第19話 友情と、魔道具の大判振る舞い

 ~語り手・ラキス~


 今は6月、うちの紫陽花オルタンシアたちが輝く季節だ。


 今日はルピスがいない。

 どうも、この間のサバトで出会ったインキュバスと良い仲になって、魔界にデート しに行ったみたいだね。本気ではなさそうだったから火遊びかな?

 まあ、あのサバトでは、私もお楽しみだったけど。


 え?私たちはどっちが美人なのか?

 う~ん、好みの問題であって、優劣はないんじゃないかなあ?

 私たちは機械人形アンドロイドだから、顔はいくらでもいじれるしね。


 そう、私達は機械人形アンドロイドであり悪魔でもある。

 「憤怒」の業に堕ちた時、私達は自我のある悪魔になった。

 それでも「憤怒」を制御できなくて暴れてた。

 それを、ご主人様が負かしてくれて、冷静にしてくれたんだ。

 以来私たちはご主人様の忠実なシモベさ!


 体も完璧なものに作り変えて貰ったよ!

 柔軟な金と超固いタングステンの合金。体の皮膚は生体魔鋼アダマンタイト


 私は、ラキス。青い紫陽花をモチーフにしたクリノリンドレスに身を包んでいる。

 青い紫陽花の髪飾りと耳飾り。右目には青い紫陽花の眼帯。

 左手に月の光で作られたような銀の蝋燭立てを持って。

 淡いピンクの唇、肩で切りそろえた銀髪、やはり白磁の肌、175㎝の長身だ


 そして、さっきからコマネズミの様にちょこちょこと本を片付けて回っているのは

 私たちのかわいい「リル」。

 ここに来た客の中で唯一魔女に昇ってきて、私達の妹分になった。凄く可愛い。


 そして妹分候補がもう一人。

 本を片付ける場所をリルに聞きつつ、こちらもちょこちょこと本を片付けている。

 名前はミラ。茶色の髪を背中までのおさげにしている。目も茶色で。

 肌は柔らかいビスク。大きな丸眼鏡(伊達ではなく本物)をしている。

 彼女は魔帝に処女を捧げている(要は処女だという事)ので、嬉しい人材でもある。

 うちで貨幣として使える血として価値がとても高いのだ。


 献血1回で貴重な魔術書が読めるなら………当然血を支払うよね?

 (リルがそそのかしたようだが)

 彼女もここが気にいったらしく、頻繁にお手伝いしに来てくれる。

 リルとミラが本を整理し始めてから分かったのだが、何と、床に積まれている書物を全部、棚に納めようとしても納まりきらないことが発覚!

 狼狽えた私はその場でご主人様を呼び出してしまった(後でルピスに殴られた)


 ご主人様の普段の姿は16歳ぐらいの少年。しかも、物凄い美形だ。

 服は、クラバットをつけた、レースを重ねた灰色のシャツ。

 黒いズボンに、光沢のある布ベルト。貴族の纏うコートは漆黒。

 黒髪のショートに、赤い目がヴァンパイアだという主張をしている。

 リルとミラはポーっとなっていた。


 ご主人様は地下室を拡張し、新しい本棚を創造すると、リルとミラに

「君達という友達が彼女たちにできて良かった。主に君(リル)の血、いつも美味しくいただいているよ。ミラだっけ?君のも美味しかった。「処女で魔女」の血って最高級品なんだよ?ありがとうね、いくらでも遊びにおいで」

 と言い残して去って行かれた。ついでとばかり、追加の本をどっさり置いて。

 

 多分そのせいだろう、普通の魔女は年齢を止める場合は20歳ぐらいで年齢をストップさせるのだが、2人共十六歳をキープしようかなと言い出した。

 ご主人様と会う機会は無いと言いたいが、機会が存在する可能性がある。

 そう思ったので、私は黙っていた。ルピスもそうするだろう。

 ご主人様は女に優しいからなぁ。


 そして先週、ミラが近所に引っ越してくるという話になっていると聞いた。

 場所はともかく、家出自体は使用人に(今にも)魔女だと気付かれる可能性があるので仕方なくだ。本当は父とは別れたくないと言っているが。


 1回分の料金で、手紙と2㎏までものをやり取りできる鳥を渡すけど、欲しい?

 と言ったら、絶対欲しいです!と言われたので

「手紙なら5通、物なら2㎏までを、最初にインプットした相手と持ち主との間で

 やり取りできるカナリア」


「食料はいらないけどおやつを欲しがよ。クッキーとかね。喋るように設定すれば人格を持つけど設定する?」


 嬉しそうに宛先を父に(この場合、お父さんがどこに居ても探し出して渡す)する。

 その上で、人格をONに設定した。目覚めるのは6時間後だ。

 実は、家具は近くの町で買うつもりで、必要なものは全部リルの倉庫への移し替えが住んでいるという事だった。

 なら、手伝うよ、丁度いい魔道具があるんだ。あ、悪いけど血を貰える?


 そんなやり取りをしていると、リルが

「さっきまでのやりとり、聞いてたけど。それならミラ、もう私の家の横に来たら?土地とかは全部半分こ。家畜も畑も半分こで、一緒に育てましょう。

勉強とかも、一緒にできる物は一緒にやった方が効率がいいし」

「リル!いいの?!」

「いいよ!私の先生は授業はしてくれないだろうけど、私が教えればいいよね」


「じゃあ明日から。まずは家だな。今日は泊まってお行きよ」

 私はパンと手のひらに握り拳を打ちつけて………思い出した。

「あっ!忘れてた。2人共!整理整頓が終わったら―――今日片付くわけないから一

 区切りついたら―――シュガーパイを食べないかい?作ったんだ。

 好みのお茶を聞きに来たんだよ」

 歓声が上がった。


 次の日、私は大工の服に『上級ドレスチェンジ』で着替える。

 この2人は「下級ドレスチェンジ」しか知らないようなので、上級のを教える。

 下級は所持している服だけなのだが、上級なら好きな物を出す事ができる。

 めんどくさがりな魔女は、これでドレスも作ってしまうとか。

 便利魔法だし、無料で教えても怒られないだろう。


 朝帰りのルピスに今日の予定を伝えると、飛び上がり、私も行く!と言った。

「良いけど君、男の匂いがまだするよ。教育上悪いと思うんだが?」

「うっ………そうね、分かった。着替えて今日は留守番するわ」

「キッチンの棚の中に、私が作ったシュガーパイがまだあるよ」

「あなたが作ったの!?」

 私は答えず胸を張って、階下へ戻っていった。


 私はリルとミラの見守る中「トイブロック 家制作キット」というものを、机の上でひっくり返す。このトイブロックの代金は頂き済み。効果は―――

組み立てたものが本物の材質となって具現化(サイズも想定通り)する、である。


 机に出たパーツの数々を見て、目をキラキラさせる2人。

「わたしもこれで建て増ししちゃダメ?」

「その場合は、元の家をまず作って、リメイクの呪文をかけるんだけど………足りな

 い物があったっけ?あと採血をリルにも頼むよ?」

「地下に貯蔵庫と書庫が欲しい!特に本!『コピー』した本が溢れそうなの!」


 そんな一幕がはさまったが、家づくりが始まった。

 ちなみにカナリヤの性格は「ヘイ!おはようベイビー」「今日は朝から予定が詰まっているぜ」「愛しのパパへの伝言は俺に任せな」………という感じになった。

 本人は面白がっているので良いか。あ、名前はジョニーだそうだ

 

 私は先にミラの家を作る。

 私は不器用だが、このシリーズは組み立てやすく出来ているので有難い。

 キッチンと食卓、トイレ(ちゃんとパーツがあるのだ)を1階に。

 居間と暖炉、書庫は2階に。3階は、広い主寝室と客室と物置だ。

 本が増える事を考えて、地下という設定で書庫を作る。ワインセラーも作る。

 

 私は2人にいいワインや珍しいワインは、意外と捧げものに喜ばれると教える。

 特に権魔(マモン領民)には、いいもの(ワインでも年代物)を渡すと喜ばれる。

 戦魔は強いお酒で、魔界に置いてない物だと喜ばれる。

 他にも喜ばれるものを教えつつ、家の作成を終えた。リルもできたようだな。


 後は、リルのと同規模の農場が要るな?女性一人だから………ヤギとかどうだ?

「価値はどれぐらいになるんです?」

「リルの羊と同じぐらいだけど………2人で飼うなら、簡単に飼えるアルパカとかどうだ?羊では出せないふわふわした毛が取れるぞ。これでショールを作ればかなりポイント高いんじゃないかな、特に淫魔と権魔に」

「アルパカにします」

とミラが言うので


「トイブロック 農場制作キット」で、6匹のアルパカと周辺設備を作る。

「一番喜ばれるお肉ってなんですか?」

「一番オーソドックスなのは人間―――それも魂は封印具に入れて魂ごと。心が美しい人間の死体や「魂」なんかは定番中の定番だね」


「ドラゴンならどの部位でも喜ばれる。生きたままの幻獣とかもね」

とんっと、ミラの家と農場が完成した。

「リルも家をバージョンアップさせるんだな?」

「うん!ここにバルコニーが欲しい。それとミラと同じ地下室も!それとミラ、本で一杯にならないように、もうある本は相手の家のを読めばいいんじゃないかな!?」

「それいいね!」


「よっし、じゃあ、壊さないように目的地に『テレポート』するから私に触ってー」

「はーい」


 目的地にはすぐ着いた。ほんとうにリルの家の隣だ。

 私はそーっと「縁切りのはさみ」を使う。だが今回は切るのではない。

 ゆるく「友情の糸(ピンク)」が絡み合っている2人の「友情の糸」を強固に結びつけるのだ。お隣同士で仲が悪くなるのを防止したかったから。主にリルの為に。

 ついでなので、ミラの「実家との絆」と「実家方面の友達」との縁もをチョキンと切っておく。よし!これで大丈夫。


「ラキスー。ミラの建設予定地、まだ木なんだけど大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」

 私は荷物から小さなワンドを取り出し―――「原子分解!」とワードを唱えた。

 消える2~3本の木。これを繰り返すだけでいい。

「ラ、ラキス?それって滅茶苦茶難易度の高い術じゃ?」

「そうだね、だからご主人様がアイテムとして私たちにくれたものだし」

 ご主人様の強さを察して、青くなった後、嬉しそうになった二人。何故だ?


「はいっ、これで場所は空いたよ。ついでにノーム(大地の精霊)にお願いして平らにならしておいてもらったから、模型を置いて!」

ミラが模型を置くと、それはムクムクと大きくなり、木製の家が出現した。

「今なら材質を変えられるけど、どうする?」

「ミラ、私の家は花崗岩にしてもらうつもりだから、合わせない?」

「そう?じゃあ花崗岩でお願いします!」

「OK」


「はいっ、じゃあ次は―――これだ「けもののワンド」」

 これをひと振りするたびに、1匹の動物が出てくる。今回は6振りだね。

 これで農場にアルパカが出てきた。

「多分まだ市場に出回ってないから、数は繁殖で増やしてねー」

「ありがとうございました!」


 最後に、リルの所を改装して―――と思っていたんだけど。

 2人からインテリアをどうしたらいいか相談を受けた。

「うーん。ああ、丁度良さそうな魔法の本があるな」

 なら、お代は払いますからそれを売って下さいと頼まれてしまった。

「伯爵夫人のインテリア」

 効果は、載っているインテリア(凄い数だ)を実体化させるというもの。

「買ってくれたから言うけど、ちゃんとサイズ表記を見なさいね」

「「はーい」」


やれやれ、これで2人が落ち着けるね。

あ、一応アルパカの飼育方法の本も置いて行こう。

留守の間の事を聞いたら、ルピスはどんな反応をするだろう?

怒るか拗ねるか喜ぶか………。

私は2人に手を振り、「紫陽花オルタンシア」に帰るべく森に入ったのだった。

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