第21話 メリーゴーランドのオルゴール

 ~語り手・ルピス~


 10月になったわ。

 ご主人様から葡萄を送ってと指示があったので、町に出かけた―――訳ではない。

 リルたちに頼んだわ。出来るだけ上質なものを求めて旅行させた。

 魔女の箒の練習になるでしょう、帰ってきたら改良もできるでしょうね。

 もちろんお小遣いはあるわよ。

 人界の貨幣で金貨100枚づつと、魔界の貨幣は金貨10枚づつ。


 どうやらご主人様は、将来この子たちに店を任せたいようなの。

 私とラキスが魔界で働くようになるのもその時ね。

 今はまず、魔女としての力量を磨かないとね。あの年にしてはそれなりだけど。

 2人はこの間初めての殺人を経験した。

 もっと経験するべきね。


 今はラキスが人造人間で、殺し方、血抜き(捨てない、飲む)の仕方、さばき方。

 それに様々な保管方法を教えている。料理法は私が教えるわ。


 今日の昼食は、特別に魔界から買ってきた奴隷を使うわ。

 魔道具の多い部屋の扉は閉め切った状態で、奴隷(最初だし若い女から)を放つから、授業の通りに殺して処理するのがリルとミラに与える課題よ。

 もちろん魔法を使ってもいい。魔法はもうずいぶん上達している。


 魔女フランチェスカもその辺は結構教えてるみたいだけど(ミラの面倒もついでに見てくれてるようでありがたい)授業の方向は陛下や悪魔に捧げものにする時のやり方のようだから、個人の能力はこちらで伸ばしてやらなくちゃ。

 あと魔帝陛下への崇拝の儀式の方法も2人まとめて教わっている様ね。


 こちらでは自分で食べる方の方式を教えるの。処理次第で美味しくなるわよ。

 それに、魔女フランチェスカは魔法も急ピッチで教えてくれている。

 あら『テレポート』までもう少しじゃない。頑張ってちょうだいね。


♦♦♦


 奴隷は上手く仕留めることができた。リルもミラも、まず状態異常系の魔法からの『暗黒魔法:心臓つかみ』でとどめという食品用の基本がよく出来ていた。

 血抜きの作業は2人にさせて、さばくのも任せる(ラキス監修)

 

 ご褒美に、料理も見学&お手伝いさせることに。

 今日は肝臓の甘辛煮と心臓のバター醤油焼きよ。

 私も初めてだけど、私の場合「インプット」してしまえば何でもできるから。


「人肉は使いでが多いから、ここを継ぐなら、お給料で買うのが一番早いわね。

 対人(対魔女)戦闘はプロであるフランチェスカに習うのが一番だわ」

 「はい!」

「フラン先生(そう呼べと言われたらしい)は私(ミラね)にも

 色々教えてくれてるんですけどいいんでしょうか?」

「ああ、安心しなさい、ご主人様が報酬を追加しておくと言っていたわ」

「私まで………ご主人様は優しい方ですね」

「そうよ、特に女性には優しいわ。勘違いしてない程度なら甘えても大丈夫よ」


 残りの部位は、魔法の袋(作り方は2人に宿題として伝授)に入れて保管しておく。

 その部位は次(予定は明日夜)来た時に、一緒に料理しましょうねと言っておいた。

 今日はさっきの肝臓と心臓、後セロリとモッツァレラチーズのサラダよ。

 飲み物は玉ねぎのコンソメスープと血でいいかしら?


 食事は全員満足して終わった。

「ご主人様は自分がそうだったからか、早いペースでの成長を望まれるわ」

「だから明日のお泊りの時は、時止めの部屋(その部屋の中でいくら時が流れようとも、外ではほぼ時間が経っていない)で戦闘訓練と、魔道具を覚える訓練だ」

「「わかりました」」緊張して答える2人。

 ところでこの2人、最近いつも手をつないでいるわね、もしかして?


 聞いてみたら、2人共顔を赤らめて、すでに魔女フランチェスカに「食われて(処女は無くしていない)」いることを明かした。

 まあそれはあの人は「火遊び」で有名な人だから仕方がないわね。

 その上で「2人はお似合いね」と言われ、意識し合いそういう関係になったとか。


 話を聞く間「縁切りのはさみ」を持ったラキスが二人の背後でごそごそしていた。

 なので、話を長引かせる。どういう事がきっかけだったの、とか。

 ラキスがOKサインを出す。この子たちの赤い糸は、強固に結ばれたという事だ。

 ラキスの事なので、余計な糸は切り払ったでしょうね。


~語り手・ラキス~


 やぁ、2人がすでに結ばれていたとはびっくりだ。

 こじれたり泥沼になってしまうと厄介なので、最初から赤い糸はぎっちぎちに強化しておいたよ。友情の紐も、赤い糸に絡めて、赤い糸を保護しておいた。

 必要なさそうな糸―――ご主人様への恋心とか―――はきっちり切っておいた。

 これであこがれだけですむだろうさ。

 フランチェスカへの恋心は、中途半端な所で結んでおいたよ。

 憧れの先輩というところかな?


 その後は宿題(フランチェスカのはルピスが見てあげてた)ルピスからの「魔法の袋」の作成をしなければならないのでいったん家に送る。

 明日の夜、また来るはずだよ。


 次の日、二人は色違いのお揃いのワンピースを着てやってきた。髪型も一緒。

 ん?困り顔だね?どうしたのかな?

「私達を頼って、町から人がやって来たんです。

 何でもお母さんが妊娠中で、陣痛が酷くそのせいで不安がってもいるとか。

 その上裕福な家ではないので、お母さんの栄養状態とお腹の子が心配だとか」


「成る程それなら………せっかく勉強したのだから、2人が魔道具をチョイスしたらどうかな?簡単だと思うね。これは。対価の話はした?」

「はい、娘さんが支払ってくれるそうです」

「でも私たちが選んでいいんですか?」

「ダメだししてあげるから、見つけてごらん?」

「「屋敷の中を見て回って良いですか」」

「んー、まあ初回だからいいということにしよう。

その前にルピスの所に宿題を持って行くんだよ、怒られるから」

「「はーい」」


 宿題の「魔法の袋を作れ」は「初めてにしては上出来」だったらしいけど、もっと容量を増やさないと使い物にならないから、材料を集める所から自分たちでやってごらんと言われていた。

 一応私も作れるんだけど、作る時に手を刺す(私だけらしい)んだよなあ、あれ。

 ルピスにも事情を話して、授業を先送りにしてもらっていた。

 私の授業?折角時止めの間なんだから、魔道具を選んだ後でもちろんやるとも。


 2人はパタパタと小走りで、広い複雑な館の中を見て回っていた。結論は―――?

 2人は2つの魔道具を持って来た

「これでどうでしょうか」

 ひとつは「メリーゴーランドのオルゴール」鳴らすとどんな不安や痛みも安らぎに変える優しい魔道具だ。合格。


 もう一つは「無限のパン籠」栄養満点のパンが、無限に湧き出てくるかごだ。

「こっちは一つ難がある。水分がないから寝込んでいる人が水を飲まなくちゃならない。要はむせて器官に入るから寝込んでる間は止めた方がいい。でも、起き上がるようになってからは正解だね。もう一つ選んできてごらん」


持って来たのは「魔女のおかゆ鍋」素朴で美味しいキビがゆを作ってくれる。

止めないといつまでも作り続けるので注意だ。でもこれで正解だ。


 さて、講義をしようか

「うちには高い魔道具と普通の魔道具がある。それはなぜか?」

 2人は聞く姿勢だ。答えは分からないようなので続きを言う。

「コピーできるもの、希釈して使う物と、オリジナルのみで貸し出し専用な物、オリジナルのみで差し上げるもの。この順番で高いんだよ。最後のはまずないけど」


「はい」

「どうぞ、リル」

「ラキスさんの貸し出しがオリジナルのみで貸し出し専用な物ですか?」

「その通り。その中でも最上級だよ」


「はい」

「どうぞ、ミラ」

「今回のモノは全部「コピー」可能な物でしょうか?」

「その通り。今から2人に呪文を伝授します!」


 折角なので、時止めの部屋に入ってみっちり教えるよ。

 特殊能力バージョン(私は魔法がつかえないのでそれ)もあるけど、2人は魔女だ。

 呪文の方がいいだろう、教え方は私も分かるのだ。

 あとこの呪文はご主人様オリジナルの呪文なので絶対に他人に教えないように!

「「はい!」」

 

 2人は何回か呪文を練習し「並」のコピー呪文はすぐに覚えた。

 リルは「上」の呪文も習得する。やっぱり全体的に優れているのはリルだが、ミラも努力で才能をカバーする。「上」の呪文を習得した。

 

 最後は「特上」だ。

 リルたちは2日寝ないで、ようやく習得した。リルだけ。

 赤い糸を思い切り強化しないとミラが劣等感を持ったろうが、赤い糸は強靭だ。

 ミラはリルを尊敬のまなざしで見ている。


「よし、2人ともよくやった!ここからは戦闘訓練だ!」

「「あ………あははは………やるんですね」」

「当然だとも」

 戦闘訓練は体感時間で3カ月続いた。

 

 よーし、これだけやれば中級ぐらいの魔女ごときなら、楽勝だろう。

 この前私が固定してあげた奴は中の下ってところだったけど、もうぶっちぎりでアイツぐらい倒せる。

 さすがに付け焼刃で上級は無理だろうけど、この訓練は繰り返すし、魔法とも連携する事で能力は上がるしね!


 2人はなんとなく、キリっとした顔で、時止めの部屋を出たのだった。

 ちなみに5分も経ってないよ!

「さあ、入る前に選んだ3つの魔道具をコピーしてごらん」

「「はい!」」

 2人は手分けして魔道具をコピーした。


「これもコピーしてごらん。リルは特上の魔道具。ミラは上級の魔道具だ」

 特上として渡したのはお代を頂くときに使う注射器。

 特に大事なのは針で、ヴァンパイアの牙で出来ている。

 これでないと血を貰っても仕方ないのだとご主人様は言う。

 これでないと『教え』という特殊な術の『血液増量』

 そして無属性魔法の『保存石』がかけられないのだとか。重要なのだ。


 そしてミラにコピーしてもらうのは、採取した血液を保管しておくカプセル。

 多く持っておく事は大事だ。今回は4つに増やしてもらう。

 ミラは何とか魔力切れにならずにコピーした。


 私は祝福の為、2人に小さなグラスの「ご主人様の血(定命回帰中とくしゅなあくまモードの物)」を渡す。

「飲むと全てのステータスが上がる「ご主人様の血」だ。悪魔か魔女以外には猛毒になるもので、1月に1回、キミたちにも解禁されたんだよ。飲みなさい」

「「ありがとうございます」」


「ごくん………喉が熱い………ううん体中が熱い………」(ミラ)

「でも美味しい………すごい、能力が………」(リル)

「「なんだかすごく力が増しました!」」

「うんうん、確かに初めてだから、かなり上がったね。もう2人は訓練の成果も含めて中級魔女だろう。フランチェスカも承知の上で、というか彼女も飲んだし、理解の上で講義を続けてくれるはずさ。まずはルピスの宿題を完璧にやってごらん」

「「はい(喜色満面で)」」


「おっと、その前に依頼があったね。これも今コピーした物の使い方は分かるね?」

「はい」

「リル、私はよく分からないからお願いね」

「うん、あのね、注射器のここにカプセルをはめて………」

「なるほど!私にもわかったわ」

「今回は3回、魔道具のお代を貰っておくれ。カプセルには性別・年齢・処女かどうかを書くんだよ。それと、見習いとして渡すものがもう一つ」


「はい」と銀で出来た丸いお盆を渡す。説明はルピスにパス。

「この本に『クリエイトウォーター』で作った純水を流すの。そして呪文は見たい人の姿を思い浮かべながら×××××よ。簡単だからできるわね」

「これでアフターケアが必要かどうか、また来そうかどうかを見るのさ」

「最初だから細心の注意を払ってね。依頼人はいつ来るの?」

「今日の夜です!」

「そう、それならお茶していきなさい」

「「やったあ」」


「うまくいくかな?」

「大丈夫よ、魔道具はあなたも見たのでしょ?」

「注意事項まで確認したともさ」

「なら、大丈夫よ」


♦♦♦


6日後「遠見」していたルピスが「元気そうにやってくるわよ」と言った。

彼女たちは初めての依頼の成果(血のカプセルを3つ)を持ってやって来たのだ。

私とルピスはそれぞれの少女を抱きしめた。

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