怖い話は脅し道具

 背中に小動物を乗せて歩いていると勘違いするほど軽いが、実は160cmもある美少女なのだ。なんでこんなに軽いのか教えてもらいたいものだ。


 決してガリガリではない。細すぎるとも言われない完璧なスタイルを保っていて、雫情報では腹筋割れてるとかなんとか。そこまで来たら神は流川さんに何もかもを与えすぎていると思った。


 絶対前世で地球じゃなくて宇宙を救って来たな。そうじゃないと意味分からん。


 「着きそうになったら降りるからそれまでお願い」


 「嫌だって言ったら?」


 「その時はセクハラされたって言うか、殴るかの2択」


 嘘だ。2択となっているがこれは実は1択で、セクハラされたって言うついでに殴ってくる。もう騙されない。


 「素直に下ろします」


 「ありがとう」


 そろそろ1回殴られるのもありかなとは思って来た。どれほどの力なのかシンプルに知りたい。相当なものだとは分かっていても気絶とかまではいかないだろうから。


 これがドMの思考なのかな。


 下心満載の思考をしながらも確実に前に進む。もしかしたら知らない間に迷ってて帰れないなんてことないだろうか。あったらそれはそれで流川さんと長く居られるのでありっちゃあり。


 「神代がキモいことを考えてる気がする」


 「え?……まぁそうだけど、普通のことだよ」


 「普通でもなんでもキモいことは統一してキモいから、神代はキモかったってことだね」


 「間違いではないです」


 思考を読まれているようだ。能力者としての才能もあるならやはり宇宙を救って神様に好かれたんだろうな。僕もそんな人になれたら今よりは楽に生きれたりして。


 なんて有りもしない夢を妄想していた。


 「流川さんって男子嫌いだよね?それって僕も含まれてると思うけど、なんで僕とは関わってくれるの?」


 ふと、妄想の中で聞いてみたいことが降ってきた。今聞けと言わんばかりに。


 「全部お礼だから。クレーンゲームだったり、可愛いものだったりこれだってそう。だから関わってるんだよ」


 お礼なら嫌でもやってくれるのか。


 「お礼が無かったら関わって無い?」


 「多分ね。ゲームセンターで会ったのが神代じゃなかったら神代と関わることは無かっただろうし、今もここにはいないよ」


 ここに流川さんが居るのは僕のおかげと言っても過言ではない。陽菜さんが誘っても無理なのを僕がさらにお願いして無理矢理来てもらったんだ。


 奇跡というのはこういうことを言うんだと初めて理解した。あの時の気分がゲームセンターじゃなかったら今僕は何をしていただろうか。きっと家の中で引きこもっていたに違いない。


 「なら、あの時流川さんに話しかけておいて良かったよ」


 鳳凰院さんが背中を押したからとはいえ、出会えたことは良かった。なによりも良かったと思える。


 「でもまぁ、神代のこと嫌いなのは変わらないけどね」


 「……余計な一言」


 僕は黙って屈む。流川さんの足は地面に着いた。


 「嫌いな人の背中には乗りたくないだろうし、僕も乗せたくないから1人で歩いて帰ってくださーい」


 「無理無理。しがみついて離れないから」


 グッと首に回した手に力を込める。今度は首は締まらないものの、絶対に離せないと理解できるほど力は強かった。ホントに女子かよ。


 「はぁぁ、じゃ怖い話します」


 「したらこの先何があっても神代とは口聞かないよ」


 「とある村の病院に……」


 僕は無視をして立ち上がり、歩きながら続ける。もちろん自分も怖いが、今は流川さんがくっついてくれているのでそこまでだ。


 「夜勤に勤しむ看護師さんがいました。その看護師さんは患者さん想いでいつも――」


 「あーー聞こえないー神代ーなんて言ってるー聞こえないー」


 両手は僕の首にあるので、二の腕で耳を塞ぎ、聞きたくないがために自分の声で相殺する。なんとも可愛い。


 しかし僕は声量を上げる。


 「いつも担当の患者さんの所に深夜2時ピッタリに向かっていました。しかしある日、看護師さんは患者さんの――」


 「分かった、降参する。ごめんなさいもう言いません。なのでやめてください」


 ギブアップは思ったよりも早かった。


 顔は見えないが、怖がっているのは十分伝わってきた。やり過ぎたかなとは思うけど、嫌いと言った罰としては丁度いいかもしれない。


 「はい、それじゃ楽しい話をしよう」


 「早くしてよ。ホントに楽しい話じゃないと後でどうなっても知らないからね?」


 「その時はいつかやり返しされると覚悟しててね」


 「…………」


 「流川さんの生態系についての話とかどう?僕興味あるんだけど」


 「何それ、冗談抜きでキモい。同じ人間なのかも怪しいレベルのキモさなんだけど」


 今日は僕により反撃されるからか、普段よりも棘が増々の辛辣ぶりだ。人間としての存在を疑われたのは初めてだが、流川さんじゃなかったら泣くレベルで精神的にくるな。


 「んー、なら流川さんの好きなことについて、とか?」


 「それを知って神代になんのメリットが?」


 「好きなことしながら1人楽しくぬいぐるみと会話する流川さんを想像できる」


 「バカじゃないの?」


 有り得そうなのがこの妄想の良いところ。流川さんがぬいぐるみと会話してるとこなんてギャップで1日は幸せに生きていける。


 「僕から出てくる話は流川さんのことだけだから、流川さんが何か話始めてよ」


 「私も何もないよ」


 「それじゃ楽しい話できなくて僕がイジメられるじゃん」


 「私は構わないけど」


 「僕は無理」


 「なら頑張れ」


 話したいこと聞きたいことはもう特にないからこういった内容のない話しかしない。僕らしくてありかもしれない。

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