第26話 男の矜持ってヤツですか。それとも勇者たる信念ですか?私は愛する人が無事ならそれで充分ですわ。

 魔将シワンマガイの前腕1本が3人の勇者とその仲間によって斬り落とされる。

 

「あと、2本っ!」

「お前たち、兎に角攻撃だ。補助魔法で攻撃力あげろ」

「勝てるっ!俺たち勝てるぞぉっ」

 

 勇者3人はまるで勝ったかのような雄叫びを上げるが、その時魔将シワンマガイの動きが変わる。

 地面に視線向けて頭をさげていた魔将シワンマガイが、面を上げ満面に笑みを浮かべた後、真っ赤な目を光らせ大きな口を開く。

 

 ガッオォォオオオォォォッ!!

 

 魔将シワンマガイの咆哮が、大気、大地、その空間に居る私以外全ての者を包み込み震撼させる。

 その咆哮で気を失う者、恐怖で崩れ倒れる者、意識はあるが立っているだけがやっとの者。

 騎士達殆どが、失神か倒れている。やはり勇者とその仲間が立っているが、彼らの目に入ったのは驚愕の事実。

 魔将シワンマガイの後方右腕から発せられる優しい光が、魔将シワンマガイを包み込むと、先ほど失った2本の腕が再生、元通りになり数多く失った傷も無くなっていた。

 

「なぜ……」

 

 やっとの事で口を開くナディア。

 

「倒す順番があるのよ。それを守らないと、あの腕が全回復させるのですわ」

「あ、あぁ」

「まぁ、あたしだけが平然と立っているし。何より向こうが私にしか敵意を向いているわ」

「……」

「私が勝ったらってアイリスを守れればそれでいいのですわ。それに自重しすぎましたので少し羽目を外させていただきますわ」

 

 肩を動かし、呼吸を整えている魔将シワンマガイに向かう私は、持っているポーションで疲労、傷、魔力を回復しギフト【メニュー】で装備を変える。

 貧乏貴族が薄汚れたドレスを着てその上に軽装備っていうのは変えませんわ、動きやすいのですのよ。でも剣と防具を身につけている部位は変えさせていただきますわ。

 【光の剣】【ミスリルの胸当て】【ミスリルのガントレット】【ミスリルのレッグアーマー】

 ミスリルという金属は丈夫な上に身軽になるものなのですね。それに光の剣、刀身が光り輝き魔障に効果ある属性を持っている剣ですわ。私が持っている武器の中で真ん中辺りですが。

 

「先ほどは時間を掛けてしまいましたの。彼らが回復すればあなたを倒すのが早くなるかと」

 

 ブォォォッ

 

「失礼でしたわね、ですがもう自重しませんわ。後ろの2本の腕を斬り落とすまでは」

 

 ブオッオォォォッオォォッ!!

 雄叫びを上げる魔将シワンマガイが、大きく体をそり上げ2本の大剣を振り下ろす。

 避ける私、大剣が大地を抉り土塊と共に大剣が私を狙う。

 それも軽く避ける。えぇ、既に補助魔法をある程度、掛け合わせていますわ。

 1本の腕を切り落とした時よりも2倍ほど能力を向上させておりますのよ。ですけど油断は大敵、慎重かつ大胆にあなたの腕をまず1つ刈らせていただきます……わ。

 光の剣、そして魔法で後方左腕を脆くさせる。

 かばう動きを見せる魔将シワンマガイだが、その速さよりも私の動きが上。

 魔将シワンマガイの後ろに回り込んだ私は、光の剣を横に大きく振る。

 光の剣の輝く刃が描く弧が、魔将シワンマガイの後方左腕の根元を通り抜ける。

 絶叫の魔将シワンマガイが苦しみ出す。そこにつけ込ませていただきますわ。

 後方右腕に鳴り止むことない魔法の衝撃音。そして肉を斬る斬撃の音。

 再びあの勇者3人が恐慌状態から回復するまで、休むこと無く繰り出す。

 魔将シワンマガイは身をひねり庇おうとするが、それも知っていますの。その鈍い動きでは、私の攻撃は防げませんわ。

 補助魔法を掛けようにも私の攻撃で発動すらできない後方右腕が、遂に痙攣しだす。

 邪魔されてはダメ。光の剣が後方右腕の根元を捉える。

 

 スッパァァァン

 

 会心の一撃ですわ。気持ちいい振りと絶妙な箇所に入った絶好調の一撃に魔将シワンマガイの後方右腕が飛んで落下する。

 落ちた腕を見つめる魔将シワンマガイが身震いをしだす。体に見合わないほどの動きをしてしまい、息切れの私は呼吸を整えている最中、あの男三人どもの声が入る。

 

「あの女ぁ2本も斬りやがった」

「だから言ったろ強い奴がいると」

「でも、最後に勝つのは俺たち勇者だっ」

 

 その言葉を大きな声を上げると、また私と魔将シワンマガイの間に立つ勇者3人とその仲間。

 

「俺らは勇者だ。一般庶民はあそこで休んでいたまえ」

「そう、庶民がよく動いてくれて助かりました。ですが、ここからは勇者たる私たちの戦い」

「そうだぜ、マリベル。お前はよくやった。ここからは俺たちに任せなっ」

 

 はいぃっ?

 魔将シワンマガイの咆哮で2度も怯えていた男3人が、なぜその口からその言葉がでるのですか?

 呆気にとらわれる私に後方から駆け寄ってくるナディア。

 そのナディアに私は、肩を担ぎられ後方の騎士達の所へ連れて行かれていくわ。

 でも、ここからは、ごり押ししかないから大丈夫でしょう。

 白の勇者アイリスが、私へ視線をむけ足がこっちに向こうとした時、剣士カイン・アルフォーリスが声を上げる。

 

「アイリスさま、我々も彼らと共に戦いましょう」

 

 残りの魔法使いと神官の身なりをした2人も頷くと、眉間にしわを寄せたアイリスが「えぇ」と返答し私に向けた足を引き魔将シワンマガイへ駆けていく。

 震える魔将シワンマガイが、再び顔を上げ大きく口を開く。

 だが、勇者3人の猛撃にその口が閉ざされ、さらに白の勇者アイリスと仲間が応戦に入り、魔将シワンマガイは大剣での攻撃でしか対抗できなくなっている。

 

「2度も恐慌状態となった4人の勇者とその仲間。魔将シワンマガイの方が明らかにレベルが上ですわ。そうなれば勇者達は魔将シワンマガイに対抗できるのは数のみですわ」

「マリベル、それって!?」

「腕1つ斬り落としている力はあるですけど、魔将シワンマガイは私との戦いで補助魔法による能力向上させていますわ」

「というと?」

「あの場で勇者達の回復手段が無くなったらここに来るしかない。そうすれば攻撃の手が減り勇者達にピンチがやってくる」

「あんなに、攻撃がやまないのに」

「まぁあくまで可能性ですわよ」

 

 四方八方から出される攻撃を喰らう魔将シワンマガイも負けじと、勇者達に大剣を振るう。

 力任せに振るってくる大剣を防ぎにはいるグレンの仲間のエンレイと青と黄色の勇者の仲間。

 その動きが鈍ってきているのが目につくと、その光景を眺めているナディアから言葉がもれる。

 

「これは、マリベルの言葉どおりかも」

「ナディア。武器と体調はどう?」

「問題ない」

「なら、いきますわよ」

「ええ」

 

 私とナディアは、彼ら勇者達に気づかれないように、彼らにさとられないように、ゆっくりと戦いの場に近づいていく。

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