人生1のやらかし?

 「やあやあ緑生の美少女ちゃん、いきなりごめんね」


 「……こんにちは」


 鳳凰院さんに話しかけられたことに驚きを見せるがそれよりも僕を見て、この場に同級生の男子がいることに驚きを見せているようだった。


 本当に申し訳ない。


 「私に何か?」


 僕のことは知っているはずだけど今は他人ですという雰囲気だ。


 「そのハチのぬいぐるみを見て、取りたそうだったからほしいのかと思ったんだけど」


 「…………」


 図星だったのか、何も言い返してこなかった。


 「だからクレーンゲームの名人を連れてきたんだけど、どうかな。取ってもらったら」


 鳳凰院さんは僕に春が訪れるように後押しをしてくれているつもりなんだろうが、返ってこれは逆効果なのを知るのは僕だけだった。


 悪気はないのだろうが、これから流川さんと険悪ムードになる未来が見える僕には最悪の出会いだ。


 「……結構です」


 その一言だけ残し鳳凰院さんに一礼して流川さんは足早にここから去っていった。やはり怒っただろうな。


 明日からの学校生活が……。


 そんな高校生活の悩みなど皆無、今となっては大学生活を充実させている鳳凰院さんはケラケラと笑っていた。


 「少年、あれは見られたくないものを見られた人の態度だから――やらかしちゃったね」


 「はい、もう学校行けませんよ」


 「ははっ、ごめんごめん」


 気持ちのこもってない謝罪に僕は相変わらずだと思いため息を吐く。結構重めのため息だ。


 「じゃ落ち込む少年に1つアドバイスをしよう――あの子はこのハチのぬいぐるみのことめちゃくちゃ好きだよ。これは勘でも予想でもなくて確実にね」


 ケラケラムードから声色を変え、真剣さを醸し出して伝える言葉はなぜか信じることができた。鳳凰院さんがそこまで確信できている理由がわからないがそれでも。


 「それを聞いて僕にどうしろと?」


 「もちろん、今からぬいぐるみを取ってあの子にプレゼントするんだよ。それ以外ないでしょ」


 「……鳳凰院さんは知らないかもしれませんが、あの子はどんなに頑張っても付き合うなんてことにはできませんよ」


 「なんで?」


 「あの子流川って言うんですけど、流川さんは男子のことが嫌いみたいで関わると悪口を言うほどなんです。だから無理なんですよ。そもそも僕は付き合いたいとは思いませんし」


 深く関わったことはないが態度から推測するに間違いない。男子が嫌いでなければなぜあんな態度を取るのか理解ができないので結局どう考えても男子が嫌いだからという理由にしかならない。


 僕も積極的に関わろうとはしたことがないので流川さんについて知らないことは僕も悪いと思う。でもドMじゃないので自ら罵られに行くようなことはしないし、豆腐メンタルだから悪口も言われたくない。


 結局は流川さんと関わるまでには僕の中に越えられない壁があるのだ。


 「ふふっ、ホントにそうか確かめてみたらどうだい?少年」


 「確かめてみる?」


 「はーいおねぇさんは仕事があるのでお喋りはここまで。あとは自分の頭と会議して答えを導くんだよー」


 「そんな……」


 中途半端はムズムズして嫌いな僕に最大級のムズムズを残して仕事に戻っていった。近くで商品をゲットした人がいたようで鐘を鳴らしてまるで自分が取ったかのようにはしゃいでいた。


 これからどうしようか。するべきことは何か考えていた僕は答えを自分なりに導き出しその通り実行する。たとえこれが間違いでもそれは仕方ない。


 流川さんに悪口を言われる覚悟を決め、僕はゲームセンターを後にした。


 ――翌日の学校、僕は流川さんと思われる視線を感じまくっていた。授業中も休み時間も。この日僕に休める時間が訪れることは一切なかった。


 見られていても僕は絶対に気づいていないふりをする。視線を探すこともしない。まるで掌の上で踊らせている天才のように。


 そして放課後、教室を出ようとしたとき初めて声をかけられた。


 「ちょっと」


 声の主は流川さん。クラスには僕と流川さんだけ。他の人は部活や部活が休みのため早めに帰ったので誰もいない。今なら誰にも聞かれない見られないと思って話しかけてきたのだろう。


 「は、はい」


 話しかけられることは頭に入れていたものの実際考えていたように反応はできない。陰キャ特有の挙動不審が出てしまったがそんなことを一切気にかける様子はなく、話しを続けた。


 「昨日のこと誰かにいった?」


 上目遣いだが脅迫されている感じだ。何もなく普通に過ごしていたら可愛いと思うのだろうが、やらかし中の僕には癒やし効果も好きになる第一歩にもならなかった。


 「言ってません」


 普段同級生に敬語を使うことはないが今は使わなければ圧でやられそうだったので無理にでも使う。


 「そう、ならいいよ。引き止めてごめん、さっさと帰りな」


 「え、いいんですか?」


 「……見られたなら仕方ないじゃない。それに今日誰にも言わなかったならこれからも言わないだろうから忠告しなくてもいいでしょ」


 会話をしたのはこれが初めて。意外と悪口は言われないしトゲトゲした喋り方もしない。普通の女子高校生だ。


 やはり自分の思い込みが偏見からくる過大評価だったのだりうかと思い始めていた。しかしそんなことないと思うのはすぐだった。


 「ねぇ、もし口すべらして誰かに言ったら学校生活楽しくなくなるかもしれないからね」


 今日1の圧と睨みだった。鳥肌がひょこひょこ顔を出すのが分かる。冷や汗までは行かないが近しいとこまできていた。


 「忠告しないんじゃ……」


 「気が変わったの。安心してポロッと言われたらめんどくさいから」


 「そ、そうですか」


 怖いと思うのは一瞬だけ。その他は少し可愛さを感じる。見た目は可愛いのに性格が可愛くないキャップから感覚が鈍らされているようだ。


 それでも圧には勝てなかったが。


 「まぁそういうことだから。私は帰る。じゃあね」


 そうして帰路につこうとする流川さんの後ろをついていく。

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