マスコット系お姉ちゃんアスタロト!


 王都アヴァロニア。そのメインストリートの一区画に冒険者ギルド『賢者の鉄槌』が存在する。アヴァロニアで最大の冒険者ギルドである賢者の鉄槌は様々な情報と冒険の予感が飛び交っていた。

 賢者の鉄槌の二階には冒険者パーティと依頼人の秘密の対話をする個室が存在した。アーニャとアレックスを接触させるための待合室扱いは数少ない例外なのである。

 その部屋に新人冒険者パーティと依頼人の正式な面通しが行なわれようとしていた!

「重ね重ね申し訳ありません……今回シャーウッドの森の調査を依頼させてもらうキノコ研究家、シータ・マッシュスキーですぅ」

 黒ローブの隠者、シータは改めて自己紹介した。彼女の全身からは気弱そうな雰囲気を漂わせていた。

「はじめまして、アレックスです。アーニャと冒険者パーティを組んでいます」

14歳の少年サモナー、アレックス・オルムステッドはシータに挨拶を返した。挨拶をしっかり返事するのが依頼人との信頼関係を築く近道だ。これはユージン・ゴトランドの教えだ。

「マスター、この依頼人、気弱そうだけど大丈夫かな?」

 アレックスの横でヘレティックな雰囲気と衣装をした肉感的な赤い髪の小さなフェアリーっぽい少女がヒソヒソと内緒話をしていた。

「アスタロト、依頼人の目の前でそんなこと言わないの」

 アレックスはアスタロトを小声でたしなめた。

「まぁ、お姉ちゃんに任せてよ、思い出の地シャーウッドが危険な獣の溜まり場になるなんて許せないからね」

 アスタロトの茶目っ気のある口調の裏にはシャーウッドの森の変貌に対する怒りがあった。

「あのぅ……つかぬことを聞きますがアレックスさんの横で小声で喋るフェアリーはなんですかぁ?」

 シータは思わずアレックスに疑問をぶつけた。

(どうしよう……六王の腕輪に宿る彼方の地から召喚された魔王だなんてとても言えないよ)

 アレックスは答えに窮した。

「シータさん、これはお喋りなフェアリーよ。見ればわかるでしょ!」

 そこでアーニャが助け舟を出した。

「いや、お喋りなフェアリーはどうでもいいんですぅ……このフェアリー、位階の低いフェアリーにしては魔力が強いような気がするんですが?」

(鋭い!)

「きっと進化するタイプのフェアリーなのよ! そうに違いないわ!アタシ、サモナーじゃないからよくわからないけど!」

 アーニャは苦し紛れの弁明をした。それでも納得したのかシータはそれ以上追及することはなかった。


◆◆◆◆◆


――賢者の鉄槌、ギルドマスタールーム。

「エミリアくん、やはり若い子をシャーウッドの森に送り込むのは無茶だと思う」

 ロマンスグレーの長身のギルドマスター、カーライル・ハマーズは渋い顔をした。

「……それはこうでもしなければ騒ぎは収まらなかったですし、冒険者ギルド憲章に抵触します」

 エミリアはアーニャが依頼を受けなければならなかった理由を説明した。

「それに……前の依頼でこのパーティはゴブリンシャーマンの操るゴーレムを倒しました。このパーティはポテンシャルが高いと思います」

 エミリアの言葉を聞いたカーライルは渋い顔をした。

「……どんなポテンシャルのあるパーティでも危険にさらされるのは変わらんよ。だから、今回は私の独断で一名、傭兵をこのパーティに加えることで認めることにするよ」

「傭兵?」

 エミリアはカーライルに思わず質問した。

「たまたまアヴァロニアに実力のある傭兵が来ていてね……名前はノエル・ウィロウリヴィング。彼女に冒険者パーティの警護を依頼することで若い冒険者パーティの安全を確保したい」

 カーライルの言葉にエミリアは従う以外になかった。冒険者ギルドではギルドマスターの決定は絶対だからだ。しかし、内心ではエミリアは安心していた。ギルドマスターに呼び出されたとき、シャーウッドの森の調査依頼を握りつぶされると思ったからだ。若き冒険者パーティに幸運あれ。エミリアはそう祈った。

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