幽霊より人間が怖い
目的の木までどれほどの距離があるかは、正確に教えては面白くないとのことで100m以上400m未満と説明されている。
正確でも距離を測りながら歩ける天才はいないと思う。
「神代はビビリ?」
腰を下ろして早々、流川さんが1番に口を開いた。
「めちゃくちゃビビリだよ。今でも全然震えてるし」
彼方香月ペアが向かってから僕は震えだし、次第に止まりることを知らないのか悪化することもなく寒さに凍えるようにガタガタしている。やはり見た目と心が伴ってない。
「マジで……?」
「流川さんは?」
「蘭ちゃんは大得意だよ!ね?蘭ちゃん」
「あ、当たり前じゃない。幽霊とかし、信じてないし怖いものとか別に無いでしょ……」
後半になるに連れ語気が弱くなったのは僕のビビリによる気のせいだろう。あの流川さんが幽霊を信じてることがありえないんだ。
流川さんは、はぁぁ、っと1人で急にため息をして何かを切り替える。ビビらなくなるスイッチでもあるのか?それなら教えてもらうために靴でも舐めるが。いや、逆効果か。
それにしてもまだ叫び声は聞こえない。びっくりする要素が無いのかもしれないが、肝試しとは不思議なもので、やり始めたら風だけでも幽霊の仕業と思う。だから強心臓じゃなければ驚くはずなんだが。
もしかしてホントに朝方見つけられるパターン?それなら彼方くんと最後のお喋りをしとくんだった。
僕たちが何も話さなければ完全に無が訪れるこの場所で、そうならないようひたすら適当なことを話している。幽霊より人間の方が怖いというのも一理あると思うのは、今後ろで、言葉のナイフを刺しまくっている鞍馬くんを見てだ。
相変わらずだな。
このまま何事もなく帰ってくるかなと思われた彼方香月ペアだが、そんなことは無かった。
「キャァァァ!!」
「っ!!」
香月さんの声が響き渡る。超高音でキンキンという表現が正しいほどキレイなものだ。
その叫び声に反応した流川さん。一瞬耳を覆ったが、女子だしびっくりしたらそんな反応をするのも納得できる。でも可愛かった。口には出さないけど。
「出たねー陽菜ちゃんの叫び声」
「落ち着きすぎだろ。雫も女子なら流川さんみたいに驚くのが普通なんじゃないの?」
「は?驚いてないし。そもそも見るな」
「あ、すみません」
僕の忘れたタイミングで辛辣をぶっこんでくるんだからそれはもう痛い。
「私は怖いのには慣れてるからね。今までホラー映画とかめちゃくちゃ観てきたし」
「ホラー映画で耐性つけれるもんなの?」
「それは人それぞれじゃない?閃くんは多分無理」
「左様で」
女子はみんな冷たい。陽菜さんだけが僕に優しくしてくれるのかな。幼馴染の雫でこの言われよう、仲いいと言われたことのない距離感の流川さんでもキモい見るな。
え、僕には女子に嫌われるバフ付きですか?
――それから何度も悲鳴を聞いて、しばらくして2人は帰って来た。それも魂を抜かれて。
「もう香月とは行かねぇ。マジで帰らぬ人になるところだったわ」
「はぁ?私から願い下げだね。マジ無理」
吊り橋効果とかあるらしいけど、見たところそんな甘い出来事は起きなかったようで、逆に距離できたらしい。
「鞍馬くーん。次私たちだよー」
森くんに付きそうのを無理矢理剥がす。そうでもしないと喧嘩が始まりそうだったのでナイス雫。
「お疲れ様。写真撮ってきた?」
「おう、バッチリ撮ったぞ。後で見たとき写ってるといいな」
それは写っててほしくないんだけどな。もし写ってたら今取り憑かれてる可能性あるんだし、離れてたほうが見のためかも。
「それじゃ私たちも行ってきまーす」
「あっ、ちょっ!蓮水さん!」
鞍馬くんと横に並ぶこともなく自由気ままな雫らしく走って行ってしまった。迷子にならなければそれでいい。
こうして第2のペアが闇の中に消えて行き、第1のペアは魂を取り戻しに頭の中へ意識を向けた。
――「ただいまー!」
鞍馬蓮水ペアは出発して10分ほどで帰ってきた。あまりにも速すぎる。
そんな2人には大きな違いがあり、雫がウキウキなのに対して鞍馬くんは死にそうだったこと。何があったのかは悲鳴も聞こえなかったので詳しくは知らないが多分雫が何かをやったのだというのは分かる。
「蓮水さん……ヤバい……」
先程の煽れる鞍馬くんではなくなっていた。彼は何処へ。
「流川さん、行こう。次は僕たちだよ」
「……そうだね」
丸太がお尻を離してくれないのか、スッと立つことはなかった。ゆっくりマイペース。
「行ってきます」
いってらっしゃいはない。4人中3人が魂回収に勤しんでおり、雫も鞍馬くんと肝試しできたことに満足気だったから。
一歩また一歩と先へ進む。後ろを振り向けば明かりがどんどん遠くなる。前に進みたくなくなるがその度に流川さんを見て落ち着く。これの繰り返しもすぐに終わった。
スマホのライトが無ければ前も後ろも上も下も見えない。真っ暗とはこういうことを言うんだと初めて実感した。
「流川さん、僕ホントに怖いのはダメだから、無理になったら抱きついたりするかもしれない。その時は後でボコボコにされるから絶対に離さないでもらっていいですか?」
「は、はぁ?む、無理に決まってるじゃん」
「そこをなんとか」
「い、嫌だよ。私が怪我したらどうするの?」
「……そっか」
僕が原因で怪我をしてしまったらそれは許されることではない。よく考えた結果、僕は1人で幽霊と格闘することを決めた。
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