勇者に恋をしたモブな子爵令嬢、家を追い出されたので勇者を探し出して添い遂げますわ。~勇者は、長くて白い髪が特徴の美少女ですが。なにか?~
第34話 北の大地からでも叫ばせていただきますわ。勇者(男)の身勝手な行動に悩まされるのは常に女なのですわ。
第34話 北の大地からでも叫ばせていただきますわ。勇者(男)の身勝手な行動に悩まされるのは常に女なのですわ。
北の領地ホクカムライは、気温が低いものの地面が雪に覆われているわけでもなく、立ち茂る針葉樹林が真っ白ではなく青々とその葉を揺らす。
私とナディアが、街の外を出ようとすると青の勇者ソラが目を丸しながら私たちを止める。
「おいおい、まさか――――」
「どうしましたか。青の勇者ソラさま?」
「『どうしましたか』じゃない。まさか徒歩で向かうって言うわけじゃぁないよな?」
「すみません。私たちそれしか足が無いもので」
「おい、待っていろ」
青の勇者ソラは振り返り仲間と何やら話している。仲間の1人である長い青髪を後ろで1つにまとめ、顔立てはいいがキツい目つき白銀の鎧に包まれた女騎士ラピスは、巡回中の兵士にメモを渡していた。それにふわっとした髪型に優しそうな面持ちの治癒術士がマリン。そして長い青髪をサイドで縛るむすっとした顔の魔法使いアズリ。
ナディアが、青の勇者ソラと話している最中に記憶は成功ですわ。彼女らは何故彼女らは、お店のガラスに映った自分を見つめては髪を整えている男に恋い焦がれるのでしょう?わかりませんわ。
憧れのタイプと好きになった人のタイプは違うと言いますわね。そう納得しながら今私とナディアは青の勇者ソラが用意した馬車に乗り込んでいる。幸いにも彼たちと別々の馬車で良かったですわ。
「行き先を伝えてしまいましたが、この距離をかんがえると良かったですわ」
「あの受付嬢。半日もかからないと言ってたがどうやら馬車での話だったか」
「どうみても馬車で行く距離なのでしょう。でも冒険者が全員馬車を使うとは思いませんけど、便利ですが」
「それにしても、彼らは先行しすぎているな」
「仕方ないでしょう。行き先を知ってしまい、いち早くフロストフィアスウルフを討伐しようとしたいのですから」
モヤモヤするナディアをなだめつつ【魔物図鑑】でフロストフィアスウルフを再確認する。
かの魔物フロストフィアスウルフは、氷属性で白銀の毛並みに真っ赤な瞳を持つ狼。その身体は大きく大人男性の身長を超す高さですわ。それに氷属性の魔法を使用し、やっかいなのは特殊なスキル【凍てつく咆哮】と【凍える波動】。このスキルをどう防ぐがどう回避するかで勝敗がかわる。まぁ私は大丈夫ですが、彼らは戦って欲しくはありませんわね。
【凍てつく咆哮】は掛けていた能力向上系の魔法やらを全て解除させ、【凍える波動】は冷気ダメージを与えつつ凍傷・麻痺・睡眠など状態異常を加えてくるわ。これ喰らったら身動きできずにただ相手の蹂躙を受けるだけですわ。恐ろしいのです。
ナディアには、その情報を告げると「なんで知っているの?」と直視されてしまいましたわ。
「おホホホ。勉強してましたから」
明らかにとぼけたつもりでしたが、ナディアもわかってくれたのかそれ以上問い詰めて来ませんでしたわ。まぁ日頃の私を見て諦めたのでしょう。
そう言っている間に目的地に着いたみたいで馬車が止まり、地面に足を付ける私たち。
背伸びをする私に冷ややかな風が肌を冷やす。外套をまとっているのでその冷たい風は防げそうだわ。どのあたりかしら……正直、私たちの近くにはいないみたい。
「おい、お前ら。こっちに行くぞ。狼なんだからどうせ、森にいるだろう」
青の勇者ソラは、鼻に掛けた言い方をし仲間と共に森に入っていってしまう。呆れて深いため息を吐くナディアと顔を合わせ、私たちも頭を悩ませながらソラ達の後を追う。
どのくらい経っただろうか。結構奥まで入ってきてしまったがフロストフィアスウルフの姿が見えない。
「おい、そこの紺色の女。本当にここで合っているんだろうな?」
「教えて貰った地図ではここで正解。どこにいるかまではわからない」
少し声を荒げていた青の勇者ソラに対してナディアは疲れ切って淡々と答えているのは、このような青の勇者ソラからの問いがここまでで5回くらい有ったからだ。
向こうも警戒するわ。敵意むき出しの相手にそう簡単に姿を見せないでしょ。それに、いい加減気づいて欲しいものだわ。何故青の勇者ソラあなたが、私たちを先導しているの?依頼を受けたのは私たち、付いてくるなら勝手にどうぞと言っただけで、あなた達はおまけなのよ。
おまけの分際でいきり立って、こっちは疲れるわ。闇雲に進んでも意味ないでしょうに。
ウォォォォォオォォォォーーーー!!
森の奥から犬か狼の遠吠えが響いてくる。私も含め全員その音がする方へ振り向くと同時に大きな何かが勢いよく向かってくる。
大きい赤い点!!
「ナディア。来るわっ!」
バスダードソードを構えルナディア。私も武器に手を掛けて目をこらす。
白い大きな岩石が進路の邪魔をする針葉樹をなぎ倒し突っ込んでくる。
私とナディアは横に逸れると、その白い大きな岩石は足を止めゆっくりと反転し真っ赤な瞳で私たちを見下ろしていた。
グゥルルルルルゥゥゥゥッーーーー!
少し顎を上げるぐらい見上げているわ。それにしても実物も大きいのね。
真っ白い毛並みに真っ赤な眼。口から白い息を吐いているフロストフィアスウルフ。
「おい、こんなに大きい狼だと聞いてないぞ」
「大きすぎません?」
「ウルフって狼でしょ?嘘よ……」
「なに、あれがフロストフィアスウルフ?平民の冒険者ぁっ。お前らっ知っていたか?」
驚愕な顔をそろえている青の勇者ソラとその仲間。腰を抜かしていないだけありがたいわ。だけど、ナディアは何故笑顔なの?
口角が上がっているナディアの横顔が視線に入ってしまったけど、まぁ向こうの青い奴らよりましですわ。
ウッオォォォォーーォオオオォォォーーン
大きな口をあけこの針葉樹林に響き渡るその遠吠え。
鋭き犬歯からしたたるよだれが地面を濡らした瞬間。地を蹴るフロストフィアスウルフが、襲いかかってきた。
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