悪徳の魔獣使い
エルフの里にほど近い大樹の上、一人の怪しい仮面をつけた男がエルフの里を睨んでいた。
「まさか、大蜘蛛に続いてグリズリーがやられるとは……こんな事態は想定外だ」
シャーウッドの森は王都アヴァロニアから遠く、村人とエルフは安寧な日々に堕落しており実験場にはうってつけの狩り場だった。まさか、王都から強い冒険者が派遣されるとは思わなかった。
「しかし、シャーウッドの村に逃げ込まずエルフの里に逃げ込むとは不幸中の幸いか。エルフの里は八本足が存在した痕跡を隠滅するには都合がいいからな」
魔獣使いがクククと笑うと首から下げていた笛を吹いた。すると彼の手によって強化された獣たちが男の前に集まってきた。魔獣使いは集まってきた獣たちを見下ろすと自らの身体を異形に変化させた。その姿はフクロウとグリズリーのキメラのようだ。
「獣どもよ……狩りの時間だ」
魔獣使いがそう囁くと獣の声が一面に響き渡った。
◆◆◆◆◆
「あの八本足がシャーウッドの森の獣の凶暴化に関与している!?」
冒険者パーティーは衝撃的な事実に戦慄していた。八本足は魔術を追求するあまり外法に手を染めた邪悪な魔法使いの秘密結社だ。そんな凶悪な魔術師がシャーウッドの森に潜んでいるとは冒険者の予想の範疇を超えていた。
「八本足がアヴァロニア王家ゆかりの地とはいえ、辺境に近い森で活動してるなんて……」
アーニャの声は震えていた。彼女は北方連合の出身だ。八本足の悪行はいくつか伝え聞いているようだ。
「しかし、ティターニア様にその情報を渡したアヴァロニアの密使とは何者なのですか?」
ノエルは冷静にティターニアにその情報を提供した密使は何者かを尋ねた。
「申し訳ありませんが、顔は黒ずくめのローブで判別できませんでした……ただアヴァロニアの密使だと言ってきたのです」
ティターニアは申し訳無さそうに答えた。
(ギネヴィア様の放った密偵ではないのなら一体誰が? まさか六王機関?)
ノエルは六王機関の関与を疑った。しかし、なんのために六王機関がシャーウッドの森に現れたのか。全ては謎だった。
◆◆◆◆◆
一方その頃、お留守番中のネーブルとレンシアはシータと仲良くのんびりしていた。
「シータ先生……あの冒険者パーティはどこから連れてきたの?」
ネーブルはシータに興味津々な表情でアレックスたちのことを聞いてみた。
(えーっと、冒険者ギルドを門前払いされた結果なんとか見つけたとは言えませぇん!)
シータはアレックスが依頼を受けた経緯をネーブルたちに伝えるかどうか迷っていた。
しかし、レンシアは外をずっと見つめていた。
「ん? レンシア……どうしましたかぁ?」
「いや、外の空気が何かおかしいんだ……ボクの気のせいじゃないといいけど」
ネーブルとシータは首を傾げた。
「ティターニア様!」
叫び声と共にエルフの門番が血相を変えて飛び込んできた!
「ど、どうかしましたかぁ!?」
「シータ先生! 大量の獣がエルフの里に向かって進撃しているのです!」
エルフの里に張り詰めた空気が漂い始めた!
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