第19話 一途な心を揺るがされた一品のせいで死に戻り。思い出すあの時の言霊と刻まれた恐怖……ですわ。

 馬車に揺られ街に戻る私たち。

 ドロップアイテム淫魔のペンダントを見せると赤の勇者グレンの仲間である女性3人が、「ちょうだい」と迫ってきた。

 これも前に見たのよね。前々回はエンレイに、そして前回はフレアに。2人に渡したらあの場所に戻っていた。

 なら、ナディアの姉であるシエンに渡したら安全かも。そう思い私は、笑顔でシエンに渡すと大喜びのシエン。

 次の日は疲れたので休すもうとしてたが、前々回と前回に続き再び宿の主人に「例の人の〜」と声をはりあげドアを叩かれ起こさられる。

 はぁ、3回目になっても休ませてくれないのね。

 急いで着替えると、ロビーにはシエンが微笑ましい顔で待っている。

 

「朝早くからぁ、今日は休みとナディアから聞いてぇ。私も休みだから一緒にどぉかなぁ〜って」

「どぉかな?」

 

 首を傾げる私にシエンは、何かを閃いた様子。

 

「この街、色々あるってエンレイやフレアが言ってたからデートしましょ」

 

 あっ、これもというか、このパターンなのね。何となく分かってきた私だが、断る理由もなく日が暮れるまで、シエンと街を見て回る。夕日が見える高台に到着する私とシエン。

 夕日がさす街並みを眺めるシエンが、私の目を見つめてくる。シエンから発する母性を感じる雰囲気が、夕日と相まって更に。

 

「ねぇ、この街結構住みやすいと思わない?」

「そ、そうですね」

「それじゃぁ、一緒に住みましょっかぁ〜マリベルぅ?」

「えっ?」

 

 驚く私の目と鼻の先には、微笑むシエンの姿。そして両手で私の手を取られ引っ張られそのまま抱きつかれ、耳元で囁くシエンの吐息が、私の身体を巡る。

 

「ねぇ、マリベル……好きよっ」

「ん?」

 

 シエンに掛けられた言葉、私は何故か考える事が出来ない。シエンの事だけが一気に思考や心が支配されていく。その間、一瞬過ぎる白色の髪の少女だが、私の記憶にとどまらなかった。

 そっとだけど、強く抱きしめられる私。シエンと額がくっつき、そのままお互いの唇が合わさる。

 目を閉じる私にシエンの暖かく優しい母のような温もりが、唇と抱きしめられている腕や手、そして当たる柔らかい胸から伝わってくる。そして、すべてがシエンに包まれるような感覚に染まった時、私の足が何かを踏んでいる。

 

 ジャリ!

 

 目を開けると目の前にいたのはシエンで無く、倒した猪オーク。そして、踏んでいたのはあのペンダント。

 拾い上げ、そのペンダントの炎のように揺らめく物が見える青い宝石があるペンダント。【鑑定】でわかったのは淫魔のペンダント。

 これ、装備効果が分からないのよ。だけど、これを渡した相手から次の日、一緒に出かけそのまま恋人になったのよね。頭を傾げながらじっくりと眺めている。

 すると、ナディアが私に話しかけて来てくれたわ。

 

「マリベル、それ?」

「これ、この猪のオークが落としたと思うわ」

「それっ同じヤツ。さっき倒したオークも落としてた」

 

 ナディアの手には、淫魔のペンダントが2つ。

 確かに、青い宝石があるペンダントだわ。しかしこれ攻略対象の人に渡すアイテムのような効果しかないアイテムだけど。何故オークから? わからないわ。

 すると、ナディアが持っている淫魔のペンダントを見つめ困った顔をしていると、私にそれを差し出してくる。

 

「これ、要らないからマリベルに渡しとく」

「えっ、あぁ」

 

 貰ってた方がいいかな。ナディアが間違って誰かに渡して好感度がグィーーーンって上がったら問題ありかも。

 素直にペンダントを受け取る私。

 帰りの馬車で、解体したオークの話になっていたら、このペンダントの話に。エンレイとフレアが興味を示し出すとシエンが私の顔を覗き込んでくる。

 

「マリベル。これ下さらない?」

「なら、私にも!」

「ちょっとぉっ、私も欲しいっ」

 

 迫る3人に困る私。ナディアの顔をチラッと見るが、そのナディアは首を傾げ、我関せずと言わんばかりの表情。

 そんな状況に赤の勇者グレンがため息混じりで。

 

「オークのドロップアイテムなんて所詮、何の効果もなさそうな代物だよな」

 

 その言葉に少しご立腹の3人。

 この淫魔のペンダント。対象者に渡したら好感度が上がるだけど3人同時ならもしかして、変わり映えしないんでは? むしろ現状維持なのでは!!

 私のこの軽い考えで、3人にペンダントを渡す。喜ぶ3人と何気なく時間が過ぎ、私は宿に戻り休む事に。

 現状維持なので安心してたら、朝から宿の主人が「例の人の仲間さんが〜」と言葉が変わっていた。

 淫魔のペンダントをエンレイに渡せば、宿にエンレイが、フレアに渡せば宿にフレアが、シエンに渡せば……そうその後心が温まる瞬間何かが消え、再び猪オークの元に戻っている。

 でも、今回は3人。

 うむ、3人なら変わらずに何事も無いだろうと、着替えを済ませロビーに駆け寄ると、着飾った3人がお互いに睨み合い、視線がぶつかり合い火花が散っているように見える。

 

「あの?」

「「「マリベル!」」」

「なに?」

 

 睨み合っていた視線が私に向けられ、グイッと迫る3人の緊迫した顔。

 

「「「今日休みだよね? なら……私とっ!!」」」

 

 3人ともセリフが同じだわ。なんか私、追い詰められているような感じなんだけど? 

 後退りをする私に押し寄せる3人。3人から甘く引き寄せられる香りが私を包む。

 それぞれ個性豊かな香りに私は『この3人の仲に……』なんて想いが頭の中を駆け巡る。

 さらに強くなる甘い香りが、私の思考を鈍らせてくる。

 心の中にある大事な想いが、徐々に薄れ誰かの人影がまるで陽炎のように揺らめきそして、煙のように消えかけようとした時。

 3人の奥に、黒ずくめの人影――――いや、黒く塗りつぶされた細身の女性のような人物が、私を見てくる。目は無い、眼鏡をかけているような、そして長い髪が揺られ、指を不気味に動かしながら両手を前に出し、何か呟きながらゆっくりと私に近づいてくる。

 3人はその者に気づいていない。

 いや、3人の声が聴こえないわ。何か怒鳴りあっているようにみえるけど、何も……。

 シルエットの女性の指がフレアとエンレイの身体をすり抜けて、私の首に触れる。

 

『……首を絞めて……やりたいっ!』

 

 えっ?

 

『アイツの……首を絞めて……苦しませて……やりたいぃぃっ!!』

 

 その憎悪が篭る低い声に聞き覚えが。

 まさか……。

 

「めっ……めがみさ……まっ……」

 

 あの女神様がいた世界で、私はこの「くそぉっ、このゲーム作ったヤツの首を絞めてやりたいぃぃぃっ」って女神様が何時も怒っていたわ。攻略が出来なかった時とかその怒りは尋常ではなかった記憶があるわ。

 シルエットの女性の両手が私の首を掴み、そのまま首を絞める。絞めつけてくる腕を掴み抵抗する私だが、その腕は全く微動だしない。

 強く絞められる首、息が出来ない……。

 目の前にいる3人は、何故か苦しんでいる私に気づいていない。

 シルエットの女性の親指が私の喉を押し潰し、その他の指先が首側面を力強く圧す。

 徐々に意識が遠のいていく。

 身体に力が入らない。

 意識を保とうと堪えるが、瞼は閉じようとする。

 そして、視界が曇り、

 視界が全て闇に染る。その時浮かび上がる文字。

 スキル《女神の祝福》が発動……。

 何このスキル? こんなの持っていた?

 そんな事消えていく意識の中で思うが、祝福の文字が掠れ一瞬、《女神の呪い》に変わり、私は驚愕する。しかし再び《女神の祝福》となると、そのままその文字も闇に染まり意識が消えていった。

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