嘘つき天使人形
僕が可愛いなんて自分でも想像したくない。多分顔のことを言っているのではなく、性格の話なのだろうが、それでも無理なものは無理だ。
はぁぁ、大変な文化祭になりそうだな。
心の中でため息を吐いた時、後ろでガサゴソ音がし始めた。今日もお早い帰宅のようだ。後ろを振り向く。席順が変わらないことがこんなに嬉しいのはこの学校ぐらいではないだろうか。
「もう帰る?」
「うん」
「なら一緒に帰ろうよ」
「全然無理。神代と帰っても良いことないじゃん」
流川さんは夏休みが明けてもなーんにも変わらなかった。ちょっと距離が縮まったと浮かれていた日が夢の中のようで、学校が始まって調子乗って話しかけたら一蹴どころか十蹴ぐらいされてメンタルボコボコにされた。
それでもめげずに僕は話しかけるが、それでも夢の中は現実にやってこない。悲しすぎる。
しかし、そんな流川さんでも一筋の光は見せてくれる。
「何かぬいぐるみ取るけど?」
「はい、一緒に帰ってあげる。先に行ってるから追いついてね」
神によって授けられた言葉、「ぬいぐるみ取るけど」だ。これは天使にだけ有効で、使用回数は無限というお金でもでも買えないほどの貴重品。
それを使えば天使は流れるように同行を許すようになる。これが夏休み明け1番驚いて、面白くて、楽しい時間だ。
上から目線なのは気にしない。これが流川蘭なのだ。逆に上からでなければ違和感を覚えるほどまで関わっているので変わらないでいてほしい。
「分かった。多分校門過ぎて追いつくよ」
「あっそ」
まだ何もバックに詰めていない僕は急ぐこともなく教材を詰め込む。どうせ会えるんだから忘れ物がないように注意するのが重要だ。また雫に怒られるのも申し訳ないからな。
スカスカのバックに教材を込めてもスカスカのまま。置き勉と言われるやつで、ほとんど使わないものや使っても持ち帰りが面倒なのは学校に置いている。だからスカスカ。
今玄関を出たぐらいか。僕は頭の中で流川さん人形を作って学校中を走らせている。速さ的に合ってると思う。何もなければ。
このままではゲームセンターまで追いつけない可能性があるので、少しテンポアップする。階段を一段飛ばしから二段に変更。危ないがミスることはないのでセーフ。
玄関まで来ると姿はなく、校門を過ぎてる頃だと人形は言う。
思ったよりも速い。
ローファーに履き替えスピードを上げて走る。疲れるのは好きじゃないが仕方ない。追いつきたい気持ちには勝てないしね。
そして校門を出るとやっと背中を捉える。50m先にある背中は100%美少女だと分からせるほどオーラを放っている。神は目印をつけるなんてこともするらしい。
50mをお互い歩く走るで距離を詰める。追いついた頃には倍は走ったのではないだろうか。
「はぁぁ、疲れたぁ!」
普段運動をしない僕に体力というものは存在しないに等しかった。
「必死過ぎでしょ。倒れられたら困るんですけど」
「流川さんがスピード緩めてくれたら倒れることはないんだけど?」
「なんで神代のために私が遅く歩かないといけないの?」
ごもっともだけど!それなら困るとか言わないでほしいんですけど。
そこまで言うなら僕だって反撃はできる。
「走ったよね?」
「走ってません」
「嘘付きには良くないこと起きるよ?後で後悔しない?」
「全然しない。嘘なんて付いたこともない」
それは嘘だろうが、絶対に走ったと言えるほど流川さんは珍しく息切れしていた。正確には息切れではなく、歩く呼吸では考えられない息遣いをしていた。
流川さんなら走るなんて可愛いイジワルをやってきそうだし。
「それなら良いけど」
ホントかは本人しか知らない。だから嘘付くな、なんて言えるわけもない。確かではない情報で決めつけるのはよろしくないからな。
「嘘、走った」
「やっぱり?――嘘付いたから僕はこのまま帰る」
「ダメだよ。取ってくれるまで付いていく。家の中でもお風呂の中でもトイレの中でもどこへでも」
「さすがにそれはヤバいでしょ……普通に取るよ」
天使がそんなことするのか、と思うがマジでやりそうなのでここは僕が引くのが正しい。不思議な生態系をする流川さんに火をつければどうなるか、それは未知だ。
久しぶりにゲームセンターに行くわけでもないが、日に日に暑さは涼しさへと、涼しさは寒さへと変わりつつあるのが分かる。
緑生の生徒はもう冬服に移行しているので、寒いとまでは行かずとも冷たい風は感じる。これからどこまで冷えるか心配だ。
「流川さんはメイド喫茶どう思う?」
話の内容はこれに限る。今下校中、部活中の生徒はほとんどこの話で持ち切りだろう。
「めちゃくちゃ反対。メイドなんてやりたくない」
「ですよね」
賛成が返ってくるとは思っていない。むしろ僕も反対派だから共感者がいてくれて嬉しい。
「でも、やれって言われたらやる?」
「……男子と女子で別けられて、女子しか私のとこに来ないならやる。それ以外は無理」
「ってことはほぼやる気ゼロってことだね」
「当たり前でしょ」
正直女子だけだとしても流川さんはやりたくないだろう。僕の予想ではチヤホヤされるのがあまり好きではないタイプだろうから、周りに合わせないといけないって思いでなんとか首の皮一枚繋がってる感じだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます