そこまで気にしなくて良かったりする?
もちろん授業に集中できるはずもなく僕は同じことを考えてはやばいやばいと脳内再生していた。流川さんの威圧感のある顔が忘れられない。
どうしよう。
4限目が終わり昼休みに入る。僕は基本弁当を食べるのでパンや飲み物を買いに行くことはない。が、それではさっきから感じてる圧でどうにかなってしまいそうなので購買部に向かうと見せかけて珍しく開放されている屋上に向かうとする。
屋上に行けるとはいえ人は少ない。緑生のみんなにとっては珍しくないからという理由もあるが1番の理由は今が夏だからだろう。炎天下に晒されながら屋上ですることなんてない。
階段を駆け上がる。弁当は持っていない。弁当を持ってどこかに行けば購買部に行ったと嘘がつけないからだ。
ガチャっとドアを開けるとそこには陽炎や蝉、溶けかけのアスファルトと夏でしか感じられないものが目一杯広がっていた。自分から来といてなんだが屋上に来る必要なかったんじゃないかと今更思う。まさに後悔先に立たず。
タオルも持ってきてないので汗をふけない。この屋上で唯一の日陰に身を持っていく。日向より圧倒的にましだろう。
腰を下ろすと、同時に先の出来事も頭に落ちてくる。目を閉じて上を向くと葉っぱで隠れた太陽が必死にその微かな隙間をくぐって地に光を届けようとしているようでもどかしく感じる。全く眩しくないが暑さは凌げない。
でも今の僕は体に感じるすべての事より流川さんのことを優先するべきだと思っているため、暑さも眩しさも蝉の音も些細なことだと思えていた。
「はぁ、どうしようかな」
独りでにこぼしたとこで案が浮かぶわけでもない。それでも口に出さなければ。
迷惑をかけるのは良くない。男嫌いの流川さんならなおさら。幸い僕と帰ったことが見間違えとなってきているため良かったもののやらかしたことには変わりないのでどうやって謝ろうかフル回転で答えを出す。
「……無理だ」
うん。無理だった。もう成るように成れと新たな覚悟を決め始めた僕は暑さによる汗とそれとは別の汗が出始めるのを感じていた。いい加減戻るかと腰を動かしたとき、僕は目の前の人に氷漬けにされた。
「えっ、流川さん?」
いたのは流川さん。なぜいるのかは聞くまでもなさそうだった。
「あの、その、ご、ごめんなさい。朝噂のこと聞いてそれで……」
まず出てきたのは謝罪の言葉。これは優先すべきことだと僕の中ですでに決められていたことなのでスラっと口に出せた。
でもなんて言って謝ればいいのかは考えていなかった。僕がゲームセンターに誘ったから?一緒に帰るよう提案したから?それでも――。
「朝の噂?あー、君と帰ったこと?それは別にどうでもいいよ」
なんのこと?と首を傾げたものの思い出したのはその後すぐ。そのことについてどうでもいいよと1言、俺は頭の上に?が無数に立ち上った。
「え?どうでもいい?」
正常な脳の使い方ができなくなるほど混乱していた僕は単純に聞き返すことしかできない。
「噂はただの噂、いつかは無くなるし私が違うって言えばそれは違うことになるから気にすることでもないじゃん」
「それじゃ、なんでここに?」
噂に対して何も思わないならここに来る意味を理解できているのは流川さんだけだ。僕はてっきり噂に関して話をしに僕を追ってきたのかと思っているためいろいろ一致しないものがある。
「君と話しがしたかったから」
言葉に一瞬詰まったようだがそんなことを気にできるほど余裕はなかった。
「やっぱり僕に何か仕返しを?」
「違う。ただ連絡先を知りたいって思っただけ」
「連絡先を知りたい?」
もう今の僕は聞き返しbotになっている。次から次に耳に入る言葉が信じられなくて予想外のことばかりだから確かめないと勘違いを起こす。
「正確には、お礼をしたかったけど君の連絡先を知らなくてどうしようもなかったからどうにかできるように連絡先を教えてもらおうと話しかけようとしたってこと」
「……お礼って昨日の?」
「それ以外ないでしょ」
ほんの少し安堵する。
「それなら大丈夫だよ。僕がもともと流川さんにお詫びとしてやりたかったことだから」
「でもお詫びとしてやらないとって思わせたのは私でしょ?だからそれは私も悪いことしたし、その上でその……ぬいぐるみまで貰ったし……」
ぬいぐるみのことになるとなぜか語気が弱くなる。何かがあるのだろうか。
「だから君、神代は何がいい?お礼は」
名前を呼ばれたのは2回目。聞き慣れない声から呼ばれることに恥ずかしさと嬉しさが交差して複雑な気持ちになる。
「お礼か……」
パーティーゲームやカードゲームをするときに決める罰ゲームなみに決めるのが難しい。何がお礼としてもらうに値するものか考える。そして1つ思いつく。
「連絡先。流川さんと連絡先を交換できたらそれがお礼かな」
全男子の夢である流川さんの連絡先GET。
「そんなことでいいの?」
「いいよ。むしろこっちが良いのか聞かたいぐらい」
きっと流川さんは自分の人気度を知らない。だからそんなことなんて男子からしたらありえないと思えるような言葉が出てくる。
「交換するのはいいけど1つだけ約束して。絶対に誰かに渡したり、見せたりしないで」
「うん。もちろん」
スマホを取り出し自分の連絡先を見せる。その時見せる流川さんのスマホについてるめちゃくちゃ小さいキーホルダーはやはり可愛いぬいぐるみだった。
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