちアヴァロニアの六王を召喚する簡易術式を施された腕輪は王朝の交代によって散逸してしまったの」

 なるほど、王朝交代の流れによって行方不明になったのか。――まぁ、歴史とはそういうものなのかな。とアレックスは思った。

「そういう紆余曲折を経てマスターにたどり着いたんだよ。マスター、嬉しいでしょ? アヴァロニアの歴史を切り開いた伝説の6人の魔王の権能を思うがままに使えるんだよ?」

 そう言うとアスタロトは屈託もなく笑った。アレックスは苦笑いした。

「僕はキミからしたら異国であるエリンから来たいわば異邦人なんだ。それがアヴァロニアの六王の腕輪の継承者とはとんだお笑い種だよ……しかも僕はただの一冒険者、まったく釣り合わないよ」

 アレックスはやや謙遜気味にいった。アスタロトはしかしそんなことは認めないといった表情をした。

「そんなこと言ったらお姉ちゃん悲しい! マスター、冒険者という立場に甘んじるんじゃなく成り上がりを目指そう! お姉ちゃんたちもマスターのためにがんばるからね!」

「えぇ!? そんなこと言われても!」

「大丈夫大丈夫! マスターはアヴァロニアの六王の契約者なんだから、すぐに成り上がれるよ!」

 アレックスは思った。――これから自分はどうなっていくのだろう。その答えは誰にもわからなかった。

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