親友は僕のことになると鋭い
「やっ、
「彼方くんから言われてきたんだけど」
雫を下の名前で呼ぶように雫も僕を下の名前で呼ぶ。僕を下の名前で呼ぶのは女子では雫と渚だけ。みんな神代って呼ぶほうが好きらしい。そのため閃と呼ばれたときはドキッとするし嬉しい。もっと呼んでもらいたい欲もあるが、そうなれば特別感も無くなるのでやめてほしいという葛藤がある。
「あっ、そうだった。ちょっと待ってて」
再び自分の席に戻る。その間僕に視線が向けられるのはもう慣れた。けどやっぱり恥ずかしくて下を向いてしまう。少なからずこの中の1人は雫に好意を抱いているだろうと思うと申し訳なく、でも優越感というか悪い一面が出てしまう。
床から雫に視線を戻すとちょうどカバンから何かを取り出しているようだった。四角の包まれた何か。それを持って先ほどと同じテンション、同じスピードでやってくる。やはり可愛い。
「はい、これ」
「これは?」
「見てわからないの?ってかこの時間なのにまだ食べようとしてなかったの?」
「食べようとしてなかった?……まさか、これ弁当?」
「ですです。朝、神代ママから閃くんに届けてほしいって渡されたんだー」
やはり雫から渡されるものは忘れ物だった。それも結構大切なもの。午後の授業に関わってくるやつ。
雫がよく忘れ物を届けてくれるのは、家を出るのがめちゃくちゃギリギリだから。マイペースすぎる性格の雫はいつもグダーっとしているので行動を起こすまで時間がかかるのだ。そのおかげで先に家を出た僕の忘れ物を届けてくれる。届けミスは今までに無く、何回も助けられている。
「さっきカバンを探してもなかなか弁当を捕まえられないからあれって思ってたけどまさか忘れてるとは」
彼方くんが話しかけてくれなかったらあと2分ぐらい探して気づいていただろう。
「そういうとこあるから毎朝チェックして行けーって言ってるのに」
「ごめん、いいかなーって思っちゃうんだよね」
僕も人にどうこう言えるほどちゃんとした性格ではない。どちらかといえばマイペースなので雫タイプだ。
「戻ったらちゃんと食べるんだよ」
「うん、今日もありがとう」
普通ならめんどくさがられてもおかしくないのだが、雫はそんなことは思ってもいないらしく性格までいいと来たら勝てることはどこもないような気がする。男女で競うのもおかしな話だが雫を男子として表すなら僕の完敗。強いて勝てるのは身長とかクレーンゲームとかだろう。
なぜこんな美少女が僕と幼馴染になれたのか。もう奇跡であり神様の恵みだと思える。
「そういえば、さっき蘭ちゃんと何かしてた?」
「え?」
思わぬ質問に驚きを隠せない。動揺とまではいかないもののそれに近い、先ほどのビクつきの二分の一程度の驚き方をした。
「流川さんと?」
「うん。さっきたまたま閃くんが屋上に行くの見てて、珍しいから私もついていこうと思ったらすぐ蘭ちゃんが屋上行って、その後お弁当食べてたら蘭ちゃんが通ってその後閃くんが通ったから何かあったのかなって思って。2人しか屋上行くの見てないし」
1組から屋上に行くなら2組から6組まで1年すべての教室の前を通らなければいけない。もし廊下マニアとかいたのなら僕たちだけが通ったのを把握できるだろうし、僕ファンか流川さんファンのどちらかがストーカーすれば把握できるだろう。それぐらいしないと聞かれない質問をされたことにびっくりするのは普通だ。
たまたまだろうが、そのたまたまが見られたくないことときたらもうたまったものではない。
「……流川さんとはいろいろあって連絡先を交換しただけだよ」
小声で本当のことを伝える。誰にも嘘は付きたくないが何が何でも雫や彼方くんといった仲のいい友達には特に嘘は付きたくない。
「へぇ、閃くんも蘭ちゃんに気があるのかな?」
「違うよ。僕はただやらないといけないことをやっただけ。偶然の出来事だから」
「まぁ閃くんはそういうの疎いし興味もそこまでなさそうだもんね」
「そうかな?」
人に言われないと気づかないことある。でも言われても分からないこともある。今みたいなことは特にそう。
「流川さんと仲いいからっていろいろ言わないでね?」
「大丈夫、私閃くんのことなら秘密にできるから」
ドヤッと腰に手を当てて胸を張る。僕からしたら小さい子が意地を張っているようでなんだか愛おしかった。
流川さんと雫はとても仲がいい。美少女仲間として気が合うことが多くあるのだろう。
ふとここで渚がいたらと思う。そうすると僕が関わっている人はなぜか美少女ばかりだと気づく。幼馴染だけで2人も美少女がいるなんて幸せ者だ。
「とりあえずそれ持って蘭ちゃんのとこに戻りな」
「すぐそうやってちゃかす」
「これをいじらずしてどう活用する!嘘つけない閃くんの弱点がこんなにも有効活用できるなんてね」
楽しそうに、はははっと声を出して笑う。笑えば笑うほど魅力が溢れ出てきそうで見続けても飽きない、そんな笑顔だ。
3組の男子からの視線もチクチク刺さり始めるのでそろそろ戻るとする。もう少し話していてもいいと思うが弁当も食べないといけないし今日は圧に耐えられそうになくなっているので速やかに帰らせてもらう。
「それじゃまた」
「うん!まったねー」
笑顔で手を振り見送ってくれる。嬉しいが男子の嫉妬の眼差しが刺さる刺さる。背中がチクチクするのはそう感じてるからか本当に刺さっているのか、おそらくどちらもだな。
教室に戻るときにはもう雫は自分の席に戻っていたようで姿はなかった。
1組に戻ると誰からも視線を感じないことに気楽さを覚える。
「お前弁当忘れてたんだな」
弁当を開いて食べようとした頃みんなは友達と話してたり歯磨きをしてたりと食事をしている人はいなかった。その中で暇だったのか彼方くんは僕のとこにきていつも通り適当な話しを始める。
「うん。雫が届けてくれた。良かったよ」
「だな。まったく、蓮水さんと仲いいなんて羨ましいぞ」
1組でも雫は人気らしい。ならどの組でもそうだろうな。
「かもね。僕もあんな可愛い子と仲いいなんて信じられないし」
「っチ、惚気けられてる気がしてうざいな」
そういう彼方くんの言葉よりも僕は自分の発言後いきなり感じた背中に向かってくる視線?のようなチクチクが気になって、返事をすることができなかった。
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