第17話 リルの一人立ち

 ~語り手・ルピス~


 今日はリルが店に来ているの。リルも15歳、成人したのね。

 成人を機に、魔女として修業しながら1人立ちするいう事でうちに来たのそうよ。

 既に家族には独り立ちの許可を貰っているわ。何故かと言うと―――


「姉さまにちょっかいをかけていた貴族が、姉さまがあまりに病弱だから………。

 それでここ半年、私の方にちょっかいをかけてくるようになったの。

 うちは豪商だけど、貴族相手に商売をしてるから、妾にと言われたら断れない。

 それで、私はそれぐらいなら遠くで独り立ちする。行き先は告げない。

 そういうことで最低限の荷物をまとめてここに来たの。

 お願い、落ち着くところが決まるまで、私をここに置いて!」


 私とラキスは宿泊料として対価1回分を貰う事で快諾した。


 で、私達はリルの一人立ちに役立ちそうなものを集めたり、魔女の先輩に連絡してあげたりして、忙しくしている。

 その間、リルには「魔女の箒の作り方」を渡し、客室で実践してもらっている。


 私は魔道具担当だ。

 「治癒の人形」………はお姉さんに説明付きであげたのね。

 どこに住むのかは未定だけど、必要ね。

 人里の近くなら病人の治癒は、いい魔女のアピールになるでしょう。

 一つ取って、の籐の籠に放りこむ。


 あとは、護身のために、アイアンゴーレムを1体。

 生活の助けにするための従者として、女性の姿のウシャブティを1つ。

 壊れた時修理する物として「エルシーのおしろい」をひと缶。

 まあこれは、みし水晶球や、身の回りの物が壊れた時にも使えるしね。

 魔女の必携用品「万能の水晶球」は絶対準備してやらねばならないでしょう。

 これはお代を貰うけど「無限の財布」も。無限に金貨が出てくる魔道具よ。

 それらを籐の籠に入れ、全てを持ち運べるように、魔法のウエストポーチを1つ。

 100種類のものを99個まで入れれる高級なアイテムで、大きいものも入るわ。

 これぐらいかしら。


 ~語り手・ラキス~


 私は本棚を前にして唸っていた。リルに送る本が決まらないのだ。

 何とか選び出したのは「6代魔帝礼讃」現在の魔帝陛下の紹介と、礼拝方法を記した本だ。それと「魔女の心得」ちゃんと最近書かれたもの。

 あとこれは対価を頂くが、「実践!生活魔法」「実践!下級呪文」「実践!中級呪文」「実践!上級呪文」の4冊。魔術書なので、確実に覚えられるだろう。


 ルピスと合流して、とりあえず応接間に本と魔道具を運んだ。

 もうすぐ魔女のやってくる頃だ、リルを呼びに行こう、と思ったら。

「ラキスー!ルピスー!出来たよ、飛べるよー!」

 と言いながら廊下を飛んでくる魔女の箒が。リルが乗ってるな。

「「おめでとう!」」

 魔女への第一歩だ。


「リル、お茶にしようと思うから手伝ってくれ」

 今日は私がお茶を淹れる。最近ガラス恐怖症?を克服したのだ。

「はぁい、茶葉は何処?」

「いや、うちのティーはこの「ハーブティーメーカー」に淹れたいお茶の名前を書いて入れたら出来上がるんだ。そこのメモとペンを使ってくれ」


「便利ー!」

「予備があるからあげようか?」

「ホントっ!欲しいわ!」

「ルピスー、かくかくしかじかだから持って来ておいてー!」 

「了解!」


 さて、リルは何のお茶を淹れるのか見てみると「ロイヤルミルクティー・茶葉はウ バ」と書いてあった。こういう書き方もアリか?

 ハーブティーメーカーを見てみると、問題なく出来ていっている。アリなんだな。

 私はその横で、黄金のアップルパイを切り分ける。

 お客さん―――魔女―――の分も先に切り分け、お皿に盛っておいた。


 今日は人数が多いので、お客様用のティーカップを出す。

 割れないように、そーっと。

 ちなみにウェッジウッドとか言うメーカーのもので、紫陽花が描かれている。

 10個ぐらいあるので、大勢のお客様に対応できる。この前の騎士みたいに。


「ねえ、ルピスとラキスってさあ、全然年を取らないね。どうして?」

「え、まだ話してなかったか、あのな―――私たちは人間じゃないんだ。

 機械人形アンドロイドが悪魔化したものだよ。

 種族は戦魔。憤怒で落ちたからだな。勉強してたならわかるだろう?」

 リルは頷く。


「悪魔になった直後は、怒りのままに暴れ狂っていたんだが。

 ご主人様に倒される事で正気に戻れたんだ。

 その上、お前たちが必要だと言ってもらえてなぁ。

 「使ってほしい」という願望が満たされたよ。

 最初は悪魔としての勉強をして、人間の事も再勉強した。

 ここには仕上げと、自分の性格を確かめるため、この店に来たんだよ」


「………そっか。なら私の悪魔の知り合い第一号だね!きっと2人と出会った時から、私は魔女になる定めだったんだよ!」

 お茶を私の差し出した銀盆にロイヤルミルクティーを並べながらリル。

 人間の成長って早いなぁ、ただの常連だと思っていたのに。

 今では可愛い妹分になっている。


 ~語り手・ルピス~


 ラキスが応接間にティーとパイを並べる。やればできるのよね。魔法はともかく。

 席に全員が落ち着いたところで、バスケットの中身をリルに渡していく。

「「治癒の人形」は、相手の心臓の上に押し付ければ、どんな病でも治るわ」


「「魔法のウエストポーチ」は、馬車くらいまでの大きさのものまで入るわ。

 100種99個まで収納できる魔道具よ」


「アイアンゴーレム」は口に、「真理」と書いた紙を差し込むと動くの。

 停止は紙を差し込んだ相手のみ「止まれ」というだけで止まる。

 再起動は「再起動」というだけでいいわ。

 紙を取ると止まったままだから気を付けてね。

 「スリープ」と言えばちいさな人形になるの。ウエストポーチに入るわよ。

 大きくしたいときは「ウェイクアップ」と唱えてね。護衛にピッタリよ。


「ウシャブティ」は、家事や内向きの仕事を手伝ってくれる有能な人形よ。

 ちゃんとした人格を持つから、仲良くね。背中に名前を書けば人間大になるわ。


「エルシーのおしろい」は、この2つの人形を修理できるわ。

 蓋の裏の説明書を読んでね、どんな無機物でも治せるから。


 「万能の水晶球」魔女の必携用品。

 占い、遠見、遠隔の術や呪いなど、全ての使用法が使えるわ。

 使いこなせるよう修業しなさい


 最後に「無限の財布」お金貨がいつまでも出てくるの。

「これだけは有料だけど、必要かしら?」

「いつも通り、ゴブレット1杯程度の血でいいんだよね?」

「構わないわ。魔女の修行をしていけば分かる事だけど、魔女の処女って貴重なの」

「なら、欲しいわ」

「分かった。以上よ。プレゼントの、魔法のウエストポーチに収納しておくわね。」


「私が選んだのは本だ」

 6代魔帝礼讃」現在の魔帝陛下の紹介と、礼拝方法を記した本だ。

 それと「魔女の心得」最近書かれたもの。

 あとこれは対価を頂くが、「実践!生活魔法」「実践!下級呪文」「実践!中級呪文」「実践!上級呪文」の4冊。魔術書なので、確実に覚えられるだろう。

「魔術書は、身の丈に合ったものから読む事!」

「はーい!有難う!」

「あ、「実践シリーズ」は血を一杯くれるかな?」

「うん!」

「ウエストポーチに入れておくな」


リーンゴーンと鐘が鳴る。依頼人ではなく、魔女だろう。


現れた女性は長身で、緋色を基調としたジプシー風のドレスを身に纏っている。

背中まである巻き毛でキラッキラの金髪に、生気を湛えて輝く青い瞳が特徴的だ。

名前はフランチェスカという。ほぼ最高級の位にある魔女だ。

ちなみに、「魔女フランチェスカの霊薬」「魔女フランチェスカのリキュール」

「魔女フランチェスカの黄泉の扉」などの制作者である。


「ハァイ!弟子を取ってくれって雷鳴君―――シュトルム大公に頼まれて来たわよ」

「どうぞ、応接室へ。何か好みのお茶とかありますか?」

「自分で淹れるわ、手伝わせて!」

「いえ、うちのお茶は―――なので、お手伝いは必要ありません」

「何それ、すっごく便利!在庫は余ってないの?ここはお店よね?」

「ありますよ、対価を頂きますけど」

「ああ、シュトルム大公から聞いてるわ。カップ一杯の血でいいのよね?」

「払っていただけるなら、ラキスに取って来てもらいますが?」

「いいわよ!お願いね。今私、お仕事で旅に出てて。ずっと馬車に乗ってるから、こういうこぼさない物が欲しかったのよ~♪」


 ラキスに取りに行かせて、私はお茶を淹れる事にする。

「改めてお聞きしますが、お望みの飲み物は?」

「そうね………ローズがいいわ」

「畏まりました。リル、机の上の食器を持って来て流しへ置いておいて」

「はぁーい」


 程なくしてローズティができ、ラキスも戻ってきたので、全員が集まった。

「まずは自己紹介よね。私はフランチェスカ。紅龍ホンロン派の魔女のリーダーよ」

「ルピスです。機械人形の上級悪魔です」

「ラキスだよ。機械人形の上級悪魔です」

「私リル!見習い魔女よ!ねえ、フランチェスカさんって私の先生だよね?」

「フラン先生でいいわよ?」

「じゃあ、フラン先生。紅龍派ってなに?魔帝陛下じゃないの?」

「魔帝陛下の第4王子、紅龍様を崇拝する派閥の魔女がいるの。

 その魔女の、人界でのトップが私。もっと偉い人は魔界に居るわ」

「そうなの?私もそうなるの?」

「紅龍様の事も教えるから、あなたの相性と意志次第ね。取り合えずスタンダードな魔女の勉強をしてもらおうとは思っているけど。それでいい?」


「大丈夫です、分かりました!」

「まあ、第一歩は、住む所探しなんだけど。私が探しておいた所を見てくれる?」

「はーい!」

 リルの返事を聞いて、彼女は胸の谷間(凄い巨乳)から羊皮紙を取り出した。

 それを丁寧に伸ばし、テーブルに置く。森に囲まれた小さな町の地図である。

 そしてレーザーポインターを(また胸の谷間から)取り出した。


「家を建てる予定地はこの辺なんだけど」

 と、ポインターを、森の中を走る街道に近い、町からある程度離れた森に当てる。

「食糧の問題もあるから、町の住民には好かれないとダメよね?」

「うん。狩りとかしたことないから、近くに村か町がないと困るよ」


「ここの人口は500人ぐらいなんだけど、100人ほど、が謎の病気にかかっているの。まあ、あたしがやったんだけどね!感染源は井戸だけど、もう無害化してるわ」

「ええっ!どうするのそれ!」

「治してあげて信用を得るに決まっているじゃない。町長と町の重役にはちゃんと感染させてあるし。今後そこでのいい評判を得れば、住みやすくなるわよ」


「ううー。治さないと死んじゃう?」

「死んじゃうわねー」

「じゃあやる。みんなに(と人形を取り出して)これを押し付けて回るの?」

「それは………病気治癒の力があるのね。でもそれは別の機会にして!勉強でもあるから、万能薬を自作してもらうわ。これなら病人を集めて配るだけで済むでしょ?」

「頑張ります、急いで作る?」

「ええ、今回は私が材料を持って来たから、空き部屋があれば借りて作るけど」

「あるわよ、使ってちょうだい」


 ~語り手・ラキス~


 2人は2階の空き部屋に消えていった。


 ♦♦♦


 2人が帰って来た。大きな袋を持っている。多分数の制限のせいでウエストポーチに入りきらなかったのだろう。

「ラキス、ルピス、私急いで行くね!また必ず来るから!」

「私のテレポートで送るし、家ができたら裏手は森だからいつでも来れるわよ」

「「頑張って!行ってらっしゃい」」


さて、心配だから水鏡で見てみようか。


リルとフランチェスカが最初に行ったのは町長の所だった。

フランチェスカは従者メイドの服に着替えている。

怪しまれながらも、不治の病(町民の中には死んだ者もいるようだ)が治る可能性にかけて、寝室まで通してもらえたのである。

「フランチェスカの万能薬」はさすが熟練の魔女のレシピ。即効だった。


町長が他の者も治してくれるよう懇願したのは当たり前といえよう。

後は身分関係なく患者を一堂に集め、万能薬(粉薬)を配るだけ。

リルは、この町(ハーレイの町)に受け入れられた。


大工を派遣してもらって、家の設計を相談し始めた。

この段階で、フランチェスカは一度帰り、連絡は特殊な遠話機でのものに切り替わっている。忙しい魔女なので仕方ないな。

だが家の設備は彼女が手を入れる為、空きスペースを作っておくよう指示があった。

家畜を飼うため(羊と鶏)の設備を指示したのもフランチェスカだ。


1か月後(リルは町の宿屋で過ごしていた)小さな屋敷が建った。

フランチェスカが手を入れにやって来て、リルの修行も始まった。


リルはこの先どんな魔女になるだろう?

私たちの事を呼び出してくれたりするだろうか?


これからも、リルの成長を見守っていこうと思う。

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