リベンジゲーム

 微妙な距離感で後ろをついていくので傍から見るとストーカーそのものだろうが、これは僕が話しかけようかやめておくか葛藤しているからなるもので、意図してやっているわけではない。いや、意図してやってない方がまずいか。


 僕が後ろにいることに気づいてなさそうなのでいいものの、気づかれてるなら言葉のナイフが不可避として飛んでくるだろう。


 そんな中でも葛藤に悩まされていたが、昨日の鳳凰院さんの僕に対しての何かが、きっと流川さんの男子嫌いの何かに繋がると思い喋りかけることに決める。


 近づく一歩が重く距離が長く感じる。関わることのないと思っていた人に自分から話しかけるのだから緊張してしまう。告白をするわけでもないのにそれに近い緊張。いや、告白したことないから分かんないや。


 混乱していても足取りはスムーズ。いつの間にか下足箱で流川さんに追いついていた。


 深呼吸をする。


 「流川さん」


 「っ!」


 名前を呼んだ瞬間、やらないといけないと覚悟が決まり吹っ切れた気がした。こうなれば人間は最強になり、なんでもできそうな気持ちになる。


 流川さんは後ろから男子に声をかけられたこともないだろから分かりやすく驚いた。華奢な体が肩を中心に上下にビクッと揺れる。


 「何?」


 あたりをキョロキョロして人がいないか確認をする。そして誰もいないことが把握できたらしく話しを聞いてあげると言ってきた。


 「今日ってこれから予定ある?」


 濁さずどストレートに質問をぶつける。これで予定がないと答えるとこの先僕に何かを誘われると予想がつくだろう。


 「……ないけど」


 「ならこれからゲームセンター行かない?」


 少しはこうやって誘われることは頭にあったはずだが、実際言われるとどうしようか悩むものだ。


 「行かない。昨日はたまたま暇で行っただけで今日は気分じゃないし君と行きたくない」


 最後の言葉が辛辣すぎて響いた。女の子に君と行きたくないとか言われてそれでも誘うやつはいないだろうが僕はそこでくじけない。


 「じゃあのハチのぬいぐるみはいらないの?僕なら取れるのに」


 「…………」


 黙ってしまった。きっと流川さんも悩んでいるはずだ。ほしいぬいぐるみは自分で取れないけど取れると言う人が目の前にいる。だけどそれは嫌いな男子で同級生。


 僕がもし同じ立場ならぬいぐるみを取ってと頼んでいたかな。その立場を熟知しないと分かんないけどね。


 「そんな悩むなら取ろうよ。僕のことは嫌かもしれないけどぬいぐるみは嫌じゃないでしょ?」


 「……いらない……けどどうせ暇だからゲームセンターにはついていってあげる」


 「ホント?!ありがとう」


 理由はぬいぐるみがほしいとか僕と行きたいからとか意味のあるものではなく暇だからという単純なものだけど、それでも嬉しかった。


 ツンツンしてる流川さんとほんの少しだけど距離を縮めれる機会がやってきたんだ。


 「僕と横並びで歩きたくないだろうから僕先に行ってるね」


 「うん、早く行って」


 変わらず辛辣。だけど悪い気持ちは全くなかった。もしかしたら僕もドMなのか。いや、言われてわかるけど僕がドMなんじゃなくて流川さんに悪口を言われてもチクチクされてもそもそも悪い気持ちなんて微塵も感じないのだ。


 ドMのように罵倒が気持ちいいとか思ったりはしない。大人のトラやクマが威嚇すると怖いと感じるが、子供のトラやクマが威嚇すると可愛いと思えるのと同じで、可愛い人が悪口を言っても何も思わない。しかもそれが心からの悪口でないのだからなおさら嫌な思いはしない。


 流川さんが本気で悪口を言っていたら男子と大喧嘩しているだろうし、何より流川さんはもともとツンツンした人なのでそれを分かってる人からしたら当たり前の日常に過剰反応する人のほうが珍しく感じるだろう。


 常に話しの真ん中にいる流川さんは自分のことをどう思っているのだろうか。気になるけど聞かない。いつか知れたら良いなって思うだけ。


 そんな流川さんと、僕は今ゲームセンターに向かって距離を取って向かっている。いつか隣で歩くことはできるのか、なんて思いながら進める足は暑さから避けるために校内の廊下を歩くより倍速かった。


 そして昨日ぶりのゲームセンターについた。


 流川さんはまだ後ろなので先に入って僕は鳳凰院さんを探して話しかけに行った。このために僕は距離を置いて先に行くと伝えたのだ。


 「あっ、鳳凰院さん」


 「ん?おおー出禁少年じゃん。珍しいね2日連続なんて」


 「はい、今日は暇だから来たんじゃないんですけど――」


 僕は鳳凰院さんに流川さんが今から来ること、話してもちゃかさないことを伝えた。その他流川さんの嫌そうなこともまとめて。


 「ふふーん。少年も本気で恋をし始めたか」


 「違いますよ。ただ昨日のことが申し訳なかったからそのお詫びにって感じです」


 「ふーん。そういうとこ律儀だよね」


 「そうですかね」


 仲良くなれたらなという下心はある。だけどそれは理想であり夢。叶わなくても別にいい。今の学校でも普通に不満はないから。ただそこに何かが加わって彩りが増すのなら大歓迎というだけだ。


 「それでは僕はクレーンゲームのとこ行くので」


 「うんうん。頑張るんだぞ少年」


 「はい」と答え僕はハチの住処に向かった。ちなみに鳳凰院さんは僕のことを名前で呼ばない。もちろんフルネームで知っているが出禁少年のほうが呼びやすいとのことで。


 流川さんが来る前に何か捕まえようかと見回っていたらそんな暇もなく2人集合した。

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