第30話 悪魔の魔法陣

【語り手:ルピス】


 11月。

 今月はまたサバトがある。

 また?と思う人もいるでしょうけど、今回のは普通のサバトではないのよ。

 魔女より悪魔の人数が多いサバト―――

 あなたになら召喚されてもいい、という悪魔を増やすのが目的なの。


 このサバトにくる悪魔は、元から趣旨を承知で、向こうからもアプローチしてくる から、かなりそういう人が見つけやすいのよ。

 そこで、ご主人様が彼女達(リルとミラ、あと3人娘。悪魔枠で私達)の参加権利をとって来て下さったの。3人娘はまだ下級魔女だからあまり期待できないけど。

 リルとミラは上級魔女だから、引く手あまたでしょうね。


 このサバトは、3日間も続くものだけど、主催者は違っても場所は伝統的に同じ。

 滅びた王国の残した城を、目立たないように改造し、休憩室や更衣室もあるわ。

 誰かと2人きりになりたい場合は別のサバトへどうぞ、ね。


 そんな訳でリルたちは、ドレスのカタログを見ながら、居間でお茶をしている。

 3人娘の中では、リタが一番しっかりしている。

 なので、台所の魔道具の使い方を仕込んでおいた。

 お茶はミラかリタが担当になるわね。今は気付いた人が行ってるけど。


 まあ、今はお茶よりドレスなんだけど。サバトは明日なので時間はない。

 私達は他人事だ。悪魔側はドレスやタキシードより、能力や立場が分かる服装が好まれる。私は暗殺者アサシン、ラキスは軍服(スカートタイプ)だ。


 3人娘は気楽にはしゃいでいる。下級魔女はワンピースとかで構わないからね。

 ツーピースのワンピースを、上着の灰色以外は各人の色(リタが紫・ベルが黄・エナがピンク)にしたみたい。

 今はリルとミラの求めに応じて意見を言っている。


 リルが選んだのは―――

 色はマリンブルー。サテン生地。キャミソールタイプの肩と胸元。

 タイトなロングドレスで、半身がシルバーのスパンコールで彩られたもの。

 裾はドレープ。


 ミラが選んだのは―――

 色は明るい赤。黒い刺繍のレースがウエストの切り替えにあり、裾もレースがある。胸元にボタンのようにパールビジューがあり、オープンショルダー。

 マーメイドタイプのミニドレスね。


「決まったのね。じゃあ名刺を作るわよ。必ずお持ち下さいと招待状にあるし。

 3人娘は箒も作るわよ。箒もロッドもない魔女なんて、笑われるわ。

 貴女達3人にはご主人様が制服を作って下さったから、今回はそれを着ましょう」


 3人娘の制服は、いいところの子女といった服装。

 レースのカチューシャ、ボートネックでハイウエスト。

 柔らかそうな膝丈のパニエ入りスカート。それぞれ、紫・黄・桃に染めてある。

 真珠のチョーカーにはそれぞれの色の薔薇が揺れている。


 嬉しそうに試着する3人娘の箒作りはラキスに任せて―――リルたちの時と作り方は同じ―――私は「名刺メーカー」と付属の分厚いカタログを持って来る。

「いい、カタログを見ながら、好みのパーツを最後まで選ぶと、100枚の名刺が出来上がるのよ。具体的にはフレーム・背景・フォント・配置ね」

 リルたちを横目で見ながら、私も同じ魔道具で名刺を作る。

 悪魔は名刺の裏に召喚陣を描くのが決まりなので、自分の召喚陣をスキャンする。

 箒の制作で忙しいラキスの分もだ。


「フレームはそれぞれの色の薔薇になるようにしなさいな」

「「はーい」」


 リルが青い薔薇のフレームに、水色の水玉の背景、丸文字の連絡先。

 ミラが赤い薔薇のフレームに、ピンクのチェック模様の背景、丸文字の連絡先。

 薔薇のフレームは、クレヨンで書いたように、ほんわかした感じである。


 私とラキスの名刺は紫陽花モチーフのシンプルなものである。

 リルとミラのものを参考に、3人娘の名刺は私が作った。

 そろそろ箒もできたみたいね。


♦♦♦


 ところ変わって、サバト。

 霧深く、瘴気の漂う、木々でドーム状になっている森の中。

 会場の中央には、石組みの舞台が用意されている。

 そこで一人ないし集団がアピールするために用意された舞台だ。


 リルとミラの順番が来た

「私がリルで」

「私がミラです」

「「協力召喚をする上級魔女で、シュトルム公爵様にお世話になっています」」


(ざわざわ)

(シュトルム公爵様の子飼いだって)

(ならニューフェイスでも実力はありそうだな)


「捧げものは人間・家畜・貨幣・魔道具などになります(リル)」

「人目につかない召喚場所を用意してあります(ミラ)」

「「召喚傾向は今の所ありません、このサバトで沢山知り合えたらと思います」」

 綺麗に揃ったお辞儀をして、次の魔女に壇上を譲った。

 まあこんなものかしらね。


 魔女の挨拶は下級魔女に移る。

「リタです。相性がいいのは賢魔です。捧げものは魔導書の写本が得意です」

「ベルです。相性がいいのは淫魔です。捧げものは貨幣か宝石になります」

「エナです。相性がいいのは戦魔です。捧げものは狩りの獲物や貨幣になります」

「「「このサバトで面識を広げたいと思います」」」

 3人娘の挨拶も終わったわね。


 次は悪魔の自己紹介の番ね。上級悪魔なので、出番はすぐだわ。


「ルピスと言います。機械人形アンドロイドです。所属は戦魔ですが、隠密・暗殺系がメインです。当然、正面からの戦いも出来ます。特に機械の知識と魔道具の扱いの経験が豊富で、社交界での技術も公爵様から習いました」


「ラキスと言います。機械人形アンドロイドです。所属は戦魔、正面から敵を撃破するパワーファイターになります。得物はキャンドル・スティック(巨大槍)です。機械と魔道具についての知識が豊富で、マナーは公爵様から習いました」


 自分の出番の後も、他の悪魔の自己紹介を見て勉強する。

 そのかたわら、ラキスと良さそうな魔女を吟味する。

 ボーイ(魔女の配下)がカクテルを運んでいたのでいただいたわ。

 私はジン・デイジー、ラキスはブルー・ラグーンね。


 お互いに話しかけてきた魔女がいたので、一旦分かれて魔女と話す。

 知力も体力もある悪魔が欲しかったのだとか。上級魔女ね。

 快く名刺を交換する。

 中級魔女にも切り札に是非と乞われたので、名刺交換しておいた。


 リルとミラは「これからの魔女」と認識(間違ってない)と思われたようで、淫魔と権魔の集団に取り囲まれていた。3日あるから、今日はその人たちでいいでしょう。

 目を白黒させているけど、変なのに引っかからないでね?

 まあリルはかなりしっかりした娘に育っているから大丈夫かしらね。


 3人娘はそれぞれ下級悪魔に声をかけたりかけられてりして、カクテル片手におしゃべりに興じている。

 別々に声をかけられたのに一か所に集まって、カクテルパーティになっているわ。

 引き寄せられて下級悪魔や下級魔女も参加し始めた。

 ボーイさんは大変ね。


 3日間のうちにはペアは必ず魔女と悪魔の組み合わせのダンスパーティーもあったりして、いいムードになる魔女と悪魔もいたわね。

 他には戦魔の武闘大会とかね。ラキスが参加していたわ。

 

 サバトは盛況のうちに終了した。

 名刺もたまった(何故か悪魔のもある)し頃合いじゃないかしら?


♦♦♦


 帰って来て通常運転に戻したその途端


 リーンゴーンと鐘が鳴る


 【語り手:ラキス】


 入って来たのはいい所の令嬢、と言った服装の女性だった。

 早速リタがキッチンに向かう。


 応接室にご案内してお茶を待ち、お茶とケーキを楽しみつつ本題に入る。

「わたし、理想の王子様が欲しいの」

 ………困ったことを言う娘だね。

「あなたの理想の王子様とはどんな方です?」


「顔がよくて、背が高くて、紳士で、私だけに優しくて、お金持ちで、気前がよくて、パーティなんかにも連れ出してくれて、女心をわかってくれてぇ………」

 以下省略だ。

 これはアレしかないな。私はリルに念話を飛ばす。


「わかりました。条件を満たす方を探します。5日後にまたおいで下さい(リル)」

「ええーっ!今パパっとできないのぉ!」

「無理です(ミラ)」

「それにまた歩いて来させるわけ?」

「ご足労願います(リル)」

「もう!いいわよ!でも用意できなきゃ酷いんだから!」

 何が酷いんだか。


 お客様が帰った後。エナがふくれっ面で言う。

「引っ叩いてやりたくなりました!何ですかあのワガママ娘は!?(エナ)」

「ああいうのは一度引っかかると簡単だよ。淫魔にはね。リル、ミラどうだい、名紙を役立てる時だよ?いるだろう、上級淫魔?」

「「はい」」


「一生の面倒を―――悪魔にとっては短いとはいえ―――見させるわけだから、人間の生贄が1人必要だ。魂付きでね。ハンティングに行ってきな?バレないようにちょっと遠くまで行ってね。後は羊と魔界貨幣でいいだろう」

「行ってきまーす(リル&ミラ)」


「あんな女のために、犠牲が必要なんですのね(リタ)」

「可哀想ですぅ(ベル)」

「殴って追い返しちゃダメなの?(エナ)」

「残念だけどお客様はお客様だよ」


 悪魔召喚の儀式は牧場の外れで行われた。

 2人はセオリー通り確実に儀式を進行させる。

「では生贄は受け取った。願いを叶えましょう。仕込みに2~3日かかりますが」

「お任せします」

 悪魔は解き放たれた。


 当日「オルタンシア」にて。

 彼は彼女の手を取って「私のお姫様、私とお付き合いして下さい」と言っていた。

 彼女は(主に外見に)ポーっとなっている。「はい………」

 彼らは寄り添って(彼の高級アパルトマンに行くため)オルタンシアを辞した。


 彼らが帰ったので、リルとミラが「何でも喋るラジオ」を起動させる。

「おはようさん!今回はまたえらくワガママな娘さんでんなぁ」

「顛末がどうなるか教えて欲しいの!(リル)」

「顛末なぁ。任せたのが悪魔やから、あんまええことにはならへんで」

「幸せになられても腹が立つから、いいわ(ミラ)」


「最初は幸せなんや。理想の男性とのラブラブ生活。

 ただ悪魔としては、人間の小娘(性悪)の言いなりになってやるのは面白くない。

 だから結婚のときに渡されたのは、実は「奴隷契約の指輪」でな。

 でもすぐに肉欲に溺れさせるから、本人的には(洗脳されて)幸せなまま。

 そこは契約を守るってこっちゃろう。外見も若いまま保たせてやってな。

 100年経つ頃には、色々し混まれて目を見張るほど従順に!

 魔界のハレム行きやね。顔は気に入ったみたいから」


「うわぁ、淫魔ってそうなんですのね(リタ)」

「本人を幸せなままにっていうのが料金分かしら(リル)」

「私達の気も晴れていいんじゃん?(エナ)」

「初めて(ルピスとラキス以外の)上級悪魔の召喚にしては上手く行ったかな(リル)」

「もうちょっとキッチリ条件付けしても良かったわね。生贄のグレード上がるけど」


「まあ今回は、めでたしめでたしでいいじゃないか―――?」

「「「「「はーい」」」」」

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