第13話 魅惑の肖像画

 ~語り手・ルピス~


 本格的に寒さが迫っている11月。

 私達は武器庫の整理をしていたわ。今日は剣、もちろん全部何かの魔法武器よ。

 ケースから出ると暴れ出す様なのもあり、そういうのは怪力のラキスにお任せ。

 私は繊細なものを担当。それでも危ないものもあるけれど。


「なあ、この剣とかさ、持ち主を竜退治の英雄にしたってことだけどさ、竜が現れたら、持ち主の手ぇ引っ張って、自分で動くんだから、龍退治したのは持ち主じゃないような気がするんだけど」

「伝説はいいように書くものね」


「確かに変なものばかりだけれど、ご主人様はそういうのも好きだから」

「買うんだろうか、それとも見つけに行くんだろうか?」

「両方じゃないかしら?詳しい事は私も知らないわ」


 私達は悪魔になるまでは単なる機械人形アンドロイドだったんだもの。

 まだ使えるのに、宇宙のゴミ溜めに捨てられた怒りが私達を憤怒の罪に堕とした。

 そうして魔界で半ば理性なく暴れまわっていた時、ご主人様に倒されたの。

 そして、私達が必要だと言って貰えた。嬉しかったわ。

 そして魔界の事を勉強してしばらくしてから、この「オルタンシア」に来たのよ。


 私、ルピス。紅の紫陽花をモチーフにしたクリノリンドレスに身を包んでいる。

 紅の紫陽花の髪飾りと耳飾り。右目には紅の紫陽花の眼帯。

 両手の中指には大粒のルビーの指輪をはめて。

 艶やかに赤い唇、シニヨンにした長い黒髪、白磁の肌、紅い瞳、145㎝と小柄。


 相棒、ラキス。青い紫陽花をモチーフにしたクリノリンドレスに身を包んでいる。

 青い紫陽花の髪飾りと耳飾り。右目には青い紫陽花の眼帯。

 左手に月の光で作られたような銀の蝋燭立てを持って。

 淡いピンクの唇、肩で切りそろえた銀髪、やはり白磁の肌、175㎝の長身


 暗殺人形アサシンロイド戦闘人形バトルロイドなのよ。


「よしっ、最後の剣を研ぎ終えたぞ」

「あら、私ももうすぐよ、少し待ってね」

「そういえば「食べられる黄金」シリーズに黄金のういろうが入ったな」

「ええ、ご主人様が差し入れて下さったわね」

「今日のティーは、和風のものにしないか?」

「あら、いいわね。そうしましょう………っと」


 私も最後の剣を研ぎ終えた。剣以外の武器はまた明日ね!

 もう夕方なのだもの。キリもいいし、そろそろやめてもいいでしょう。

「剣以外のものはまた明日ね」

「明日もこれかぁ」

「バリエーションは楽しめると思うけど」


「そういえば、自分の武器も手入れしないとだな」

「明日ついでにやりましょ。武器庫は広いからあなたのも大丈夫でしょう」

「そうだな、キャンドル・スティックは最大時5mだから………」

「わたしのは、コンパクトだけどね」

「峨眉刺は暗記だからな。魔法武器だから、伸び縮みはするけど」


「さあ、私はお茶を入れに行ってくるわ」

 とはいったものの、和風のティーねえ………。

 美肌効果もある、ハトムギにしましょうか!

 え?ただの麦茶だって?〇粒のいいものを使うからいいのよ!

 まあ、その判断は「ハーブティーメーカー」次第なんだけど。


「ハーブティーメーカー」に「ハトムギ」と書いた紙を入れて。

 黄金のういろうを切り分けましょうか。

 両方できたところで、応接室(兼私たちのサロン)に運んでいく。

「できたわよー」


「いい香りだな、香ばしくて」

「そうよねえ。ういろうも、美味しいわよー」

「おっ。ほんとだ、美味しい」

 そんな感じでお茶会は終わり。

 私が片づけをしているところで彼が来た。


 ~語り手・ラキス~


 リーンゴーンと鳴らなかったので、お客様ではないな。

 彼は、確か―――。

 真ん丸眼鏡に、くすんだ金髪、散ったそばかす―――たしか彼は―――。

「あら、絵画の修復屋さん………ポールさんじゃないの」

 それだ!


「久しぶりだな!忘れてたわけじゃないぞ!」

「あはは、キョトン顔してたじゃないですか。いいんです、僕は地味だし」

「それよりも、もうメンテナンスの時期なのね。前は200年前だったかしら」

「絵画はデリケートですからね。取り合えず上の部屋からメンテ・修復させて貰いますが、いいですか?」

「ああ!どうせ私たちは寝る必要はないからな!何かあったら言ってくれ!」


「分かりました。それでは」

「気を付けて下さいね。全部魔道具ですから」


 そう言ってメンテナンス作業に入り、5時間が過ぎた頃。

 わたしとラキスがお茶を出してあげようか、などと話していた時だ。


「ああっ、何て美しい女性なんだ、我が君、今から迎えに行くよぉ~!」

 と叫んで、誰かが―――えっ!ポールさん?

 ポールさんは商売道具を全部置いたまま、玄関から飛び出して行ってしまう。

 突然の事で、呆然としていると


 ラキスが

「あっ!これ!今まで作動した事なかったのに!」

「えっ!それ、「魅惑の肖像画」じゃないの!ということは………」

「ポールさんは絵の女性に恋して飛び出して………」

「これ、てっきりもう魔力が切れてると思っていたんだが」

「今回のメンテナンスで回復したのかしらね………」


「………水盆で経過を見るか?」

「そうね、もう森を出ちゃっただろうし」

 水盆を覗き込んで見ると、コンパスを持って―――多分マジックアイテム―――草原を越え、荒野を進み、砂漠を越えて恐らくは「魅惑の肖像画」のモデルの元へ走る ポールさん。

 食事と休憩以外はほとんど走っている。


「なあ、この肖像画のモデルって今生きてるのか?」

「生きてるけど………たぶんもう凄いおばあちゃんよ。今更求愛されても向こうも困るんじゃないかしら。孫とかいるでしょうし」

「そろそろ私達も準備して、魔道具を持って出発した方が良くないか?」

「………そうね。彼が辿り着いちゃう前に」


 そうして、彼が息も絶え絶えになりながら辿り着いた一軒家。

 這ってでも、と辿り着く前に私達は立ちはだかった。

「はい、ポールさん、水」

 渡した水を一気飲み―――と言ってもお猪口一杯程―――して倒れるポールさん。

 飲ませたのは「レテの川の水」だ。

 飲む量に応じて、綺麗さっぱり記憶が消える水。分量あってると思うけど。


 ルピスは目的の家に細工に行った。

 わたしももう一仕事―――。


 ポールさんが朝目覚めると、倒れた彼を覗き込む美少女が一人。

 彼は、その少女に恋をしてしまった。


 彼に使ったのは「朱色の花」のしぼり汁。花のしぼり汁を寝ている人の瞼にたらすと、目が覚めて最初に見た人に恋をする。


「あ………」

 娘さんは彼を見て、赤く頬を染めた。

 ルピスが彼女とポールさんに使ったのは「結ぶ赤い糸」

 結んだ糸同士の相手は、運命の恋人になれる。


「あの………ぼく、どうやってここまで来たのか覚えていないんです………行き倒れというやつなんですが、どうやらあなたに恋をしてしまったようです」

「私は倒れたあなたを見て………運命を感じました」

 思わず、という感じで抱き合う2人。

 それに私たちは満足したのだった。


「水を飲ませるだけでよかったかなあ?」

「それだとあんなに必死に探したのに、報われないんじゃない?」

「まあ、うちの品であんなんなったんだからなあ」

「そういうこと、今回はちょっと特殊なアフターケアね」

「お代がないだけで?」

「そうね」


 私達は笑い合いながら、ポールさんの荷物を梱包して届けてあげるのだった。

 

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