第15話 魔物の絆創膏
まだまだ冬将軍の足音荒い2月。
今日は車庫の乗り物を整備しています。
近代的な車から、古代の戦車まで、ご主人様の趣味の多彩さにあきれてしまう。
さっきからラキスが力づくで抑え込みつつ手入れしている車はたしか………
生きて意志を持つキャデラックのピンクのオープンカー。名をレディ・ルーシー。
一たび目覚めようものなら、血に飢えて走り出し気に入らない者をはねてしまう。
今はラキスの怪力で押さえられているから何もできないけど。
その後は魔界にでも送り出しましょう。満足したら勝手に帰って来るわ。
私はいまだに熱を持つ、太陽神のチャリオットを丁寧に拭きながらそう思う。
「ルピス―。この馬車、すすだらけだ。高圧洗浄機で洗っていいか?」
「いいけど、裏庭でやってよ!私の花壇には当てないでね!」
すすけた馬車―――確かお客様に貸し出して炎の中を走ったのよね―――がみるみる綺麗になっていくのを見つつ、そう回想した。
「ラキス―。丁寧に拭いてちょうだいね」
「はーい」
「物が壊れ物でなければ、あなたも十分働きものなんだけどね」
「どういう意味だい?!」
「どういう意味もこういう意味も………」
呆れる私。まあそもそもラキスは
力の制御は+の方にのみ向けられる。だから仕方ないんだけど………。
そう、私達は人間ではない。悪魔に堕ちた
ラキスが
まだ使えるのに、宇宙のゴミ溜めに捨てられた怒りが私達を憤怒の罪に堕とした。
そうして魔界で半ば理性なく暴れまわっていた時、ご主人様に倒されたの。
そして、私達が必要だと言って貰えた。嬉しかったわ。
そして魔界の事を勉強してしばらくしてから、この「オルタンシア」に来たのよ。
私、ルピス。紅の紫陽花をモチーフにしたクリノリンドレスに身を包んでいる。
紅の紫陽花の髪飾りと耳飾り。右目には紅の紫陽花の眼帯。
両手の中指には大粒のルビーの指輪をはめて。
艶やかに赤い唇、シニヨンにした長い黒髪、白磁の肌、紅い瞳、145㎝と小柄。
相棒、ラキス。青い紫陽花をモチーフにしたクリノリンドレスに身を包んでいる。
青い紫陽花の髪飾りと耳飾り。右目には青い紫陽花の眼帯。
左手に月の光で作られたような銀の蝋燭立てを持って。
淡いピンクの唇、肩で切りそろえた銀髪、やはり白磁の肌、175㎝の長身
戦魔堕ちしたからか、ラキスはばかげた筋力を得た。
ご主人様が私たちの骨格を、金とタングステンの合金にしてくれたことも大きい。
表皮は
自然な表情を浮かべることができるが、武器の類はまず刺さらない。
ご主人様の手によって、チューンナップされた体は無敵に元気だった。
次のメンテナンス―――サンタクロースのそり(ご主人様がサンタから貰ってきた)
に取り掛かりながら、自分の体の事を考える。
いつかは、この仕事も通過点の一つになる。
詳しい仕事内容はまだ知らないが、わたしは「嗜み返し」と呼ばれる仕事を。
ラキスは「本邸の門番」を任せるつもりだと聞いた。
どちらにせよ、今はまだここで修業中だ。仕事を頑張らないといけないだろう。
魔法の水上船を拭きながら、私はそう思う。
取り合えず、今日のメンテナンスはこれで終わりだ。
あとは、お客様が来るかどうか。
「ラキス、終わった?」
「終わったー!」
ミニチュアの―――大きくなる―――帆船を掲げてラキスが言う。
「じゃあ、お茶にしましょうか」
「今日はういろうがいいな!」
「じゃあ、ティーも和風にしないとね」
後片付けをラキスに任せて、私は台所に向かう。
お
清々しい草の風味で、さっぱりとした味だったと
もちろんご主人様に入れてもらった知識だ。
「ハーブティーメーカー」に「柿の葉」と書いた紙を入れる。
出来上がる間に「黄金のういろう」を切って皿に盛る。
魔法の食器棚から私たち専用の強化ガラス(ラキスの為)のカップを出す。
「ハーブティーメーカー」から注いで、出来上がり!
ゆったりとお茶を楽しみ、雑談に興じた後、片付けだ。
片付け終えて、落ち着いたところで―――
リンゴンリンゴン!!けたたましくベルが鳴った。
~語り手・ラキス~
お客様は、けが人を含めて10名ぐらいの騎士だった。
開口一番、
「すまん、この者たちを寝かせて治療してやる事は出来るか!」
「お安い御用だよ、ルピス、応接室を!」
ルピスは応接室の仕掛けを作動させる。かなり大きくなり家具がなくなるのだ。
体育館ぐらいの大きさかな?本来は私とルピスの訓練場だった。
目を丸くしている騎士たちとけが人を運び込み、けが人を寝かせる。
「ここは魔道具屋だ。治療を施す事も出来るけど、お代が要るんだ」
隊長らしき人が顔をゆがめる。
「貸しにしてくれませんか?我々は壊走の途中、金など―――」
「いや、金銭は受け取らない。ヴァンパイアが飲むための血液で支払ってもらう」
「血液、ですか?そんなものでいいのなら………」
「了承してくれるんだね、ちなみに1回の寮はカップ一杯ぐらいだよ」
「そんなもので、部下を治療して下さるのなら背に腹は代えられません」
「OKってことだね。ちなみに全員からお代は貰うからね」
「わかった………早く治療を!」
消えてたルピスが、かご一杯の絆創膏を持って帰って来た。
「張るとたちどころに傷を癒す、「魔物の絆創膏」でございます」
「誰が貼っても一緒だから、取り合えずとっとと鎧と服を脱がしてくれ!」
多少大きな傷でも、「魔物の絆創膏」を張ると消えうせる。
たっぷり使って、立っている騎士のケが治療にも使った。
「まあ、支払いの前に、せめて座っておきなよ。お茶とお菓子ぐらい出すからさ」
その言葉に糸が切れたように座り込む騎士たち。
ルピスがお茶の用意をしている間、売り込みでもしようかな?
「ねえ、あんたたちさ、この店の森から出たら、また逃げなきゃいけないのか?」
「もう、敵が陣地をはってしまっているだろうから、突破戦になる」
「なら、突破用のアイテムは要らないか?」
「………血でいいのか?」
「もちろん。お勧めが2つあるから取って来るよ」
わたしは、舞踏室でひとつ、書斎でひとつのアイテムを回収した。
戻ると、シナモンの香りがした。シナモンティーだろう。
おやつは、大きく切った「黄金のアップルパイ」だ。
「何日ぶりの食事だろう………」
感動している彼ら。私は持って来た魔道具を、隊長の所に持って行く。
「一つは「恐怖の角笛」この角笛を吹き鳴らすと、理不尽かつ抵抗できない恐怖に襲われて、敵が逃げ去っていく。その間に突破を」
「なんと………」
「もう一つは「台風と太陽の書」開くと前方に、巨大な複数の竜巻と、身を焦がす凶悪な太陽が現れる。だから最後尾か最前列の人が使うように!最終的に敵を蹴散らして包囲網から出ないといけない時の為のものだよ!」
そう言って私は魔道具を渡す。
そして、彼らは体育館―――体を動かすためのものが沢山あるので訓練場?―――で1泊していくことになった。浴室の位置を教えておく。
「私たちに用がある時は、入口のカウンターの上にあるベルを鳴らしてね」
そう言うと私とルピスは自分の部屋に引き上げた。
翌日、騎士たちはお代を払い、私達に礼を言ってから立ち去って行った。
私はゆっくりと、カウンター裏の丸盆を取り出す。そこにルピスが純水を注ぐ。
盆は水鏡になり、彼らを映し出す。
「恐怖の角笛」はとても精神が強靭な人を除き、敵を逃走させた。
走りながら次の敵の拠点でも、同じことをする。
もう一歩で味方の陣営。だが後のない敵も追い詰められて逃げるに逃げられない。
そこで先頭を走っていた隊長が「台風と太陽の書」を使う。
竜巻は敵を吸い上げ、また落とす。
まるで鉄板で焼かれてでもいるかのような、熱風で焼死する敵も多い。
こうして彼らは、自分たちの陣地に帰る事ができたのだった。
うん、今回は達成感のある感じだな、後味も悪くない。
敵には悪かったけど、相手がうちに迷い込んだのが運のつきだ。
「今回は、大量に血が手に入って良かったわ。ご主人様も満足でしょう」
「そうだね、偶然とはいえ………」
私達は微笑み合った。
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