キャンプに天使……ありだな

 夏はもう真っ只中と言っても過言ではないほど本格的に暑さを感じ始めた今日。僕たちは終業式を迎えていた。


 流川さんと最後に帰ったあの日から噂が立つことはなく、関わることもなかった。だから結局僕のニヤニヤは治らなかった。いや、治さなかった。そもそもあんな美少女の前でニヤニヤしないほうが難しいのだ。これは流川さんに考えを改めてもらうしかなさそうだ。


 他力本願極まれり。何も自分はしたくないというとこから流川さんにニヤニヤを気持ち悪く思わないようになれと言っているようなもので、まぁ最低だ。


 そして今、担任を待つ中でいろいろと陽キャグループでは話が盛り上がっている。中心はもちろん森くん。


 「それでさみんなでこの夏キャンプしようぜ」


 キャンプか……お父さんと幼い頃やったことがある。でも大体はお父さんが必要なことをやってしまったので、ただ森に泊まりきただけの子供になっていた記憶がある。


 「やるとしてみんな来るのか?」


 陽キャグループでも森くんと近い立場にいる鞍馬智くらまともくんが聞き返す。どちらかといえばみんなに聞いているようなものか。


 「俺は暇だから行くかな」


 「私も!なんか楽しそうじゃん」


 彼方くんとクラスでは流川さんと1番仲のいい女子の香月陽菜かづきひなさんが賛成する。


 「僕も行くかな。何も予定はないから」


 僕は行かない。なんて言える空気ではない。これが無言の圧力であり強制参加の呪いだ。幸い嫌なことじゃないのが救いだ。


 「やるとしてもどこでするの?」


 気になることはその時に聞くタイプなので森くんに問う。


 「父さんが別荘持ってるからそこを借りてやろうかなって思ってる」


 「え、そうなんだ。森くんのお父さん凄いね」


 身近に別荘とか持ってるお金持ちがいるとは……。やはり森くんのスポーツ面においての天才ぶりは家の環境が関係しているのかな。


 とりあえず別荘があるならそれは楽しみだ。テント張って寝るとかなったら作業が大変だし、虫とか入ってくるから耐えられない。


 「じゃみんな行くってことか」


 「でもこのメンバーなら陽菜さんが女の子1人になるから最低でももう1人女の子呼ばないとじゃない?」


 陽菜さんも良くこんな騒がしい男たちの中にいられるものだ。実は僕たち5人はなかなかうるさいのだ。自覚ないけど。


 陽菜さんは男子と関わるほうが楽らしく、よく森くんと鞍馬くんといるとこを見る。女子とは流川さんとぐらいしか一緒にいない。


 「蘭連れて来ようか?」


 陽菜さんの発言に僕以外の男子の空気が変化する。


 「香月、ホントにそれできるのか?」


 真っ先に口を開くのはやはり森くん。この中で1番流川さんにアタックしては跳ね除けられている。そのメンタルが僕にもほしい。


 「できるとも!友達舐めたらダメっすよ」


 おぉ!と盛り上がる男子陣。そうなりますよねと共感しておく。特に森くん、両手挙げて声出してるとこ流川さんも見てるから、この話しバレて拒否られたら森くんのせいだよ。


 「それじゃ頼んだぞ香月様!」


 「俺からも頼む」


 「俺からも」


 この流れなら僕も言わないといけないのか。


 「僕からもお願いします」


 僕からも、の前にじゃあとつけそうになったがギリギリ回避。でも僕がそういうことに乗り気じゃないのは3人ともに知っている。だから、お前はなんで乗り気じゃないんだよと詰め寄られても冗談と捉えれるので問題ない。


 流川さんが呼ばれるのは高嶺の花である流川さんとみんなが話したいからだろう。可愛いから呼ぶのもあるかもしれないがそれなら陽菜さんだけでも十分だ。それほどに陽菜さんは容姿は整っている方だと思う。


 類は友を呼ぶ。その通り流川さんの近くには陽菜さんや雫といった美少女勢揃いだ。


 そうして夏休み、みんなの予定が合う日にキャンプをすることになった。楽しみだが、流川さんが心配でもある。来ない可能性が90%で来ない気しかしないので杞憂ならそれでいいのだが……なんだか来そうな気もするのが違和感だ。


 来たら来たで楽しくなるように全力を尽くすだけなので今から考えたってどうこうできるものではない。それから考えるのをやめた。


 ――終業式が終わり、午後に入る前に帰宅を始める。


 各々友達と帰ったり部活に行く中で僕は変わることない1人での帰宅をする。手順は変わらず、カバンにプリントをしまって机から離れる。まだ半分はクラスに残っていたので久しぶりに電気を消さなくていい。


 教室を出る寸前見えた流川さんと香月さんが何かを話してる様子。おそらく先ほどの話しを伝えているのだろう。結果が気になるが近いうちに教えてもらえるだろうからスポッと意識から飛ばす。


 「閃くん!」


 振り向くとそこには雫がいた。僕を下の名前で君付けするのは雫だから振り向く前に分かったが。


 「ん?どうかした?」


 「一緒に帰ろー」


 「いいけど、部活は?」


 「今日は休みー」


 「そうなんだ」


 自然と僕の隣に来て並んで歩き出す。恋人同士に見えることはない。僕が雫に釣り合わないしみんなそう思ってるだろうから。


 意外と声が大きかったのか僕のクラスの生徒が僕らを見ていた。なんとも恥ずかしい。その中に流川さんもいたけど相変わらず冷たい視線で心が冷えた。


 みんな僕と雫が幼馴染だって知ってるからいいけど、知らなかったら冷たい視線は流川さんだけじゃなかっただろう。そう考えると美少女の隣って怖いなと思う。

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