第33話 高ランクの依頼を獲得ですわ。憧憬と哀愁とキザは相容れませんのをご存じでしたか?

 依頼が無いことに腹を立てているナディアをおいて困惑していた受付嬢は、わたしがおいた依頼の紙をもって奥の事務所へ走って行ってしまった。

 困りましたわ。彼女は焦っていたようにも見えますが。

 

「きいたんだけど、依頼が入ってこないって」

 

 ナディアが口を開くけど、私が置いた依頼をどこかに持って行ってしまった受付嬢のことは、何も無いのですわね。

 

「そのようね。壁を見たら王都の冒険者組合とは段違いだわ」

「平和ということと思いたいけど」

「外にいた冒険者皆さんの愚痴が、そうと言ってないみたいだわ」

 

 頭を縦に振るナディアに戻ってくる先ほどの無言でいなくなった受付嬢。失礼にも当たりますが冒険者だからでしょうか。

 

「す、すみません。この依頼――――受付大丈夫ですが、大丈夫ですか?」

「どういう?」

「フロストフィアスウルフは、凶暴な狼系の魔物です。冒険者ランクB以上の方でしか受ける事ができません」

「ナディアなら、大丈夫だわ」

「ナディア……紺色の髪の……」

 

 驚く受付嬢の丸くした目の視線はナディア一直線に注がれている。まばゆい光を放つその視線の元は潤いに満ちあふれているが、それすら全く気にとまらないナディアは依頼受理を淡々と進め終わっていた。

 この受付嬢の方はナディアが憧れなのでしょう。冒険者のランクが高いに超したことはないのですけど、これを見ると白の勇者アイリスの仲間になる、すなわち冒険者ランクを上げないと入れない、だけど上げると注目されてしまう。これは悩みの種ですわね。

 ナディアはカウンターに肘を掛け受付嬢からの依頼内容、討伐対象の生息域なで聞いている。わたしも立っているのは少々疲れましたのでカウンターに寄り掛かって聞いていますわ。ですが何やら外の方からざわめく声と建物に入ってきた数名の声。

 

『全くないですね』

『あの依頼受けられるのは私たちぐらいしか』

『もしかしたら古すぎて』

『フッ、今のこの俺にふさわしい依頼だ。お父様があると言っていたのだ』

『『『かっこいい~』』』

 

 ガタン――――。

 

 寄り掛かっていたのに転びそうになってしまいましたわ。なぜ、あそこで『かっこいい』と言う言葉がでるのでしょう。ナディアも失態したような面持ちで受付嬢に苦笑いをしている。

 その声の主達へと視線を動かすと、そこには爽やかに青髪を掻き分け不思議な仕草をする青年――――青の勇者ソラとその仲間達。

 すると、向こうがこちらに気づいたようで。

 

「これは、の冒険者ではないか!」

「だから、なによ」

 

 突っぱねるナディアの言葉に目つきが鋭く変わる青の勇者ソラの仲間である女3人。

 カウンターに置いてある依頼書が目に入った青の勇者ソラ。

 

「それは、どのような依頼だ――――いや、お前たち平民の冒険者が受付できない依頼。フロストフィアスウルフの討伐だろう」

 

 少し顎を上げ私とナディアに、冷たい視線をむけてくるが、そこに受付嬢が一言。

 

「依頼は受理できましたので、彼女たちにお願いしています」

「は――――い?」

「フロストフィアスウルフ討伐は彼女たちにしてもらいます」

「平民の冒険者よりもこの俺、魔将シワンマガイを討った青の勇者ソラが受けるのは普通だろ」

「「「そうよっ。そうよ!!」」」 

 

 青の勇者ソラとその仲間が波のようにカウンター越しにいる受付嬢に押し寄せる。 

 その勢いに俯きながらなにやらぼそぼそと口を動かしもじもじする受付嬢。

 

「平民、平民ってうるさいなぁ。このキモナルシストが……。うちの依頼を権力で根こそぎ持って行きやがって」

「何か言いたいことがあればはっきりと言うがいい。この地を治める父の子でもあるし勇者でもある。俺には平民の安全を守る義務がある」

 

 胸を張り鼻を鳴らす青の勇者ソラに、情熱的な視線をするその仲間である女3人。

 

「どころで君。この依頼取り下げてくれないか?君たちを守る為だ」

 

 青の勇者ソラは、カウンターを強く手を付けナディアに視線を合わせようとするが、ナディアは大きく深呼吸し哀愁の眼差しで告げる。

 

「いやです。お断りします。拒否します。以上です」

「なっ!」

「マリベル、場所もわかったし行こう」

「ええ」

 

 カウンターに背を向け出ようとする私たちに、青の勇者ソラの怒号が飛んでくる。

 

「おいっ!無駄死には止すんだ。少し力をつけた平民の冒険者が敵うと思っているのかっ!?」

 

 足を止めるナディアと私は、その言葉に踵を返し鋭い視線を……冷たい視線で青の勇者ソラを見つめる。

 一瞬喉を鳴らす青の勇者ソラは、髪を掻き分けると不思議な動作を止める。

 

「君たち平民の冒険者が受けて良い依頼じゃない。それは勇者であるこの俺、俺たちが受けるべき依頼だ」

 

 勇者ソラに近づくナディアの一歩一歩踏みしめる足音が大きく響く。

 怒りをみせるナディアの形相に、すこし後ずさりした青の勇者ソラ。

 

「それなら、勝手に付いてくれば良い。もし私たちが倒れたりして、戦線離脱したら君たちが討伐してくれ」

「あぁ、そうか。俺たちが後見人として――――わかった引き受けよう」

 

 頷く青の勇者ソラを後に、ナディアが頭を抱えて戻ってくる。

 

「マリベル。あいつらが付いてくるけど良いか?」

「まぁ、仕方がないですわ.この状況ですし。あいつらが、ここにいたら何するかわかりませんわ」

 

 貴族の権力でどう依頼を冒険者組合から奪ったか知りませんけど、この街にのこしておけば更になにかしてきそうですわね。

 それにしても、この先あの不思議な動きと気障に悩まされるのですわね。

 あと、青の勇者ソラの仲間も覚えておかなくては、

 ――――全く興味がなかったもの彼女らは【人物図鑑】で見ればわかるのですが、何かあった時には必要ですから。

 後ろで、黄色い声援が飛び交うのに悩ませながら街の外へ向かっていますわ。

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