第29話 黄金ハッカのコロン

 【語り手:ルピス】


 9月―――時計は刻々と時を刻む―――


 上級魔女になったリルとミラ。オルタンシアに通って来るようになった魔女フラン チェスカのおかげで、みるみる風格が出てきたわ。

 時止めの部屋でみっちり稽古をつけられたようね。

 この感じなら、そろそろいいかしら?用意を始めましょうね。


「リル、ミラ、特別なサバトを開くわよ」

「………?私たちが開くのですか?」

「違うわ、そろそろいいだろうという事で、あなたたちの上級魔女昇格のお祝いに、魔女フランチェスカか開いてくれるのよ。その席で、ご主人様があなたたちに昇格のお祝いを下さるわ。言っておくけど異例のことよ、注目は半端ないと思いなさい」


「それと、あなた達が開く場合でも「私達」が開くというのは止めなさい。仲がよくても、魔女のサバト主催者は一人。どっちかはサポートよ」

「なら私、リルのサポートに回ります。リルの力のつけ方は、私なんてとてもかないませんから。リルはフランチェスカ様の要求をほとんどこなしたんですよ」

「いいの?ミラ?私より下に見られるわよ」

「実際下だもの。いいのよ、愛しているから」

「ミラ………♥」

「リル………♥」


「ごほん!」

「「あっ、すみません!」」

「まあまあルピス。仲が悪いよりいいじゃないか?」

「まあそうだけどね………」


「えーと、それで、ご主人様が新しい制服をくださるんだよ」

「あなたたちはもうティーンズではないから、丈の長いドレスを下さるそうよ」

「それでね、次代のオルタンシア―――店の名前は変えると言っていたけど―――で使える部下も集めてくれたって」

「「部下?」」

「そうよ、下級魔女だから教育してあげれば?」

「お客さんのサポートをさせる為に配属するんだってさ」


「さあ、サバトに来ていく服を選ぶわよ。私達は魔界ではお祝い事のスタンダードな黒にするけど、2人は主賓だからリルは青、ミラは赤から選んでね」

「ご主人様が、セミオーダーできる魔界のお店を予約してくれているから行くよ」

「嬉しい、本当にご主人様は優しいわね」

「うん、そうだねリル!」


♦♦♦


 服のオーダー。まずは私とラキスから。

 私は チュール×レースのブラウス。

 その上からキャミソールタイプのミディアム丈のフレアスカート。 

 どっちかというと可愛い系。

 私は背が低いから、可愛い系が受けるのよね。


 ラキスは オフショルダー(透明な肩紐)

 胸元にお臍の辺りまで切れ込みが入っているが、肝心な所はちゃんと隠れている。

 最も谷間は凄く強調されているが。

 裾がフリル になったロングテールドレスで、深いスリットが入っている。

 長身のラキスによく似あう細身のシルエットだ。


 リルは青いドレスを前にう~んと迷っているけど………決めたみたいね。

 ベアトップのチュール生地が前面のフレアロングドレスで、色はペールブルー。

 胸元に濃い青で大きくアラベスク模様が入っている。

 スカートにも濃い青で細かい刺繍がしてあって、とても優雅で妖精のようだわ。

 リルとミラは魅力度も大きく上がってるから、ドレスが似合う様になったのよね。


 ミラも赤い服を前に難しい顔、やがて一つのデザインを選び出した。

 タイトなライトレッドのミニドレスだけど、どっちかというと可愛い系。

 肩がレースになっていて、肩にもドレス全体にも深い赤の刺繡があった。

 胸元に黒いリボンがあり、襟元からウエストまで黒い丸ボタンが並んでいる。

 それに黒いスパンコールのカチューシャがよく似合っている。


 最後に店長さんが「シュトルム公爵様よりお預かりしております」と、リルに金、ミラに銀の、美しい装飾がほどこされた杖を渡してくれる。

「すべての魔法の杖の機能がつき、魔力の大幅増幅もついております」

「「綺麗………」」

「私が金でいいの、ミラ?」

「実力だよ、リル。私も弱いつもりはないけど」


♦♦♦


 サバトの日。場所は定番通り、深い森の中にぽっかりと開いた広場。

 あとで闘技場にも使用するのだろう、大理石の広い舞台の上にリルとミラが並んで立っている。緊張の面持ちだ。ご主人様がスピーチしてくれているのだから当然ね。

 「―――というわけで、偶然の拾い物でしたが、短期間でここまで育ってくれました。今後大いに期待していますので、みなさんも召喚陣を教えてやってもらえると広い主としては喜ばしく思います」


 ご主人様がそう言うと、大きな拍手が起こった。

 フランチェスカがマイクを受け取る。

「そういうわけで、私の弟子の中でも有望株に育ってくれました。もちろん私の弟子ですので、殺人も人肉食も平気な、悪魔とも価値観の合う娘たちです」


 そう言いながら彼女はかごの中に入れてあった、白いドレスを着た少女を舞台に引きずりあげる。猿ぐつわなので、悲鳴らしきくぐもった声が聞こえるだけね。

 とても綺麗な魂だわ、生贄に最適ね。フランチェスカはリルとミラに短剣を渡す。

 2人は返り血避けの風の結界を纏うと

「魔帝陛下と、紅龍様と、シュトルム公爵様を讃えて!」

 と声を張り上げてから、2人で心臓をひと突き。


 死体はコックの恰好をした魔女が引き取っていった。

 どうもこのサバトで殺したての肉が食べれるみたいね。


 舞台から暖かい拍手を受けつつ下りた二人は、ご主人様に手招きされている。

 ご主人様の後ろには3人の少女。リルとミラより年下だ。

「お疲れ様。早速だけど君達を手伝う弟子を選んで来たよ」


 黒ローブ姿の少女たちが紹介される。

「リタです」長い黒髪の巻き毛、輝く紫の瞳。落ち着いた感じの娘ね。

「ベルです」緩いカーブを描く黄色い髪、水色の瞳。ふんわり優しい感じ。

「エナです」ブロンズのカーリーヘアに、同色の瞳。元気そうだわ。


「「「上司にしてお師匠様、よろしくお願いいたします」」」

 その後、1人1人が「あなた方の命令を聞きます」と宣誓した。

「とりあえず、職場のことを覚えさせてやってくれるかな?本格始動までにはまだ間があるから、丁度いいだろう」

 呆気にとられて凍っていた2人が解凍された。


「私はリル、これからよろしくね。とりあえず魔道具のことを覚えてもらおうかな」

「「「はい」」」

「私はミラ。ご主人様、この娘達はどう運用するんですか?」

「うん、魔道具と一緒に貸し出して、フォローやさらなる売り込みを担当させて欲しい。今まで魔道具を売るだけだったからね。

 採血の機会を増やして欲しい。ああ、そうそう。これを渡しておこう」


 ご主人様が渡したのは、それぞれ紫・黄色・ピンクの石の嵌ったペンダント。

「紫ガリタの、黄色がベルの、ピンクがエナに対応していて、これに入ってお客さんについていく。お客様にはサポートの魔道具だとでも言えばいい。もちろん遠隔で指示を飛ばす事も出来るよ。あと、基本彼女たちは無料貸し出しだからね?」


「わかりました。ご主人様。リタ、ベル、エナ。まずは親交を深めましょう(リル)」

「うんうん、よろしくね!(ミラ)」

「分かりましたわ、優しそうなお師匠様でよかったです(リタ)」

「まずはぁ、職場とお二人に馴れますぅ(ベル)」

「用事かあったらじゃんじゃん言ってねっ!(エナ)」


 彼女たちはあっさり馴染んで、ガールズトークで盛り上がっている。

 ご主人様は微笑ましそうにその場を離脱していた。

 人肉のステーキが運ばれてきたが―――殺した者なので優先らしい―――リルとミラはもはやそれを食べるのに抵抗はないようだ。

 リタ、ベル、エナは、1つのお皿から分け合って、恐る恐る食べる。

「あら………意外とおいしいのですのね(リタ)」

「悪魔がぁ、高級食材扱いするのぉ、分かったような気がしますぅ(ベル)」

「ほんと!もちろん個体差はあるんだろうけど!(エナ)」


 その後、「引継ぎをしてくれる頼りになる先輩だから、魔道具について色々教えて貰って」と紹介された私達も、彼女たちに混ざった。

 勢いに負けて、私達もガールズトークに花を咲かせてしまったわ。


♦♦♦


 【語り手:ラキス】


 帰った途端、つけっぱなしにしていた「何でも喋るラジオ」に話しかけられた。

「おかえんなさい。ところでこないだの客が言いふらしたせいで、ビミョーな感じのお嬢はん方が、めっちゃこっちに向かって来とんねんけどどうすんねん?」

「え、マジ?収集つかなくなるから迷いの森モードに切り替えるよ。これでいくら歩いても入口に戻るから。でも、マトモな娘はいないのかい?」

「おるよ、1人だけやけど」

「じゃあお前に権限をやるから、その子だけ通してくれ」

「あいあいさー」


「リル、ミラ聞いてたな?ミラは3人娘にお茶の入れ方とお菓子の紹介をしながら、お客様にお茶を淹れるんだ。私とルピスは姿を消すよ。リルは接客ね」

「「わかりました(リル&ミラ)」」


「リタ、ベル、エナ。キッチンはこっちよ」


 そしてリーンゴーンと鐘が鳴る


 入って来たのは地味だが趣味のいい外出用ドレスを着た18歳ぐらいの娘だった。

 長い黒髪を結い上げ、黒い目をした控えめな美人だ。

「いらっしゃいませ、お客さま。応接室にどうぞ(リル)」

「あ、はい………」

 リタがハーブティーを、ベルがお菓子を運んでくる。

 3人娘はそのまま壁の花になって見学するようだ。


「それで、いかがなさいましたか?(リル)」

 彼女の話をまとめるとこうだ。

 性悪で評判の太った女性が、何故かいきなり貴公子たちにちやほやされだした。

 その中には彼女の思い人もいた。

 話しかけても、その女のことを褒めるばかりで話しにならず、とても寂しい。

 貴公子たちの目を覚まさせることはできないだろうか?

 ただ、もしも、彼を振り向かせるものがあれば、それも欲しい。


「なるほど………魔道具を取りに行ってきます。ミラ、お代の説明よろしく(リル)」

「うん。ここの料金システムは………(略)(ミラ)」

「それでもいいです!彼が元に戻るなら!」


「お待たせしました「黄金ハッカのコロン」と「赤い花のしぼり汁」です」

「これは………?」

「まず黄金ハッカのコロンですが、つけて歩けば匂いを嗅いだ者の精神に作用している魔力を取り除きます。これで洗脳を解いてください」

「はい」


「「赤い花のしぼり汁」は眠っている人の目にそっと塗っておくと、目を覚ました時その人が本当に好きな人を自覚します。彼が好きな人はあなたです(リル)」

「え………本当に?」

「はい、真実だけを語る鏡で確認してまいりましたので(リル)」

「うれしい………」


「2回分のお代になりますが構いませんか?(リル)」

「はい。皆さんも元に戻れるならその方が良いです」


お客様は、お代を払って魔道具を持ち、帰って行った。

後はラジオに状況を聞こうか。


「はいはいやで。最近わいを頼ってくれるようになって嬉しいわぁ」

「リルとミラが気にいってるからだよ」

「ごほん!では未来のことを喋りまひょ。貴公子の皆は元に戻って、うっかり肉体関係を持っとった者は「いっそ殺せ」な状況でんな。デブ専でもないとキツイやろな」


「さて、お嬢はんの方でっけど、大丈夫、上手いこといかはるわ。元々幼馴染やったみたいでな、相手の男が寝とっても家族は通してくれるんや」

「よかった。でも、よく考えたら透明マントも一緒に買っていただくべきだったのね。幼馴染でなければ、普通は周りの目があるわ。反省ね(リル)」

「そういうのは日々勉強でいいさ。私達もそうだった」

「「はい、勉強します」」


リルとミラはもう8割がた仕上がった。

あとやる事は下級魔女3人娘の教育の手伝いと、模様替えかな?

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