第25話 知る者と知らない者。無知で蛮勇の先導で積み上げた結果が崩れてしまいますわ。

 荒廃の大地に崩壊した家屋、そして血なまぐさい臭い。

 斥候の男から借りた遠見の水晶に映し出されたのは魔将と勇者を含む4つのパーティー。

 その光景にわたしの目に飛び移るのは、片膝をついて苦痛の表情をみせずにいる白い髪の勇者アイリス。

 そしてその先に、大きくそびえるほどの巨躯に4本の腕と甲胄で身を包み、兜の隙間から見せる赤く光る目の魔将シワンマガイ。

 

「ちっ、お前らまだ立てるかぁ?」

「見ればわかるだろっ。グレン!!」

「俺たちも、まだ……キツいかっ」

 

 赤と青と黄色の男3人と近くに数名の男女が、魔将と距離をとり精一杯の声で掛け合っている。

 笑みを浮かべる魔将シワンマガイが、その声に耳を傾け視界を動かしている。

 

「おいっ!白いのっ。お前らはどうだ?」

 

 なにか呟くアイリスの言葉は小声で周囲に届かないかわりに、1人の鎧に剣を持った美男子が声を荒げる。

 

「お前ら男だろ!!しっかりやれっ。男勇者3人がその程度なのか?笑わせるなっ!!」

 

 その声に怒りを見せる赤の勇者グレンと青と黄色の勇者。その仲間達は肩で息をしながら魔将シワンマガイを警戒している。

 彼らは、呼吸を整え体を休め、魔法が使える者は少しでも魔力を回復させ治療や、防御にまわっている。つまり彼らは王都の応援を待っている。駆けつけてきた騎士団がもつ回復のポーションを貰い再び戦うため。ということは回復手段が、自然回復待ちということ。

 私の見えた状況での考えは、斥候の男が伝えた言葉と同じ。まさに瀕死の状態だわ。

 

「はやく!!」

 

 御者のおじさんに掴みかかろうとすると、ナディアが慌てて止めに入る。

 その時、先行していた騎士団の馬車が止まり、騎士達が降りて動き出している。

 私たちの馬車も止まると、ナディアを顔を合わせ共に頷く。

 何も仕掛けてこない事にしびれを切らした魔将シワンマガイが、ゆっくりと勇者アイリスに向かう。

 少しだけ目を大きく開けるアイリスを見下ろす魔将シワンマガイは、2本ある内の1つの大剣を大きく振り上げる。

 

「ア、アイリスっ」

「勇者さまぁぁっ!!」

 

 アイリス仲間である美男子と男2人が大声を上げるが、動けないアイリス。

 ほくそ笑む魔将シワンマガイの大剣が大きい弧を描き振り下ろされる。

 目を閉じるアイリス。

 弾かれる金属の音が轟く。

 

『ビッヒャアアァァァ』

 

 魔将シワンマガイの口から発せられる奇妙な声と、よろけ後ずさりし地を踏む重たい音。

 その音に目を開けるアイリスの目に前に、茶色の髪を靡かせ薄汚れたドレスの上に軽装の防具に片手剣の少女が振り返る。

 

「アイリスッ!!」

「マ、マリベル?」

 

 驚くアイリスの言葉と後方から奇妙な声をあげる魔将シワンマガイ。

 

「マリベル、危ないっ!!」

 

 今ある力で精一杯声をだすアイリスだが、マリベルの動きに言葉を失う。

 大きく振ってきた大剣を再び弾き返す。

 よろける魔将シワンマガイの体に剣戟を繰り出す。

 

「そいつ斬撃効かないぞっ!!」

 

 横から大声で言ってくる。しかしそんなこと知ってますわ。この甲胄はやたらと堅いのですわ。

 何度も、斬撃を浴びせてた後、放つ電撃が魔将シワンマガイの体を巡る。

 

「魔法も効かん!!」

 

 再び、横から入ってくる男の声。そんなこと知ってますし、アイリスの美声しか耳に入れたくないのです。

 魔将シワンマガイ、4本の腕の内、左右前の腕には大剣を持ち、肩より後ろから生えた腕の右側は補助魔法、左側は回復魔法を使ってくる。

 やはり、魔将ということもあって倒すのは困難。ごり押しでは無理ですわ、こいつは倒し方があるのですが、それを言ってくるのは青か黄色の勇者だったと記憶してますわ。それに白の勇者アイリスは魔将シワンマガイ戦で中盤からの参戦。

 アイリスが倒し方を知るはずは無いし赤の勇者グレンも同じ。あの2人が怠けていたのに、大声を出すなんて……。

 騎士団達の行動で勇者達に回復の手が回る。

 勇者達と変わるのが良いのでしょうけど……ね。アイリスを傷つけたコイツが許せないのですわ。あの綺麗な顔を汚して、鎧も壊れ、笑顔をうしなわせたコイツが許せないっ!!

 魔将シワンマガイが怒りの咆哮。大気が揺れ、皆が耳を塞ぎ、一部は気を失っている。

 口を閉じ勝ち誇る顔をする魔将シワンマガイは、私を見て光る赤い目が点滅しだす。

 普通なら失神か耳を塞ぎ行動制限される攻撃だったが、目の前には微笑む私が平然と立っている。

 

「あなたの叫び声なんて私にとっては単なる大声。簡単に言えば、まぁ普通の声ですわ」

 

 ギフト【メニュー】にある【スキル】には既に状態異常無効をセットしてますの。耳に入ってくるのは何の変哲もない声でしたわ。

 私の繰り出す剣戟に、にこやかになる魔将シワンマガイが睨みだす。

 後方の左腕に痛みが入ったようね。

 2本の大剣をぶん回して私を遠ざけようとするが、躱しつつ後方の左腕へ攻撃を集中させる。

 

「そんなにいやなら、守りなさい」

 

 私の手から放たれる電撃、鋭利な氷のつらら、燃えさかる火の玉、名を言わずに連発ですわ。

 他の手で防御に回ればこちらも前後左右とステップ。

 後方の左腕しか攻撃をしない。

 この魔将シワンマガイの攻略は、回復魔法をつかう後方の左腕を攻撃し機能停止か切断。そして次は補助魔法を使う後方右腕を同じように。そうして大剣を持つ2本の腕になったシワンマガイをごり押しで攻撃して倒すのですわ。

 黒髪の女神さまの仮想遊戯ゲームで見てましたし、ギフト内の【魔物図鑑】で経験済みですし。本来あの中では、勇者4人でシワンマガイを囲って後方左腕が近づいたら攻撃って作戦でしたわね。

 補助魔法で能力が向上する魔将シワンマガイは、体を左右大きく揺らしながらブンブンと大剣を振り回しているが、遂に後方左腕が痙攣を起こし弱り切った所、私の剣が左腕の根元を薙ぎ払う。

 

 バッシャァァァァァッ!

 グッギャァアァァァアアァァッ!!

 

 噴き上げるどす黒い血と大きな口を開き苦痛の叫びが轟く。

 肩で息を整え出す魔将シワンマガイ。

 

「さて、次は後方右腕を――――」

 

 私の呟きと共に聞こえるのは……。

 

「あの女やってくれるぜ」

「腕1つぶっ放した。これからは俺たち勇者が奴倒す」

「マリベル、俺たち勇者がトドメをさすぞ」

 

 赤の勇者グレンが、口角を上げ私の肩を軽く叩いてに前に立つ。他の青と黄色の勇者も並ぶと、彼らの仲間も駆け足で追いついてくる。

 赤の勇者グレンの仲間のエンレイ、フレアにシエンと目が合うと、真剣な面持ちに変わり魔将シワンマガイを睨みだした。

 

「待って、そいつはまだぁぁ」

「あの女ぁっがやってくれたっ!こんどは俺たち勇者パーティーの実力を知らしめるぞっ」

 

 私の声がかき消されるほど大きな声を出す勇者3人。

 駆け出す勇者3パーティーの行動は、魔将シワンマガイと対峙、真っ向勝負。

 

「マリベル、お疲れ」

 

 後ろから声を掛けてきたナディアに振り向き、目くじらをたて突っかかる。

 

「なにがお疲れよ」

「え?1本取ったじゃ」

「後方のもう1本取らなきゃ、振り出しよっ!!」

「え?えっぇぇぇ!!」

 

 白の勇者アイリスの仲間、剣士カイン・アルフォーリスが「アイリスさま、私たちも行きましょ」と声を張り、剣を握りながら魔将シワンマガイに向かっていく。

 白の勇者アイリスも魔将シワンマガイに向け駆ける。その動き、仲間を制止しようと声を上げている。

 駆けるアイリスを目で追ったその時、魔将シワンマガイの咆哮が辺りを震撼させる。

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