因果応報と順番

 『1』と書かれた紙が僕の右手の中にあった。夢ではない現実だ。当たり、それもハズレ以外は大当たりだ。


 「よっしゃぁぁぁ!」


 僕と鞍馬くんと彼方くんが叫ぶ。喜びで満たされた奇声とも言える叫びだ。そして……。


 「クソがぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


 敗北者となった森光輝は地面を見続けて地球裏に届かせるかのように叫んだ。


 「森光輝くぅぅん!番号見せてもらってもぉ!良いかなぁ!!」


 鞍馬くんの煽りが始まった。これは因果応報、仕返しはされないように僕はこれから先、人をバカにすることはやめようと誓った。


 「はいはいお約束はいいから、誰が何番か教えてよ」


 雫が待ちくたびれたような顔で僕たちに迫ってきた。そりゃ何も懸けてない人は気楽だが、僕たちのように女子との距離を縮めたい人や1人だと怖くて失神する人だと気持ちが違うのだ。


 「俺は3番だ」


 「なら私だ」


 「香月かぁ」


 「何?不満があるの?」


 「蓮水さんか流川さんが良かったな」


 「はい、彼方楓斗が肝試しから戻ってくることはありませーん。朝方森の中で倒れてるとこを見つけてもらってね」


 言ってはいけないことを口にした彼方くんには当然の報いを受けさせるつもりだろう。うん、そうしてください。


 「僕は1を引いたけど」


 「え、ってことはまた私?」


 同じ1を引いたのは流川さんだった。


 「ホントに?さすがにそれだと流川さんも嫌でしょ。僕と鞍馬くんが代わるよ」


 無理強いはしたくない。さすがにストレスを感じてしまうだろうから一旦ここは離れるべきだ。僕は全然流川さんが良いんだけど。


 「ううん、神代でいいよ。この中じゃ1番まともでしょ」


 「流川さんがいいなら」


 案外僕と居ても苦じゃないのかと思ったが、そうでもなかった。


 確かに僕がまともなのは分かる。でも自己分析ではそこまでな気がするんだよな。周りが濃すぎるから目立ってないだけで。


 「私が鞍馬くんってことだね」


 「お願いします!蓮水さん!」


 森くんの真隣から届くように声掛けする。まだ煽っているのかとどれだけ溜まっていたのかが分かるな。森くんは今後くじ引きなんてしなくなるだろうし、しても不正をして勝ちそうだ。


 こうして神代流川ペア、彼方香月ペア、鞍馬蓮水ペア、森の肝試し組分けが終わった。


 ドンマイ森くん!


 「では、これから肝試しのルートとやり方を説明します」


 覇気の無くなった森くんには説明してもらう役目があるので無理にでもやってもらう。そもそも自分から言い出したんだ、これぐらいは当たり前の事だろう。


 しかしこうやって絶望により落ち込んだ人を見ると友達だとしても悲しい気持ちが伝わってくる。良かった、まだ良心は残っているみたいだ。


 「この別荘の裏に山奥へと続く道があります。傾斜は緩やかなので気をつけることは特にありません。そしてその道を奥まで行くと1本の太い幹を持った木が正面に出てきます。なのでそこを折り返し地点として戻ってくることになります。そこで、戻ってくるときに木の写真を1枚撮ってきてください。もしかしたら写るかもしれないので」


 今まさに取り憑かれてるかのような森くんに説明されるものだからこの時点でもう怖い。流川さんがパートナーで改めて良かったと思う。心強いしなんなら撃退してくれそうだ。


 「以上が説明になります。順番は好きなように決めてください。1組ずつ行って、帰ってきたらそこで交代です。ちなみに、ここ周辺に家はないのでどれだけ叫んでも聞こえるのは俺らにだけなんで好きなだけ叫んでください」


 となると助かるのは僕だ。叫ぶことは間違いないのでどれだけ叫んでも良いのはめちゃくちゃ助かる。流川さんの鼓膜をぶち破ることがないように気をつけなければ。


 「おっけー、じゃ私たち先行こうよ」


 「蓮水さんがそう言うなら付いていきます」


 「なら次私たちにしよ。いい?閃くん」


 「うん、いいよ」


 「ありがとー」


 僕は良くても鞍馬くんが良くなかったりして。まぁ雫が言うなら鞍馬くんも付いていくか。


 僕たちが3番目に行くことになり、最後は森くんとなった。最後に1人はめちゃくちゃ嫌だな。もう行ってきた後みたいなテンションだけど。


 意外だったのがみんな流川さんと僕が連続で同じことに何も言わなかったこと。森くんあたりは文句を言ってきそうだったのにそんなこともなく、みんなお互いのパートナーで満足していた。


 好意を抱いているのかもしれないが、全員美少女なんだ。文句というものを言えないのだろう。3人誰がパートナーになっても不満が出せるほど優秀な男子でもなければ、欠点すらない女子に不満を持つこともないだろうが。


 「行ってきまーす」


 スマホ片手に明かりを灯しながら進んでいった。少しすれば姿が目で捉えられなくなり声も聞こえなくなる。躊躇いもなく1番に行こうとする陽菜さんの心の図太さは計り知れない。


 「行っちゃったね。何する?待つ間暇だよ」


 「俺は光輝の慰めでもしてこようかな」


 慰めではなくイジメだがな。


 そしてすぐニヤニヤしながらその場を離れて森くんのとこに向かった。


 「んー、僕は2人と何か話しとこうかな。話題とかなにもないけど」


 「私はいいけど蘭ちゃんは?」


 「いいよ。無言よりは神代とつまらない話するほうがマシ」


 1言余計過ぎて刺さる。


 そして3人で丸太に腰を下ろした。

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