ウチは迷宮の国だから依頼なんてはいて捨てるほどある
パーティを結成することになったアレックスとアーニャ、まずは依頼を探すことにし、賢者の鉄槌のフロアに降りてきた。すると受付嬢のエミリアがニコニコ顔でアレックスに声をかけていた。
「アレックスくん、無事にパーティ結成できたんだね。良かったよ」
「おかげさまでパーティ結成することになりました。エミリアさん、パーティメンバーの斡旋をありがとうございます」
「いいんだよ……賢者の鉄槌のギルドメンバーとしてやることしただけなんだから」
エミリアは心底安堵した表情を見せた。
「で、さっそく何か、都合のいい依頼はないかしら……簡単な依頼でもいいわ」
アーニャは依頼の催促をした。動きが速い!
「早速でパーティで依頼か、まずは簡単な迷子の猫探しとかはどうかな?」
「いや、そんな依頼より、遺跡探索とかの依頼のほうがいいわ」
「それなら、クランツ・フィルディナット博士から遺跡周辺の哨戒依頼が来てたから、それにしたらどうかな? 」
「クランツ博士か……あの人は変わり者だけと支払いがいいから、その依頼にします」
「じゃあ依頼受託ということで……行ってらっしゃい。未来の大冒険者よ!」
あっという間にパーティの初依頼が決まったのである。これからアレックスとアーニャの初めての冒険が始まる!
◆◆◆◆◆
アレックスとアーニャは移動がてらクランツ・フィルディナット博士についての話をしていた。
「アレックス、クランツ・フィルディナット博士は何者なの」
「アーニャ、あの博士はアヴァロニアきっての魔術の天才だけど魔術師ギルドには属さずに一人で魔術の研究しているんだ」
「へぇ……魔術師ギルドの後ろ盾を持たずに研究する在野の人なのね。それで人が必要だから冒険者を雇うのか」
「そうなんだけど、クランツ博士の得意分野は錬金術で、彼は自作のオートマトンで遺跡を探索しているんだ。だから冒険者とオートマトンにサポートをしてもらっているんだ」
「なるほどね……」
そんな雑談をしながら歩くアレックスとアーニャの姿はまるで冒険者には見えなかった。周囲から可愛い二人組だと思われていた。アレックスその視線に気づき落ち込んだ。
数分後、アレックスとアーニャはクランツ・フィルディナット博士の屋敷についた。その屋敷の窓から黒い煙のようなものを噴き出していた。いかにも錬金術師の住む屋敷といた風情だ。
「で、ここがクランツ博士の屋敷……なんか黒い煙を吐いているけど大丈夫かしら?」
「クランツ博士の屋敷が煙を吐いているのはいつものことだからね……さて門扉を開けよう」
アレックスは物おじせずクランツ博士の屋敷の門扉をたたいた。
「こんにちは! 冒険者です! 依頼の内容をお伺いしに来ました!」
するとメイド服をした精巧なオートマトンがやってきて速やかに門扉を開けて屋敷の中にアレックスとアーニャを案内した。アレックスとアーニャは静かにオートマトンの後をついていった。
オートマトンは二人を応接間に通した。そこには簡単な果物が置いてあった。主人が来るまで果物でも食べて待ってろと言うことだろうか? 仕方ないので二人は果物を食べながら待つことにした。
しばらくそう過ごしていると応接間近くの扉が開き、ゆっくりとクランツ・フェルディナット博士と助手のオートマトン、ギャラハドが姿を見せた。
「久しぶりだね……アレックスくん。パーティを追放されたというウワサは聞いていたけど新パーティを結成したんだねェ……」
クランツ博士は穏やかそうな顔でアレックス達を見ていた。しかしどこか不安げなアトモスフィアをアーニャは感じていた。
(大丈夫かしら……)
(多分、大丈夫だと思う)
アーニャとアレックスはひそひそ話をしていた。
「マスター……冒険者たちが不安そうな表情をしています。速やかに不安そうな空気を緩和してください」
「いけないいけない……研究漬けの毎日を送っていると他者の視線が見えなくて困るねェ」
アハハと笑いながら取り繕うクランツ博士。彼の笑いと連動するように蒸気の音が響いた。
(やはり大丈夫かしら?)
アーニャはこの人は大丈夫なのかとても心配だった。
「マスター、とりあえず依頼の話をしましょう」
「そうだねぇ……雑談の相手をさせるわけにはいかないもんねェ」
ようやく依頼の話に入るようだ。
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