第11話 時戻りの時計
~語り手・ルピス~
ごうっ!!がたがたがた!!バサバサバサバサ!!
「ハリケーンが上陸してきたわね………」
ちなみにごうっ!!は風の音。がたがたがたは屋敷の窓が立てる音。
バサバサバサは、
ハリケーンが去ったら、紫陽花園を整備しなくてはいけない。
うちの丈夫な紫陽花たちも、この風では無事ではないだろう。
どおーん!!ゴロゴロゴロ………!
「うわ、雷まで鳴り出したな。落ちないといいんだが」
ラキスが嫌そうな顔をしている。私も渋い顔ね。
当然だ、私たち二人は金属で出来ているのだ。
万が一雷が落ちたとしたら、復帰の為には一度魔界に帰る事になるだろう。
私たちは悪魔の
悪魔に堕ち、自暴自棄になって暴れていた時、私達をあっさり倒したご主人様。
「お前たちが必要だ」と言って貰えて、私達はご主人様のものになった。
私たちの体のパーツは「核」がハート形のルビーであること以外、全て金属だ。
体の内部と表皮は、全部ご主人様が手を入れて下さった。
内部は金とタングステンの合金に。
表皮は柔らかくも固くもなる
そして私たちが任されたのがこの店、「オルタンシア~願いの叶う魔道具屋」
私たちはこの任務の間、
私、ルピス。紅の紫陽花をモチーフにしたクリノリンドレスに身を包んでいる。
紅の紫陽花の髪飾りと耳飾り。右目には紅の紫陽花の眼帯。
両手の中指には大粒のルビーの指輪をはめて。
艶やかに赤い唇、シニヨンにした長い黒髪、白磁の肌、紅い瞳、145㎝と小柄。
相棒、ラキス。青い紫陽花をモチーフにしたクリノリンドレスに身を包んでいる。
青い紫陽花の髪飾りと耳飾り。右目には青い紫陽花の眼帯。
左手に月の光で作られたような銀の蝋燭立てを持って。
淡いピンクの唇、肩で切りそろえた銀髪、やはり白磁の肌、175㎝の長身
そんな私たちは今、店でハリケーンの脅威にうんざりしていた。
「避雷針があるから大丈夫だと思うわよ、ラキス」
「それでもいい音ではないよな。今外に出たら………」
「やめときなさい、機能ストップしたいの?」
「嫌に決まってるだろ、そんなの!」
私は「何でも喋るラジオ」を持ち出してきて、店のカウンターに置く。
ラキスは店頭にある、ゆったりと10人は座れるテーブルに腰をかけた。
「何でも喋るラジオ」は、トランクケースぐらいの大きなラジオだ。
効果は知りたい情報を、ラジオ番組として喋ること。
普通にお喋りもする。
私はラジオのスイッチを入れた。
「お呼びでっか、お嬢さんがた!」
「ええ、今ここに到来している台風の情報を知りたいのよ」
「お任せくださいやで!ごほん、天気予報のコーナーです。非常に強いハリケーン「ジェーン」はオルタンシアのある森を直撃中。近くにある人間の町は壊滅的被害―――洪水、家屋倒壊―――を受けています。速度は遅く、通り過ぎるのは2日後の予想です。」
「雷の情報も知りたいんだけど」
「ハリケーン「ジェーン」は、雷を伴った暴風雨を運んでおります、オルタンシアが特別製でなければ、倒壊して外に出る羽目になっていたでしょう。その場合の雷の直撃率は70%です。こんなもんでええか?」
「人間の町が壊滅的被害を受けているの?」
「せや。普段はこの辺、ハリケーンは来うへんよって、木造の家ばっかりでな、軒並み潰れとる。死人と行方不明者は、今の所合わせて20人やで」
そんな会話をして、2日後。
ハリケーンは通り過ぎていき、後には紫陽花園が荒れ放題で残った。
「ラジオ、人間の町の被害はどうなったの?」
「ああ、それな。ごほん。1000人ほどの規模の小さな町「クインシー」は元お客様であるイリウス・フォン・クルックベルト伯爵の治める領地の一部です。今回の台風では壊滅的被害を受け、行方不明者15人、死者20人を出した模様………ということや。ついでに言うと、イリウスはんは、オルタンシアに使者を出したようやで」
「あら、それは大変。見栄えが悪いから紫陽花園を何とかしないとね」
私は主寝室(ご主人様の宿泊の際使う部屋)に「時戻りの時計」を取りに行く。
ええと、紫陽花は生物だから、金の針ね。
戻したいもの―――今回は紫陽花園を―――念じながら針を逆回しすると、みるみる紫陽花園がハリケーンの前の状態に戻る。
店頭に戻ると、ラジオが喋り出した。スイッチ入れたままだったわね。
「1時間ほどでイリウスはんの使いが3人くるで!」
あら、それは大変ね。お茶の準備を―――偶にはラキスにやってもらいましょう。
~語り手・ラキス~
ふうん、領主の使いが「オルタンシア」に来るのか。
「え!?私がお茶の準備をするのかい?何か壊さないといいんだが」
「大丈夫よ。以前淹れていたじゃない。そろそろできるようになってちょうだい」
「うう………わかったよ、何を淹れたらいいかな?」
私は、レモンバーベナを淹れる事にした。
爽やかなレモンの風味と酸味のあるティーで、冷やしても美味しい。
字を書くのはあまり上手じゃないんだが、癖のある字で「レモンバーベナ5人分」と書き、ハーブティーメーカーに放りこむ。
すぐに出来上がったので、出来るだけ優しく持ち、氷精の冷蔵庫に突っ込む。
キンキンに冷えたところで取り出し、客用の(自分たち含む)カップにそそぐ。
そして黄金のアップルパイを5人分切り分け、全部大きな盆に乗せた。
そうすると、そこで―――
リーンゴーンと鐘が鳴る―――
「いらっしゃいませ、お客様方。お茶をお持ちします、座ってお待ちくださいませ」
ルピスの声が聞こえたので、ひっくり返さないよう気を付けながら、盆を運ぶ。
できるだけそっとお客様にお出しすると、私は聞こえないようにため息を吐いた。
3人のお客様は騎士の恰好をしていた。
「クルックベルト伯爵様のお使いの方で、間違いありませんか?」
「あ、ああ。既にご存知とは思わなかった。ここではどんな願いも叶うというのは本当か?町を復興させる魔道具を貰ってくるように言われたのだが」
女性騎士がそう言った。後の2人(男)は黙っているので女性がリーダーだろう。
「かしこまりました、魔道具を取りに行ってまいりますので、お茶とお菓子をお楽しみください。ラキス、後は任せたわよ」
「えーと、皆さん対価についてはもうお聞き及びだろうか?」
「はい、イリウス様から聞いております。誓約書を頂くようにとも」
「わかった、3人分用意しよう」
ルピスが戻って来た。
「「時戻りの時計」でございます」
ルピスはあらかじめ銀の針をセットした、プラチナで出来た時計を差し出す。
「戻したいもの―――今回は町の復興を念じながら針を逆回しすると、回した分だけ対象の時が戻ります。調整を間違えないようにお使い下さい。使わない時は、針を外しておくことをおすすめします」
「………わかった、感謝する」
彼らはハーブティーを飲み干し、アップルパイを食べきった。
そして対価を払って出て行った。
「ルピス、何であんな中途半端なものを渡したんだ?」
「もちろん、再度おいで願って採血させてもらうためよ」
「あー、そういうことか。黒いなぁ」
「もっと細かく聞かないからよ」
私たちはその後、魔道具の整備をしていた。
そして5時間ほどたった頃「何でも喋るラジオ」が喋り始めた。
「お嬢さん方、大変でっせ!現場を見てみましょう「時戻りの時計」を使った町が大騒ぎになっています。時戻りをしたら、死体や行方不明者が消えてしまったのです!現在は領主に苦情陳情が殺到しているとのことです!………ちゅうこっちゃ!」
「まあ、予想の範囲内ね。明日にでもまた来るでしょう」
「それより早いで。クルックベルト伯爵は苦情を聞いてすぐ、部下に詳しい事を聞かなかったことを叱責して、自分で来る模様です。1時間もあれば到着する予定」
「え?またお茶を淹れなきゃいけないのか?」
「頑張りなさいな、ラキス」
わたしはすごすごと台所に引っ込んだ。
カップを1つ割ったことを付け加えておく。直したけど………。
イリウスさんは3人の騎士を伴ってやってきた。
「やあ、ルピスさん。こっちの方がラキスさんかな?昼間は失礼した」
「お久しぶりです。そちらの状況は把握していますわ」
「並行して使う魔道具を、買い忘れた………のかな?」
「その通り。あれが戻すのは無生物か生物のどちらかだけです。「町」の復興がお望みでしたので、無生物用の時計を渡しました」
「なるほど………君のお勧めの魔道具の使い方は?」
「そうですね、もう一度「時戻りの時計」で、今度は時間を進めて壊滅状態に戻した後「剛力の指輪」で、瓦礫をどかして死体と生存者を瓦礫から出します。行方不明の人は、死んでいる場合「求める死体袋」で、死体を集めます。生きている場合は「時戻りの時計」で消える事は無いので、自然と出てくると思います。最後に、死者の蘇生の為に、遺体に「天使の血」の瓶から血を振りかけて蘇生。最後にもう一度「時戻りの時計」を使って復興させて―――それだけです」
「死者の蘇生まで出来るのかい!?」
「わりとよくある願いですもの」
「まいったね、君の言った通りの魔道具を貰うよ」
ルピスは言った通りの魔道具を取りに行った。
「対価は全員、3回の採血だよ。まあ三回なら貧血で済むと思う」
「君は、テシウスの言っていた女性かな?」
「そうだよ、テシウスさんは元気かな?」
「ああ、相変わらずだ。つるんで色々やっているよ」
「今回は、最初から来るべきだったと思うよ。なら、まともな交渉になったろうに」
「今度用事のある時は、自分で来ることにするとも」
ルピスが帰って来た。
「説明をします。「剛力の指輪」は5個をワンセットにしてお渡ししますね。小さな家なら持ち上げられるだけの力を与えてくれる指輪です。もっと数がいるならもうワンセットお持ちしますけどどうでしょう?」
「貧血で済まなくなりそうだから、1セットでいいよ」
「分かりました、次に「求める死体袋」です。封をして願えば、願った人物の死体が召喚されます。召喚されない場合はその人は生きていますので、探してください」
「なるほど、召喚されない場合、もっと救助活動をするべきということだね」
「そういうことになりますね」
「最後に「天使の血」の瓶の説明です。この瓶の中身を、付属のスプーン1杯分死者の口に流し込んで下さい。死体の状況でそれが無理な場合は、スプーン2杯分を体に振りかけて下さい。死因やけがは消え、蘇生します。多分余ると思いますので、保管は厳重にしてくださいね」
「もちろん、大事にさせて貰うよ」
「説明は以上です」
「今度こそ、元の町に戻るように祈ってるから頑張れ!」
採血の後、若干貧血気味のイリウスさんたちは帰って行った。
「こんなところで、以前の依頼者と会うなんてな」
「そうね、でもイリウスさんならアイテムを正しく使ってくれると思うわ」
「今回は「何でも喋るラジオ」があるから、経過はこいつに聞くか」
「そうね、2~3日後にでも聞いてみましょう」
3日後。ラジオのスイッチを入れる。
「クルックベルト伯爵領の町、奇跡の復活をとげる!なんと死者まで復活し、剛力の騎士5人が、災害救助を行った結果、行方不明者も発見!町も姿を取り戻し以前と変わらない活気ある街になった模様!どうやったのか?と伯爵に聞く者は多いが、伯爵は厳選して事情を話した模様。お客様が増える可能性があります!」
「どうも、上手くやったらしいな」
「今回は派手にやり過ぎたかしらねえ」
「変な客が来なければいいんだがね」
「さあね、取り合えず私たちは、頂いた血をご主人様にお渡しするまでよ」
「オルタンシア~願いの叶う魔道具屋」はいつでもあなたをお待ちしています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます