幼馴染ってライバルなんじゃないの?
それから僕たちは会話を続けた。その時間が早く過ぎていくとそれに伴い遅くなれと願う回数も増えていく。18時まであと5時間ぐらいあればいいのに。
しかし僕1人だけの贅沢な願いは聞き入れてもらうことはなく、ただただ名残惜しさを感じて会話は終了した。
『もう18時だからみんなのとこ行こうか』
『そうだね』
スマホの充電は少なくなっていてそれに気づくことはなかった。でも外ではそんなに使わないだろうからこれぐらいでもいいと思いそのまま充電せず部屋を出る。
先程の場所では息を吹き返した5人の騎士が楽しそうに話をしていた。これに僕が混ざれば愛想笑いをしていただけだろうか……いや、そんなことはなさそうだな。だって雫がいるし。
部屋では何もしてなかった感を出して合流する。流川さんは僕より先に戻っていたらしく、僕が来る前に1回鞍馬くんを沈めたという。見たかった。その光景だけで僕もスッキリしそうだな。
「神代も来たことだし行きますか」
森くんが腰を上げて先に外に出る。続いて僕たちも。外には18時らしい夕焼けとヌルい空気感が漂っている。慣れれば問題ないが慣れる前のこの感覚がいつになっても好きになれない。
四季では夏が1番好きだが、だからといって何もかもポジティブに捉えれるわけではない。暑すぎたら嫌だし、何も思い出を作る機会がなかったら好きにはなれない。
今年は去年より暑くないし思い出も作れそうなメンバーだから好きな夏になりそうだ。
夕焼けが作る雰囲気に呑まれ、ロマンティックなことを考えていた。これは恥ずかしいな。
そんな中で僕たちは森くんに案内される場所に向かって歩いた。距離はそこまで、ってかないに等しいほどの距離。そこにはバーベキューセットや、椅子、炭などこれから使うものが置かれていた。
それを見てこれからバーベキューをするんだという実感が湧いてくる。今まで友達とバーベキューなんてやったことがないから体の内側から湧き出てくるような、そんな形容しがたい気持ちを感じる。
「今日は1日目の夜だ!たくさん食べるぞぉ!」
「おぉー!」
今日1元気だった。誰もが空腹でよだれを垂らしてもおかしくない状況に幸せを感じた。よだれを垂らす図が幸せなんじゃなく、そんなみんなをこの目で見てることにだ。
火をつけて網を置く。そして火加減を考えて炭を入れたり取ったりする。この作業は基本男子がする。女子は紙皿を用意したりと危なくないことをしてもらっている。
家事をしてもらってるみたいで勝手に癒やされる。美少女3人に家事をしてもらってるとかどんな世界線ならありえるのやら。
それぞれの準備が終わるとどんどん網の上に食材が並べられる。野菜も肉もどこから見ても美味しそうだ。これが最高の調味料、空腹か。
ジュ~と音を立てる肉、なんの音も立てずに焼かれる野菜。まさに陰キャと陽キャのようで野菜にシンパシーを感じる。
各々焼けたものからお皿に取っていく。みんな遠慮を知らず取るのは空腹なのもあるだろうが、1番はそんな気を使わないでいい関係だということ。さすがに男子は流川さんには遠慮を見せるが、それ以外ならお構いなしに取る取る取る。
その流川さんも雫と陽菜さんには遠慮がない。陽菜さんより先に肉を取ったならほらほらーと煽っている。忘れがちだが、流川さんは人と関わるのが嫌いなのではなく、男子と関わるのが嫌いだということ。だから女子友達、ましては親友の前では陽キャぶりを発揮する。
それもまた可愛いのだが、視線は向け過ぎないように気をつける。
「楽しんでる?」
流川さんに視線を向けていたら雫がいつの間にか隣りに来ていた。雫は俺からすれば小さくて見えないので横に来られると気配を感じるか、ちょっと視界に入れないと気づかない。
「ん?うん。結構楽しいよ。美味しいし」
「いいねー。じゃこれあげる」
そう言ってピーマンを僕のお皿に載せてきた。
「嫌いなだけだろ。自分で食べろよな」
「えへへ、嫌だねー」
前からそうだった。雫は嫌いな食べ物は全部俺に持ってくる。弁当の中身に嫌いなものあれば呼びつけるのもあるあるで逆に雫が来ることもあるあるだ。
「そうだ、今蘭ちゃん見ながら何考えてたのかな?」
よく見ているものだ。ストーカーなのかもしれない。
「さー何考えてたでしょうかねー」
俺は見ていたことは否定せず、質問の内容は肯定も否定もしない。
たとえ答えても知ってたといわれるだけ。結局は流川さんを見て男子の考えることは決まっている。まとめて言うと流川さんと仲良くなりたいといったとこだ。
「ちぇーつまんないの」
「つまんない男だからな」
「ははっ、何それ」
こうやって笑うとこ見るのは1000回ぐらいなのにいつ見ても可愛いくて飽きないのは美少女故だな。
「それじゃ閃くんにいいことを教えよう」
「いいこと?」
「これから蘭ちゃんと関わっていく上で大切なことだよーん」
「なんでそれを僕に?」
「私が閃くんの恋を応援するために!」
「……なにそれ」
そもそも僕は流川さんに好意なんて抱いていない。流川さんだって僕なんかを好きになりたくないだろうし。今の僕には関係のない遠い話だ。
しかし、それでも一応聞いておくのもありだ。聞くことでデメリットは発生しない。むしろメリットが発生するから聞くだけありだ。
「それじゃ聞こうかな。流川さんと関わることで大切なことは?」
「ふふーん。それはね、蘭ちゃんは誰かと話したいとき、それが初対面の人とか普段関わらない人ならその人を睨んじゃうんだってこと」
言われて僕は記憶を遡る。何度か睨まれたことはあるがそれはほとんどキモいを添えて。
しかし数少ないがただ睨まれただけのこともある。つまりはそういうこと?
たとえば僕が屋上に逃げた日、あの噂が広まってどうしようかパニックになっているときのあの睨みはまさかそういうことだったのか?
僕は1つの結果にたどり着いた。あの日はそういうことだったのかと。
「いいこと聞いた気がする。ありがとう雫」
「いえいえー、閃くん――ファイト」
応援されても何も起こらないのだが。まぁまた1つ流川さんのことを知れたと思えばそれはそれで良かった。
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