第18話 探し物をする蓄音機

 ~語り手・ルピス~


 現在5月、すっかり暖かくなった現在。

 今日は花咲く森で集めた花を、花束にしてリルが持って来てくれたわ。

 枯れないように花瓶を探さないと―――。

 あった。普段は紫陽花しか入れてない花瓶。


 応接室に飾ってみたけど、なかなか綺麗ね。


 魔女として1人立ちした現在も、というか。

 前より家が格段に近くなったので当たり前というか。

 リルは頻繁にうちに来るわ。

 綺麗な腰まであるストレートの金髪に育ち、紫の目をしているわ。

 肌もとても綺麗な白ね。紫の瞳は評価されるポイントよ。


 今はラキスと一緒に本棚の整理をしているわ。ご主人様が新しい本を送り込んで来るので、いつまでたっても整理中だわね。

 最近のは怪奇色が強いのは何故かしら?

 あんまり、それは読んじゃあだめよリル?

 あなたは私達の、大事な妹分なのだから。


 リルには私とラキスの召喚陣は渡してある。

 生贄は羊とかで構わないわ。本当は上級悪魔だから、人間がいいのだけど。

 正直貰っても困るし、食べきれないから、ご主人様の本宅に届ける事になるわ。

 お金に替えるにしてもお給料は結構いい。満足してるわ。


 羊肉なら、料理にチャレンジしてみましょうか。ウールを授かって編み物とか。

 それでも多いから、ご主人様の本宅にお肉を渡すでしょうね。

 まあ、だからリルは私達を呼べるのよ。羊を飼い始めたしね。


 さあ、今日は私とラキス(主に型抜き)が自分たちでクッキーを焼いたの。

 そろそろ出来上がるわね。

 出来上がったら、出来立てのうちに食べて欲しいじゃない?

「ラキスー、リルー!お茶の時間よ!」

 今日のお茶はクッキーを味わってほしかったので、セイロンのミルクティー。

 クッキーはプレーン、紅茶、チョコチップよ。


 座って、クッキーを食べながら―――リルは食べっぷりがいい。おばあちゃんなんかに好かれるタイプね―――リルが切り出す。

「ねえ、明後日のサバト、2人も出てくれない?」

「悪魔側の参加ね?」

「うん。主催は魔帝派の偉い人。王子派閥は持ち込み禁止。フランチェスカ師匠は行かないっていうから、私一人なの。ちょっと不安で。2人に頼みもあるし」


「その頼みっていうの、先に聞いておいてもいいわね?」

「うん、ちょっと生まれつきの障害があってね。治したいっていうより補助具みたいなものがあればっていう相談なんだけど―――」

「リルはまだ医学には手を出してないわね」

「うん、だから親しい悪魔を呼んで、魔道具を貰うねっていうことになって」

「それで?」


「後日正式に召喚するから、牛を1頭と、彼女の血―――処女だよ―――を、貧血にならない程度に採取していいから、丁度いい魔道具をお願いできない?」

「牛かあ………まあ、普通にお屋敷に卸したらいいわねえ?ラキス?」

「そうだなあ、それでいいだろ。処女はいいね!美味しいんだよ、リル。

 依頼者には明後日事前に会える?」

「うん。ラキスとルピスに来てもらうのは、実力をちゃんと示しておくためだから。

 依頼自体は後だけど」


「リルに文句は、私達が言わせないわ!」

「そうだよ、リルはこんなにかわいいんだから」

「お姉ちゃんたち………ありがとう」

 リルは実家にも帰れないのだから、私達が面倒をみないとね。


 ♦♦♦


 私たちはご主人様に許可を取ってサバトに出る事になった。勿論悪魔側で。

 私はそこで淫魔と親しくなり、ちょっと茂みに消えたりしたけど。

 ラキスはさぞ手持ち無沙汰でしょうね………と思ったら、闘技場がある。

 魔女も悪魔も出て良し!ラキスはさぞ楽しんだでしょう。

 互角に戦った相手―――悪魔だった―――と茂みに消えたりしてたわ。


 「ラキスー、ルピスー。お姉ちゃんたちー」

 「「あっ」」

 慌てて相手にいとまを告げて(アドレスは交換したけど)リルの所に出て行く。

 相手も、私の身分を考えれば、デートぐらいしてくれるでしょう。

 お友達ができたわね。

 「どうしたの、リル」


「紹介したい娘だよ」

 おっとりした感じの子で、茶色の髪をしている。目も茶色ね。

「今晩はー」

「こんばんは、先に聞いておくけど、どういう願いなのかな?」

「本当に聞いてくれるんですねえ、ちょっと感激」


「忘れるんですよ、今行動しているのが何のためか。何を取りに行こうとしてたか。酷い時は、辞書で調べようとしている言葉すら忘れます」

「そっか、なら丁度いい魔道具があるわ」

「安心して」

「ありがとう………じゃあ今度、リルと一緒に召喚しますね!あ、私ミラと言います。駆け出し魔女ですが、処女は魔帝陛下に捧げています」


「わかったよ、よろしくミラ」

「召喚を2日後に」

「待ってるわ」


 彼女とリルは、下級魔女の集まりに消えていった。

「………しまった、茂みはつつくなって言い忘れたわ」

「私たちはセクサロイド機能があるからなぁ」


 ♦♦♦


 ~語り手・ラキス~


 2日後、実際に召喚があった。

「立っているのはしんどい、椅子を作らせてはくれないか?」

「ダメです、私達を害さないと誓って下さい」

「ならこの結界を解いてくれないか?」

「ダメです、私以外も害さないと誓いなさい」

 そんな「典型テンプレート」の儀式を終えて。


 リル―ルピスと私のW召喚はきつかったからミラと協力召喚したんだね。

 生贄の祭壇には、牛が2頭生きたまま置かれている。

「ご所望のものを持って来たよ」

 わたしは、立派な、けど持ち歩ける蓄音機をミラに渡す。


「これは………?」

「忘れた、と思ったらスイッチを押すといいよ、流れる音楽を聴いてたら、すぐに思い出せるから。無限に再生されるから心配しないで使えるよ」

「ホントっ!!」


 蓄音機を抱きしめて喜ぶミラ。この子も可愛いね。

 心配事があったら、リルの所に行くといい。私達と「繋いで」くれるから。

「はい、はい………っ」

 必死だな、心配になって来たよ。

 ルピスの方を見たら、彼女もそういう顔になっていたよ。


 ♦♦♦


 それから水盆を見ていたら、彼女が大商人の一人娘で、よく伝言を頼まれることが分かった。蓄音機はフル稼働だ。

「ああっ!どうして私の耳はこんななの!もしかして依頼の仕方を間違ってる!?」

まあ、その通りだ。何とかしてと言われたが、治してくれとは言われてない。

「リルの所に行かなくちゃ」


 リルに詰め寄るミラ。

「それは依頼の仕方が悪かったね。考え直してもう一度呼ぼう」

「ホントに次は大丈夫!?」

「私にも分からない。あの二人は魔女と人間の関係にはシビアだから」

「他に治る当ては!?」

「わたしには、ないよ」


 結局、2日後にもう一度呼び出される事になった。

テンプレートな会話をして、呼び出されたのは私一人。魔力がきついみたいだ。

わたしの病気………ではなくて障害を治してください。

了解。この金色の姿見を持って行きな!

使い方は、おかしいと思う場所を指さし、女神の慈悲を乞うと、障害が治る。

太古の女神の神力が、未だ眠る貴重なアーティファクトだ。


帰って、水盆を見れば、今度こそ障害を振り払う彼女の姿がある。

リルの友達になってくれるといいんだけれどな。


リルは今日も、本を帰しにうちに来て、ついでに書庫の整理を手伝っている。

もはやこの書庫の主はリルかもしれない。

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