男子の友情は下心に左右される

 二泊三日の1日目の晩ごはんを終えた僕たちは部屋に戻って男子らしい会話をしていた。こうなるのは当たり前だと思うが聞いてて思う。バカにはなりたくないと。


 「お前が行けよ智!」


 「んでだよ!先に言い出したのは光輝だろ。言い出しっぺがやるもんだろ!」


 「うるせぇな。それなら2人で行けばいいだろ」


 「それはだめだろ!男として、美少女の部屋に忍び込むなんて1人でやってこそだろ!」


 もう聞きたくないな。3人は女子がお風呂に行ってる間に部屋に忍び込み、いろいろとやろうとしている。これ下着泥棒と考えてることは大差ないから捕まえてもらいたい。犯罪者予備軍です、こいつら。


 僕はもちろん参戦しない。美少女3人に興味がないとかそういうことではなく、人として参加したくないのだ。ノリが悪いと言われればそれは受け入れる。でも同級生の女子の部屋に忍び込んで物色でもするなんて僕は家族や友達を人質にされない限りやらない。


 性欲はしっかりある。でも性欲のある人間でありたい。目の前のサルになる寸前の人間よりちゃんと人間でありたいのだ。


 そんな僕だが、さすがに女子に連絡したりはしない。仲が悪くなるなんてことはなと思うが一応友達として最低限のことはしてやる。


 「神代ーお前なら怒られないだろ?1番に行ってくれよ」


 「行かないよ。雫に殴られたくないし陽菜さんに噂広められたり絶交されたくないし、流川さんに泣かされたくないから」


 流川さんに睨まれたり悪口を言われることに比べれば、雫と陽菜さんの仕返しなんて幼稚に思える。それほど殺意というか恐怖を感じるような睨みが飛んでくる。


 想像しただけで鳥肌立ちまくり。


 「はぁぁ、1日目は無理かー」


 そろそろ帰ってくる時間だと察した森くんはうなだれる。その姿は見るに堪えない。フラれたわけでもないのに何かに敗北した雰囲気を漂わせている。部活ですらこんなならないだろうに。


 森くんに続いて鞍馬くんと彼方くんも脱力する。これだから女子のことしか考えてない男子は……。


 「なぁ、今めちゃくちゃいいこと考えたんだけどさ」


 「……」


 「え、お前ら生きてる?なんか反応しろよ。墓地にいるのかと思ったわ」


 僕を含め誰も反応しない。疲れなんかではなくめんどくさいから。


 「なんだよ」


 「よく聞いてくれた智」


 鞍馬くんはなんだかんだ優しい。多少の下心はあるだろうがそれでも聞いたのは森くんのテンションがこれ以上落ちないように心配してのものだろう。


 「明日晩ごはん豪華にするためにゲームするって言っただろ?それ二人一組にしないか?」


 僕にはその意味が理解できなかった。が、2人は違った。


 「さすがは主催者、勉強はできなくてもこういうとこでは頭使うんだな。ナイスだチ◯コ頭」


 「それな。お前褒めてやるよ。これが最初で最後だけどな」


 「え、なになに?どういうこと?」


 なぜそんなにもテンションが上がり息を吹き返したのか僕には謎でしかない。説明不足だと思うが、2人とも理解できてるから僕の頭が悪いだけかもしれない。いや、きっとそれはないと思うけど……。


 最後に余計な一言が入ってるのはいつものことだがそれ以外に何か引っかかる点があるとは思えない。


 「神代は甘いな。明日二人一組ってことは男女1人ずつってこと以外ないだろぉ!」


 「あーー、そういうこと」


 やっと理解ができた。と同時になんとも男子らしいんだと不意に笑わされた。


 「理解はできたけど、僕たちは4人だよ?人数オーバーしてるけど……」


 「だよなーそこだよな。光輝、案あるんだろ?」


 「当たり前だろ。男ならいや漢なら運にすべてを委ねろ!つまりは――くじ引きだぁ!」


 「……なかなかにいい案じゃねぇかぁぁ!やったるわぁ!」


 一応言うが今は夜だ。絶対に女子部屋には聞こえてるし迷惑だろう。近くに住宅がないからいいものを、もしここが合宿所とかだったら終わりだぞ。


 元気なのはいいが元気すぎるのは耳にも自分自身の体にもよろしくないからなるべく静かにしてもらいたい。昼間なら全然いいんだけど。


 ということで死に際に息を吹き返した3人は寝る前から次の日のやる気を出していた。これがいい方向に転ぶかも分からないのに。


 ――翌日、僕は先に寝たので3人がどれだけ起きていたかは知らないが目元を見る限り4時5時といったとこだろう。興奮しすぎたのがだめだったな。


 「おはようみんな」


 「お……おはよう」


 死にかけの森くん。もちろん助けてはやらない。他2人は森くんと比べるとマシ。


 元気の空回りは翌日に影響することがよーく分かっただろう。身を持って学べたのは学生としては良かったかもな。


 起床時間は8時。夏休みにしては意外と早い気もするがそれほど睡眠の質も悪かったということだろう。たくさん反省してくれ。


 「僕は1人外に行ってるから何か用があったら呼んでね」


 声も出したくないほど気の抜けた3人のグットがもらえたとこで僕は1人外に出る。朝は何もすることが決まっていないので昨日流川さんと枝を取ったとこで見つけた川やその周辺を散歩してみようと思う。


 1人行動が好きな僕にはこういう時間は大切だ。ここに来て1人なんてほとんど慣れていない、貴重な時間だ。


 8時でも生ぬるい風と気持ち悪い湿度が体を襲う。あまり好きではないが、川に近づけば近づくほどそんなこともなくなっていった。感覚が慣れてきたのだろう。

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