99%がツンでできてると言われる天使の残り1%は心臓に悪すぎる

XIS

ツンツン天使とゲームセンター美女店員




 僕のクラスには口が悪く、誰にでも高飛車だけど天使と言われるほどの美少女がいる。名前は流川蘭るかわらん。流川さんは女子には優しく、天使と言われるのが分かるほど可愛い1面を見せるが、男子にはその真逆で関わろうとする人を睨み、喋りかけられたなら「うるさい、話しかけるな」と言い返している。


 傍から見れば性格の悪い美少女だが、なぜか僕のクラスの男子は――。


 「流川さん流川さん、一緒に帰らない?」


 「はぁ?前も言ったけど――話しかけんな。帰るわけないでしょ。君みたいな変なのと」


 「あっはぁ、今日も辛辣だ!」


 っとことようにドMが多いのだ。今話しかけたのはクラスの人気者、森光輝もりこうき。名前の通り勉強、運動と輝きまくっている。ちなみに勉強はできなさすぎて輝き、運動は天才すぎて輝いている。


 僕はというとそんな彼らを後ろから見守る保護者的立場にいる。いい意味で言うとこんな感じだが、悪く言うと陰キャの立ち位置だ。違うのは陽キャグループを支えてるということ。


 僕は森くんを含め、陽キャグループと仲がいい。よくグループの中で話しを聞いているが、自分から話すことはあまりない。話すことが得意ではないし聞くことが好きだから。


 そうすると自然と、多く喋る人がグループの中心となり、聞くことが多い僕は話しに共感したり相槌を打つ立場になった。意外と気に入っている。


 今は放課後、僕は帰る準備をしている。夏が本格的に近づいてきているのを感じる7月、半袖でも熱気に耐えられない。汗はポツポツ顔を出すし、風は生ぬるくて気持ち悪いし……でも冬よりは全然ましなんだよね。


 教科書、体操服、タオルなどカバンに詰める。パンパンにはならないほど少ない持ち物。とても楽だ、少しでも疲れないほうがいいからね。


 教室を出るとき電気を消す。クラスの中には残る人は誰もいない。静寂を作った教室は暗いせいか涼しそうに見えた。


 「家帰って何しようかな」


 帰るときは基本一人のため、独り言をよくこぼす。みんな部活に行くから無所属の僕は必然的に一人になる。ほとんど部活に所属しているが、僕の知る中で無所属なのは流川さんぐらいだ。


 なぜ僕が無所属なのかは【普通】だから。勉強をしても成績はクラスの真ん中だし運動をしても下手でもなければ上手でもない、実に漫画やアニメで端っこに描かれるモブだ。


 たが気にしてはいない。どちらか片方ができないわけじゃないからだ。なるべく困ることは避けたいタイプなので自分の中で困る基準の「できない」を作らなければそれでいい。


 玄関に着いても家で何をするか決まっていなかった。一人暮らしの僕には帰っても話し相手もいない。とても悲しい現実だ。


 「暇つぶしにゲームセンターにでも行くか」


 僕はUFOキャッチャーが上手い。自慢できるほど上手い。それは僕が単にぬいぐるみが好きで、昔からやり込んでいたからだ。


 高校1年の身長178cmである僕にぬいぐるみなんて似合わないが、幼い頃、今高校は違うが幼馴染の九重渚ここのえなぎさによくぬいぐるみを取ってあげていたら自然と上手くなっていたのだ。


 だから意図して上手くなったというわけでもなければ、もとからぬいぐるみが好きだったというわけでもない。


 そういうことでよく暇でもすることがなければゲームセンターに行く。そのゲームセンターでは僕の顔を覚えた店員さんに出禁少年と言われている。なんとも恥ずかしい。


 一人でゲームセンターなんて傍から見ればガチ勢に見えたり、逆にボッチの学生の暇つぶしと思われているだろう。どっちも当てはまっているのは面白いな。メガネを掛ければ完全にボッチの学生の暇つぶしに満場一致するだろうが。


 校門を出ておよそ10分で目的地に着いた。入り口には猫が休んでいるだけで、学生が屯しているなんてことはなかった。そりゃこの陽の強さなら日陰であっても室内のクーラーの良さには勝てないか。


 僕もさっさと陽の光からさようならしたかったのでタオルで汗を拭いて自動ドアの前に立つ。ビーッと開くドアの動く遅さに、きっとドアも暑さにやられているのだと共感してやる。


 赤道直下から北極に移動したほどの寒暖差を一瞬にして感じる。生き返るというかだらけるというか、とにかく楽になった。


 でも唯一鼓膜だけはイヤイヤ期に入ったまんまで、ゲームセンターのうるささに久しぶりと挨拶する。ちょうど誰かが商品をゲットしたようで店員の一人がカランカランと鳴らし「おめでとうございます」と言っていた。


 少し進むと何を持ち帰ってやろうかと良さげの子を探す。


 「おや、久しぶりじゃない?出禁少年」


 高校生ではない大人びた声の先に目を向けると、現大学生のアルバイト店員、僕のことを覚えている唯一の店員である鳳凰院美奈ほうおういんみなさんがいた。


 「お久しぶりです鳳凰院さん」


 鳳凰院さんは大学生1年なので僕とは3つ違いだ。鳳凰院さんの特徴は簡単に言うと圧倒的【美】というとこ。今僕の通う緑生高校りょくせいこうこうの先輩で、過去に3年の時の文化祭のミス緑生の票を9割持っていったという伝説の美女だ。


 おそるべし……。


 「今日は何を取りに来たのかな?」


 「決まってませんよ」


 「いつも通りだね。なにもないなら私が決めてあげようか?」


 「あーそれはいいですね。じゃお願いします」


 「おっけー、それじゃついてきな少年」


 

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