第24話 焦りで苛つき視界が狭くなり自分を見失ってしまうのが怖いのですわ

 揺れが激しい馬車に乗る私とナディア。

 王都の騎士団2・3部隊私たちの馬車と併走している。

 向かう先は北東の地アイミアヤフ。そう、勇者四人が魔将と戦っている地。

 そこには、白の勇者アイリスがいる。こんな形で会いたいとは願っていなかったが、会えるのならば選んでいる時では無い。魔将に苦戦していると王都の冒険者組合組長デイビスに聞かされたときから……私の胸が激しく鼓動し余計なことに手を回せない。一番はアイリスが生きている事が重要なのだから。

 王都で真っ先に行こうと冒険者組合からでようとした私を止めたのは、組合長デイビスでナディアでは無かったわ。ナディア当人も私と同じように出ようとしていたから、その時は目を疑ったわ。

 思い当たる節は、アイリスの仲間で剣士のカイン・アルフォーリスに何かあるのでしょう。もしかしたら、ナディアの家が落ちた原因に、このカイン・アルフォーリスが絡んでいるとか。それでナディアは恨んでいる……?

 ナディアは兄と共に冒険者組合を任されていたんだもの。もしかして、私をだしに外に出た?

 頭をよぎる思考は直ぐにアイリスの心配事へ変わる。心配しても、この馬車が私が着かなければ意味は無い。

 ただ、願うのはアイリスが生きている事だけ。

 ナディアは、馬車の中で寝ているのか目を瞑り、頭を揺らす。すると、御者のおじさんが幌の中に顔をみせる。

 

「お嬢さん方、もうすこしでアイミアヤフに到着するぜ」

「そこから、どのくらいで勇者達の所に?」

「わしは、わからねぇ。むこうの騎士さん達について行くしかねぇからよ」

「わかりました」

 

 すこし速度がおちると、併走していた騎士達の馬車が先導し進んでいく。

 よくよく思えば、魔物の遭遇があまりないわ。魔将が出てきて猛威を振るっている時に、それはおかしい。

 魔将といえば魔王直属の部下、それにその存在はこの世界に害といわれている黒い魔物を生み出す魔障の元凶。そして魔将も、その体から発するオーラで魔障と同様に魔物をばらまく存在。だから、魔物がいないなんておかしい。

 アイリスの事が気がかりで、まったく外を眺めていても気にとまらなかった。ふと注視すると数人一組で魔物と戦っている者達が、点在している。

 たぶんだけど、彼らはこの土地の騎士団のようだわ。

 

「マリベル。そんなに神経高ぶっていたら疲労で動けないよ」

「ナディア。起きてたの?」

「すこし……かなり寝かせて貰った」

「やはり」

「マリベルは、すこしだけでも寝た方が良い。ずっと起きているんじゃないの」

「私も寝ているわ。――――ううん、知らないとこで疲れているのかも」

 

 私は、その言葉をナディアに伝えると、長椅子に腰掛けそのまま横になり目を閉じる。

 

「着いたら起こしてほしい」

「わかった」

 

 よく寝たわ。

 起き上がりあくびをしながら背伸びをすると、目の前に居たはずのナディアの姿が無い。それに馬車が止まってるわ。

 予想していなかった私は、慌てて幌から頭を出し外の様子を伺う。

 黒い魔物の1つブラックウルフが群れで騎士団と戦っている。ブラックウルフの中にはヘルハウンドが火をまき散らしている。

 ナディアも応戦しているとはいえ、何故私を起こしてくれない?

 馬車から降りて周囲を見渡すと、おびえた声で話しかけてくる御者のおじさん。

 

「おおお、お嬢、起きたか?」

「ええ、何故起こして……」 

「魔除けのお香が切れたから補充するために停まったら」

「魔除けのお香って」

「やつら、急に現れたんだよ。襲われた騎士団に加勢するってナディアさん出て行ってな」

 

 騎士団の馬車にあったから、全く魔物と遭遇すること無かったけど、まさか入れ替えのタイミングで襲いかかってくるなんて。

 偶然なのかしら?

 それよりも考え方を変えれば、魔将の存在が近くなってきた。つまり――――アイリスも……。

 そうですわ。こんな所で足止めされるなんて。

 はっきり言ってブラックウルフの数が多い。様子見のヘルハウンドが、加勢に火を蒔く。騎士団もその火によって追撃できずにいるみたいだわ。

 そんな状況を眺めていると、よだれを垂らしこちらにやってくるブラックウルフ3匹。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 御者のおじさんの悲鳴で轟くと、それに気づいたブラックウルフが4匹追従してくる。

 こんな猛威にもならない雑魚に足止めされるなんて……。

 そんなにアイリスとの恋路を邪魔したいわけ?

 私は歯を思いっきり噛みしめる。

 内心、怒りが収まりきらないですわ。

 帯剣した剣を鞘から抜きだす。片方の手を前にだす。

「ギャンギャン」と喚き襲ってくるブラックウルフの群れ。

 

「……ふぅ」

 

 怒りで心頭は危険ですわ。すこしだけ落ち着きましょう。

 深呼吸しブラックウルフを直視。あたりに雷鳴が轟き稲光でブラックウルフが目を閉じ失速。

 私の手のひらから放たれた閃光が7匹を貫きそのまま燃え上がり灰と化した。

 それを見ていたヘルハウンド1匹が怒りの咆哮をあげ私に向かってくる。

 よだれのように火を口からまき散らすヘルハウンド。

 私は剣を片手に迫るヘルハウンドに向かっていく。

 交差するヘルハウンドと私の剣。

 よろけるヘルハウンドが真っ二つになり、たおれ消えていった。

 

「お嬢が、ヘルハウンドを!?うぉぃぃ」

「大声出すと、ヘルハウンドが襲ってきますわ」

 

 歓喜する御者のおじさんに笑顔で伝えたら、その口を手で塞ぎ身を潜めてしまいましたわ。

 御者のおじさんが倒れてしまったら困るのは私ですからね。息を潜め隠れてくれると助かりますの。

 ナディアの参戦もあってかなりのブラックウルフが減っていましたけど、やはりヘルハウンドには手を焼いていますわ。

 現状を把握しつつ、先ほど静めた怒りが徐々に苛立ちに変わり、余裕をかましてブラックウルフに騎士達を襲わさせているヘルハウンドの首を次々斬り落とす。

 私の行動に呆気にとらわれる騎士団達。そして次々と上位の存在ヘルハウンドが消えてしまい狼狽えるブラックウルフ。

 ナディアの剣戟が火を噴くとそれに続いて、騎士の数で黒の魔物を一掃し終える。

 そして魔除けのお香の準備が終わると再び、馬車は駆け出し先に進む。

 私の動きを見られてしまった騎士団の偉い人から、入団を求められてしまいましたわ。でも、ナディアの介入もあってその場はうまく取り繕いましたわ。

 そのナディアに何か言われるかと思いましたが、笑顔で何も言ってきませんでしたわ。

 無いとなるとやはり剣士カイン・アルフォーリスに絡む何かあるのでしょう。と考えていると再び馬車が止まる。騎士団の馬車に入っていた斥候の男がこちらやってくるとその口から言われる情報。

 

「勇者とその仲間が、危機的状況。もはや瀕死に近し、大至急!!」

 

 ひ、瀕死ぃぃっ!?

 立ち上がる私は、御者のおじさんの首根っこを揺らす。

 

「おじさん、早くぅぅ行きなさいっ!!」

「いぃ痛でぇぇ」

「マリベルッ!!」

 

 ナディアに取り押さえらル私、呼吸を整え苦痛の顔をする御者のおじさん。

 その光景に私は我に返り、御者のおじさんにひたすら謝り、無言に手綱をふるう御者のおじさんは、そのまま馬車を走らせる。

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