僕は思ってるよりポンコツたったりする?

 「ふーん。まぁいいけど」


 呆れた様子で発した言葉は僕のメンタルをえぐることはなかった。てっきり私に誘われたぐらいで喜ぶとかキモいとか言われると思っていた。何事も想像通りにはいかないんだな。


 「それより僕を放課後に残したのってどんな理由から?」


 「あーそれは……」


 言いたくなさそうに口を閉じる。


 「神代のUFOキャッチャーの腕前が本当か知りたいからゲームセンターに行かないかなーって」


 これまた予想外のことを言われた。とはいえ誘うって言ったらそれ以外考えられない。


 「あーそういうことか」


 流川さんは実は暇をしててその暇つぶしに僕がたまたまUFOキャッチャーが上手いって知ったから誘ってるってとこかな。


 「それなら全然良いよ。僕も暇だから」


 「そう。ありがとう」


 ほんの少し顔が緩んだ気がしたが見間違いだろう。流川さんが僕の前で女子友達にするような顔をするわけがないのだから。


 いつものゲームセンターに行くことが決まった。でも決まったらすぐに問題が出てくる。それが、また誰かに見られたらどうするかってことで、1度見たと言っている人がそれを証明したいがために張り込みしているかもしれない。


 まぁそんなことする人はストーカーぐらいだろうが、ありえないことはない。


 「また噂が広がったらどうする?」


 「噂が立たないようにするからそこは安心して」


 どうやって?とは聞かずとも流川さんなら地位による力で何とかできると思った。関わらずとも信頼をおける人でもある。


 言われるがまま流川さんを信じてカバンを取る。


 さすがに学校内で隣ならんで歩くことは不可能。お互いデメリットしかない。校門を出てから合流もしないほうが流川さんもいいだろう。


 僕が先なのは変わらず校門を出る。後ろはどれだけ離れているのかわからないけどちょっぴり寂しいのは豆腐メンタルが少なからず関係している。


 ここ周辺はこの時間帯人通りが少ないのでひと目にはあまりつかないのが少しの恵み。


 ゲームセンターについたら何をしようかとか何を話そうかとか気まずくならないようにと考える一方で、コミュ力最強で元緑生最強の美女が流川さんの気分を悪くしないか心配していた。


 仲良くしてくれるのが1番なんだけど。


 考えながらも足は止まらない。前を歩く僕は、誰しも前を歩いたことある人なら共感する、後ろが気になる現象に襲われていた。


 昨日流川さんの機嫌を確かめるために見たときに似た感じで後ろをちらっと見る。すると――。


 「歩くの遅い。追いついたじゃん」


 「わぁ!」


 すぐ後ろに流川さんは来ていた。そんなに遅く歩いてないんだけどと思う。いや、僕は昔から渚に歩くの速いと言われ雫や彼方くんにも言われたことがあるぐらい人を気にせず自分のペースで歩くぐらいなので遅いことはないのだが。


 もしかするとスポーツ万能の流川さんなら歩く速さはそんな僕を越えてるのかもしれない。


 「いいの?僕の隣で」


 気にしてないと言われても聞いてしまう。無理をしてほしくないから。でも次の瞬間、そんなことが吹っ飛び、聞いてよかったと思えたのはあの流川さんだからだった。


 「ダメなの?」


 僕との身長差は16cm。僕の顔を見上げる、俗に言う上目遣いをする流川さんは僕の目に天使そのものとして映った。それと同時に1度激しく高鳴る鼓動は寿命が縮まったと思えるほどギュッとした。


 160cmある流川さんは身長通りクールに振る舞うことが多いので、こういった可愛い1面を見れることはないはず。だから今起きたことに僕は不意をつかれたように心臓を動かされた。


 「い、いや、だめじゃないです」


 動揺が激しいので敬語を使ってしまう。人は動揺して目の前に動揺させた対象がいるのなら敬語になるのだと1つ勉強になった。今後使えるとこは皆無かもしれないが。


 「何その話し方。やっぱり神代って変なやつ」


 もうこの時は天使ではなかった。正確には天使が羽を閉じ人間に扮した状態といったとこだ。どちらにせよ天使には変わりないのだが、今よりも羽を見せたときは心臓がいくつあれば足りるのか知りたいぐらい危険だ。


 言い方はキツくても別に豆腐メンタルには届いていなかった。上目遣いの余韻が支えてくれていたのだ。天使の力は素晴らしい。


 それにしても流川さんは自分で気づいていない様子。意図的にしてないのがまたずるいが僕にとってはそこもまた流川さんのいいとこだと思ってポジティブに捉える。


 「流川さんはぬいぐるみ好き?」


 ゲームセンターで同じことを聞いたがその時は本心ではなかった。しつこいだろうが本人の口から聞きたいので再び質問をする。


 「何回目?それ。ノーコメント」


 答えてもらえなかった。でも顔ではそうだよと言っているほどほんのちょっと顔が赤くなっていた。日に焼けてそう見えるのならそれでも別にいい。今は勘違いでもそれが僕の癒しになるなら全然。


 それにツンツンの中にこうした可愛いと思える1面があるって勘違いでも思えるなら豆腐メンタルの僕でも接しやすくなるから。


 「放課後はいつも帰ったら何してるの?」


 「それ聞くのセクハラなんですけど」


 「え、そうなの?ごめん」


 この時代のセクハラは基準が曖昧。っか人それぞれだから難しい。女性と話すことできなくなりそうだ。


 「冗談。だけど聞いてどうするの?」


 冗談って言葉がどれだけ万能で助けられるか。冗談を作ってくれた人に感謝を。


 「このまま話しを続けながらゲームセンターに行けて、気まずくならないからこの時間が少しでも楽しくなるかな」


 これが俗に言うバカ正直ってやつだ。話してる相手に向かって、君と話すと気まずくなるからそうならないために必死に話してるんだよ、と言っているようなものだ。バカで最低な行為。だけど僕はそんなこと知らないし気にしてないので悪意も悪気もなく正直に言う。


 「はぁ、なんで私とゲームセンターに行くこと了承したか分かった気がする」


 何を分かったか僕には分からないけど、呆れた様子で言うとこからしてきっと僕に原因があることなんだとは理解できた。

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