顔面コンテスト
翌日、文化祭の詳細について森くんと陽菜さんが進行しながら授業の時間を削っていた。
「クラスの出し物にプラスしてこの学校はみんな知ってる通り、自由参加のミスコンとミスターコンがある。そこで得点を手に入れれば、美男美女揃いの俺らにはもう勝ちがハグしてるようなもんだ。だから良ければ誰か参加してやっても良いって人いないか?」
地獄のコンテストである、ミスコンとミスターコン。確かにクラスに入るポイントは高い。1位を獲得すると、学年1位の出し物とほぼ同等のポイントが貰える。メイド喫茶で高得点を狙える僕たちには、より確実性の増す文化祭の名物だ。
しかし、出たいと思う人は居ない。正確には出たいと思う女子は居ない。なぜならこのコンテスト、完全に顔で決まるからだ。世間一般で知られるミスコンミスターコンは容姿以外に、自分の個性を活かしたことや、自分だけの魅力を伝えることも審査内容に含まれるのだが、この学校にそんなものはない。
学生同士の投票により決められるので、完全に顔が良い人が勝つ。僕と森くんならほとんどの票が森くんに行くというライバル殺しのコンテストである。
男子なら巫山戯て出ることもあり、票が少ないことをネタにいじったりしているが、女子はもうすごい争奪戦であり、熾烈なバトルが繰り広げられる。
各クラス1人ずつの参加が認められているので、傷を負うのは完全に1人。負わない確率は相当低い。
1年は全8クラス。その中から1位だけが決められる。3位まであってもいいと思うんだけどな。
「ミスターは光輝が出ろよ」
「残念、俺は委員だから用事あって出れないんだよ。だから出るなら必然的にお前か楓斗か神代になるぞ」
ここでも名前が上げられる。そんなに僕は人気なのか?バカにされてるなら赤ちゃんのように今ここで泣きじゃくるが。
「それに、男子の顔面人気投票ならお前らに勝てるクラスないだろ。だから誰が出ても1位は取れるだろ」
確かに。このクラスは妙にイケメンが多い。他クラスにもいないわけではないが、圧倒的なのはうちのクラスだ。
「問題はミスコンって言いたいんでしょ?」
陽菜さんが悟ったように口を開く。
「問題とまではいかねーよ。ただ女子には3組に蓮水さんが居るだろ?7組には
7組の
クールという表現が正しいほどキレイ。人気ぶりは言わずもがな、告白された日が最高19日続き、告白されない日が5日しか続かなかったという実績があるほど人気である。
19日連続は大変だ。それに未だに告白されない日が5日連続なのだ。どれだけの男女を虜にしてきたか分かる。
「なら、最終手段使うしかないだろ」
鞍馬くんが何を口にするか、それをクラス全員理解した。もちろん名前を出されるであろう本人も。
「流川さんが出てくれれば俺らの勝ちじゃないか?さすがに流川さんに勝てる女子はいないだろ」
見事に爆弾を投下してくれた。
ほら、鞍馬くんのせいで後ろから圧がかけられるじゃないか。
「お前なぁ……」
フォローにも限界がある。下手なこと言えば制裁が下されるので、しっかりとした誰も傷つけないフォローをしなければならない。どれだけ大変か鞍馬くんは分かってないだろう。
圧に気付かないふりをしてただ前を見続ける。振り向けば待つのは、どうにかしろという合図。僕になにかできるわけでもないので、後でごめんと1言謝るつもりでいる。
しかし、そう思い続けるのは無理があった。流川さんの方向から消しカスが投げられる。こうなったら後ろを向かざるを得ない。万事休す。
チラッと見ると、首で行けと合図される。
かしこまりました、女王陛下。
「流川さんが出るって事にして、他のクラスからの参加を凌げば良いんじゃない?みんな流川さんのことは知ってるからそれを上手く利用して、勝てないって思わせれば自由参加のミスコンなら参加してこないだろうし。そこで代わりに出てくれる人を見つければ」
我ながらいい案ではないだろうか。流川さんも小さく親指を立てている。よし、これで貸1つだ。
1位だけがポイントを得られるこのシステムを上手いこと利用するのだ。
「ありだな、それ」
「それなら私が代わりに出るよ。文化委員だけど用事無いし」
陽菜さんが出てくれるだけでも、雫と朱雀さんには勝てるほどの人気と容姿をしている。だから最悪2人が出るとなっても問題はない。
「これなら完璧だな。1位取って豪華景品貰うか」
やる気に満ち溢れるのは必然的だ。勝てる未来が濃いし、何よりこのクラスでならどんな出し物ですら楽しく思い出を作れそうだ。
こうしてなんとか圧を回避し、ミスコンの問題も解決した。
その後ミスターコンについても話し合ったが、結局ジャンケンに負けた鞍馬くんが出場となり運のなさをここでも見せつけてくれた。
いや、人を下ネタで呼ぶ罰だな。
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