薪集め?違うよ距離を縮めるんです

 制限時間は16時までで今からだとおよそ1時間半という丁度いいのか長すぎるのか分からないが、決して短くない薪集めが始まった。


 薪、といっても燃やせそうな木ならなんでも良さそうなのでそこらへんに落ちてる、年老いた枝から親から見放された枝などを中心に集める。


 木についてる枝を折ってまで集めたいと思うほどやる気はないし、もしやる気があっても可哀想とか思ってしまう性分なので決して折ることはない。


 バラバラに探すようで、7人バラバラに別れてスタートした。集めて持てなくなったら戻ってきて決められた範囲に自分の薪を置く。もし盗んだりすればその時は口では言えない制裁を雫にくだされるそうなのでやらない。


 でも他3人は逆にスイッチが入って盗むかもしれないな。ドMはどこまでもドMだからね……。


 僕は置きやすさを重視したいので、森家別荘の裏側に回って良さそうなのを集めては距離の近い僕の薪置きの範囲に落とす。簡単に思えても意外と腰が痛くなるし大変だから、楽しくやってるってよりかは最下位にならないためにやってるって感じだ。


 そして何より大変なのは、流川さんも同じ考えのようで僕が薪を置きに行けば裏に回って回収して、僕が薪を集めに行けば薪を置きに行ったりと完全に避けられているのだ。


 確かにバラさないでとは言われたけど関わるなとまでは言ってないじゃん。あー傷つく。


 トホホ、と悲しい現実をなんとか受け止めようとするが難しい。持っていく速さを変えてもそれに合わせて関わらないように調節されるので、涙、まじで出るよ?


 始まってから15分ぐらい。僕が薪を置きに行って帰ってくるとそこに流川さんの姿はなくなっていた。新しいとこに行って探し始めたのかと思ったが、まだ枝とかは残っていたのでその可能性は低かった。


 もしかして近くで迷ったのかとも思っても、そこまで離れてないとこで流川さんともあろう人が迷うことなんて絶対にないのでこれも違う。


 結局考えても答えは浮かばなかったので、そのまま薪を集めることにした。気になるのは気になるが気にしすぎたらまた睨まれてキモいと言われるのがオチだ。触れすぎるのは良くない。


 薪を抱えて置きに行こうと腰を上げた時、「キャッ」と女の子の声がした。空耳ではないと確信できたのはその音の主を探し見つけたときだった。


 別荘裏には少し歩くと斜面ができていて、その下にも行けるのだが森の中っぽく薄暗くて気味が悪いので行こうとはしなかった。でも声はそこから聞こえてきた気がしたので恐る恐る薪を抱えたまま見に行く。


 そしたらなんとあの流川さんがいるじゃないですか。


 流川さんは幹の太い木に掴まりながら、少し大きめの枝を拾おうと頑張っているように見えた。先程の悲鳴のような声は足を滑らせたりしたからだろう、それでも諦めないとこに木への執着を感じる。そんなにあの枝がほしいのだろうか。


 僕はその頑張る姿を見ながら、可愛いと思い膝を曲げて流川さんを観察していた。今思えば見られてる側からするとキモくてしょうがないな。


 そんな僕の視線に気づいたのは10秒ぐらい経ったときだった。流川さんが僕に見られてると分かった瞬間、木に掴まるのを止め、なんとか誤魔化そうとあたふたし始めた。めちゃくちゃ可愛い。


 「何?」


 可愛いさのある態度から180℃。飛んできた言葉は鋭利な物のようで、ノホホンとする僕の胸を鋭く突き刺した。


 「あ、いや、これは……」


 今度はこっちがあたふたする番のようだ。やばいなんも思いつかないわ。


 「枝、取りたいの?」


 と、混乱した頭から出た言葉はストレート過ぎた。これで流川さんに、私が取ろうとしてるとこを見られてたのか、と確信させることになり、恥ずかしさを余計に与えてしまった。


 混乱したときは口にチャックするのがオススメだな。


 「……別に」


 あーこれ取りたいやつじゃん。この態度はハチの時と同じやつじゃん。


 否定されてもそれが本心ではないことをすでに知っているので今回も折れずになんとか取る方法に持っていく。


 周りに誰もいないことを確認して下に降りていく。頼む見つからないでくださいなんでもするんで、と神様にお祈りしながら。


 「え、なんでこっち来たの」


 心底嫌だと言うのが伝わってくる。まじでごめんなさい!


 「僕があの枝取りたかったからだよ。ただそれだけ」


 近くで見てみても大きいだけの枝に変わりはない。何か特別な情が湧くほどのものはないと思うが。


 「そう。じゃ私は戻るから」


 「え?ホントに?」


 これは予想外。ホントにいらないやつだったのか?そうならここに来たことは全部失敗で水の泡だ。僕の流川さんと距離を縮める計画が!


 ここで逃せば恥ずかしいのは僕になってしまうし、ただの流川さん大好き人間と勘違いされるデメリットだけなのでフル回転させてこの場を取り持つ。


 が、無理無理。僕の頭じゃフル回転させてもいい案なんて浮かぶわけがない。そもそもフル回転してるのかすら分からないレベルなのに。


 仕方ない、ここは諦めて恥ずかしさを1人で堪能するか。と思っていた時、やはり助け舟は流川号しかなかった。


 「嘘だよ。それ、何かついてるでしょ?」


 「え?」


 何がついてるのか確かめると、枝に可愛くされた犬のシールが貼ってあった。まさか……。

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