あれ、僕って人気ですか?

 結局見れたのは陽菜さんと雫の笑顔、そして流川さんの睨み顔だけ。まあ目があったことをポジティブに捉えるとこれもまた収穫のうちに入るのかなと慰める。


 別荘についたのは森家を出てから40分といったとこ。意外と山奥ではなく、開けた場所で街が見渡せるほどの高さにあった。


 「みんなお疲れ様。それじゃおじさんは帰るからあとは気をつけて遊ぶんだよ」


 「え、帰るんですか?」


 「もちろん。学生の青春におじさんはいらないからね」


 森くんは森パパから性格を引き継いでいるんだと確信できた。学生の気持ちを考えてくれて、その上で空気を和ませながら別荘に送る。なんとも紳士的で感謝しきれないほどのことをしてもらった。


 きっと学生時代は今の森くんみたいに女子から取り合いにされていただろうな。


 そして全員森パパに感謝して森パパはミニバンに乗って帰っていってしまった。もし何か事故があればすぐに連絡するようにと残して。ホントにありがとうございます。


 「よっしゃぁ!まずは部屋に荷物置き行こう!」


 「おー!」


 車を出てキャンプに来たことを実感したのかみんなテンションが車の中とは大違いに跳ね上がる。多少森パパがいたことも関係してくるのかもしれない。もしそうなみんな意外とシャイなのかも?


 案内されて別荘に入ると、外で見てたより中は広くてキレイ。木製の建物でも最近できたものだと分かる。こういう雰囲気が漂う家はとても好きだ。


 「部屋割りはどうする?」


 「どんな部屋があるんだ?」


 鞍馬くんが問う。


 「えーっと、一人部屋と二人部屋と三人部屋と四人部屋がそれぞれ2つずつある」


 そうなれば断然一人部屋がいいんだけど、友達と来てるからせっかくだしみんなで寝たい。


 「せっかくだから男女1人ずつの二人部屋にする?」


 下心丸見えの森くんはお父さんがいなくなってさらに暴れだした。


 「そうなったら多分森くんが一人部屋に行くことになるよ?」


 カウンターを飛ばすのは雫。なかなか辛辣だ。


 「多分私たち女子3人とも閃くんを選ぶだろうけど。そうなったら四人部屋取ろっか。ね?閃くん」


 「えぇ?……なんで僕?」


 なぜか僕にふってくる。そうすることで男子陣の視線が刺さる刺さる。やめてくださいよ。


 「神代くんが1番安全そうだもんね。学校全体で見ても安全だと思うよ」


 陽菜さんが賛成したが、それは僕に追い打ちをかけるもので全く助けられた気分にはなれなかった。


 「いろいろと刺さったが……それじゃ俺たちは四人部屋、女子は三人部屋にするか」


 「おっけー」


 部屋を決めるだけでこんなに疲れた気分になったのは生まれてはじめてだと思う。部屋に行けば3人にいろいろ聞かれるしボコボコにされるだろうな。このまま一人部屋に勝手に行こうかな。


 階段は使わないでいい一階にどちらの部屋もあるようでそこは疲れたときにメリットなので助かる。


 荷物を持って部屋に行くことになった。そこまで重くないリュックと片手に荷物を持って再びついていく。木の匂いが鼻腔をくすぐる。いい匂いだ。


 女子の部屋とは少し離れてしまったが、いつでも会いに行けるのでそこまで気にしない。でもそれは僕だけのようで3人は――。


 「あー!くそ!あと少しであの中の誰かと泊まれたのに!しかも部屋も離れてよ!」


 と森くん。


 「それな!くぁ!なんのためにキャンプに来たか!」


 と鞍馬くん。


 「毎秒凸りに行くか。美少女の空間に俺らも混じりてぇ!」


 と彼方くん。


 3人とも美少女大好きらしい。そんな中で向けられる視線は僕のを誘うかもしれないので気づいてないふりをして横になる。


 男子は女子が大好きだ。特に美少女ともなれば授業中であれ、試験中であれ、見てしまうほどに。


 「俺も神代みたいな性格なら今ごろ誰かと同じ部屋だったのかな」


 「どうだろうね。なんでいまいちパッとしない僕を選んだのか僕自身も分かんないし」


 まぁ予想では幼馴染だからという理由が1番かな。


 森くんに答えながら荷物を整理する。寝巻きや充電器だったり。そこで僕は気づいた。リュックしか持ってないのになんでもう1つ荷物があるのかと。


 そういえばあのとき雫から奪い取ったんだ。


 表現は悪者だがやったことは優しさだと思う。しっかりと雫の荷物を持ってきてしまったので返しに行かなければならない。


 「ごめん。雫に荷物を渡しに行ってくる」


 「はいよー」


 こういうときはついていくとか言わないんだよな。不思議な3人だ。


 部屋を出て女子のいる部屋へと向かう。一歩ずつ進むとその度にドキドキする。緊張からだろうか、よく分からない心臓の鼓動に落ち着きを取り戻そうとしているともう部屋の前に来ていた。


 ドアをノックする。するとどうぞーと陽菜さんの声が聞こえたので横にドアを引いて入る。


 「雫の荷物を持ってきちゃったから届けに来たよ」


 はいこれ、と目の前に荷物を出す。


 「雫ってやっぱりすごいね」


 「さすが」


 陽菜さんに続いて久しぶりの流川さんの声。いやいや、それより何が流石なのかが気になるな。


 「私にかかれば閃くんのことなら何でもお見通し!」


 「なんのこと?」


 「今、閃くんが私の荷物を持ってくるーって雫が言っててその直後に神代くんが来たの」


 「あーそういうこと」


 僕と雫の間ではよくあることだ。信頼し合ってる証拠の1つでもある。だから驚きはしない。


 それより3人が円になるとそこから目が離せない。可愛くてカッコよくてキレイで……女性の魅力ハッピーセットだ。この空間に居続けたいと思うのは不可抗力だ。

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