第21話 私の名はアイリス。白の勇者ですけど、この国の貴族男性どもは、やばいです。

 ――――まだ、マリベルがナディアと共に東の地へ旅立つ頃。

 いかなる魔物も侵入を防ぐ分厚く高い城壁に囲まれた王都。賑わう街並みを見下ろす貴族達の館が並び、それらを支払いするかのように高くそびえる王城。

 王都の一角、貴族の館のある部屋にて男女が、茶会という名の見合いをしている。そこには見た目が冴えない男の前には絹のような白髪の美少女であり白の勇者アイリスが、鎧では無くドレスを着て話をしている。

 

「で、どうですかな?」

「すみません。いくつ物命を奪ったこの手は、血で染められ穢れてしまってます。こんな私は貴方様に相応しくありませんわ」

 

 苦笑いする貴族男性を直視するアイリス。

 この文言を使えば必ず相手は怯むわ。でも、あともう一押しね。

 

「それに、私は勇者――――いつなんどき敵が襲ってくるかもしれません。魔王は私よりも強い者を送り込んでくるでしょう」

 

 苦笑いから顔色が青くなる貴族男性。ティーカップを置き帰れのサイン。その執事から頭を下げられ私はこの館を出るわ。

 本当に断るための常套句なの。《毎回》これでやり過ごせたわ。

 アイリスは、笑顔で馬車に乗り込み進む方向は自宅。

 王都の貴族の館の中で一二位を争う程の大きさの館に、アイリスを乗せた馬車が、入っていく。

 白の勇者アイリスは、この国の公爵家の娘。勇者となってからは直ぐに行動に出て冒険者のランクを上げる事に勤しんだ。

 しかし、その才色兼備と噂されたアイリスは、どこ貴族からも婚姻の申し込みがありアイリスの親は困っていた。

 はぁ、これじゃぁいつ経っても強くなれないわ。それに、お父様にマリベルの事を調べてと言ったのに、何時になっても返答が来ないわ。

 外で訓練をしている仲間3人を眺めながら苛立つアイリス。父親に呼ばれ苛立ちを隠して父親の部屋に入る。

 

「なんでしょうか。お父様?」

「アイリス。いつもすまんな」

「いえ、勇者である前に私はこの家の子ですわ」

「勇者は魔王の脅威から人々を守る役割を持つんだがなぁ〜。この……王都の貴族連中はこの街を囲む城壁が無敵だと信じ、平和ボケしている」

「あら」

「そう言ってしまうと私の立場も危ういが、これを見てくれ」

「これは……?」

「ついに来てしまった……第3王子からのお誘いだ」

「でも、確か第3王子は」

「あぁ、まだ婚姻を結んでないが相手がいる。この手紙からだと激励の挨拶といったところか」

 

 相手がいるのならめんどくさい断りなど必要なさそうね。

 は相手がいなかったのも覚えているし、少しだけ会って話したら何度も呼び出されて、その度にドレスを着て……。前のことは思い出したくもない。今回この大きな変化に期待しているの。

 私は窓の外を眺める。外では私の仲間3人が戦闘訓練をしているわ。その雰囲気から冒険者組合での依頼を受けられない、そして外で力を発揮させることが出来ない鬱憤が感じるわ。

 ――――そして、私は第3王子ウィリルム・ロズヴァールと出会う。

 

「さぁ、そこにかけたまえ。白の勇者アイリス」

「ええ、ありがとう」

 

 メイドに引かれた椅子に腰掛ける私。ウィリルムの隣にはキツ目の女性が私を睨みつけてくる。

 

「コチラは、私の秘書のメリアだ」

「初めまして、白の勇者アイリス様。私メリア・です」

 

 ラ、ライフェイザ……ですって!?

 たしか、マリベルの兄である《黒獅子》のフォクスという男も確か――――ライフェイザ!!

 この女は、マリベルの姉……なら――――マリベルの居場所を知っているはず!!

 話は彼、第3王子ウィリルムの独壇場と言うべきか質問を投げかけられては答え、と質問を考えてきた私にとっては楽であったわ。

 それにしても、ウィリルムの止まらない質問であっという間に時間が終わってしまう。

 終わっては隣のメリアと話す機会が無いわ。

 適当に流し、何を質問され何を答えたかなんてほんの微塵も覚えてないけど――――でもここで離れてはチャンスを失うわ。

 席をたとうとするウィリルムとメリアと共に席を立つ私は、メリアの顔を見つめる。

 

「所で妹さん……マリベルは元気?」

 

 私の言葉にメリアは少しだけ驚く表情をしたが、軽く目を閉じ私の目を見てくる。

 

「ええ、元気だと思いますわ」

「思い?」

「辺境の地へ嫁いでしまいましたから――――あまり会って無くて……オホホ」

「と、とつ……嫁いで……?」

 

 目の前が真っ白になる。腰の力が抜け先程まで座っていた椅子にそのまま持たれ掛かる。

 慌てふためくウイリルムと私の付き添いのメイド。

 私の心の中で大きく輝いていた太陽のような存在が、一瞬消えた。

 私は、その日以来数日寝込んでしまう。

 何か合ったか覚えのない第3王子ウィリルムは、自分の何か過ちかと勘違いをし、私の屋敷に来ては見舞いの花束と私の様子を伺っていたらしいわ。

 マリベル――――あの子と出会って私の心の中に温かいものが生まれたわ。その時私は変化を知った。

 

 今まではどんな男性と一緒になっても魔王と奪う出来ず必ず世界が崩壊し、一緒にならなくても私孤独に消えていくの。

 でも、は違うのが分かる。マリベルと出逢った瞬間私のステータス表記が変わったの。1番目立つ変化はレベルという表記から冒険者ランクに。

 それだけではないのだけれど、マリベルを思い出すと鼓動が高くなり眠れない時も、苦痛の戦闘でもマリベルを想うと頑張れたし、今までマリベルを忘れた事は無かったわ。

『嫁いだ』その言葉で私の心が壊れかけ……いや壊れて……あれ……?

 

 ――――マリベルとナディアが、赤の勇者グレン達と共にゴブリンの群れを一掃し終えた頃。

 

 マリベルの事を忘れる為、私は貴族の男からの茶会の話を断り冒険者組合の依頼をこなす事に没頭している。そんな中、お父様が血相を変えてくる。

 

「アイリスよ。第3王子が会いたいそうだ。何通も来てそろそろ断りづらくてな……会ってはくれぬか?」

 

 困り果て暗い表情の父に私は首を縦に振ると、父の表情が一変し明るくなりスキップして部屋から出ていく。

 その行動に深いため息が漏れ、『してやられた』と項垂れたわ。

 そして、数日後。ウィリルム王子との面会の日取りが近づくが、慌てふためくメイドが開扉1番の言葉。

 

「アイリスさま。おおおお王子様――――ウィリルム王子様が来ています」

「なっ、直ぐに」

 

 面会の時に着ていくドレスに着替え、ウィリルム王子と挨拶。

 もうマリベルには会えない……。この状況なら私はもう……。

 

「久しぶりだな、アイリス。君は美しい」

「ありがとうございます……所で」

「あぁ、あの女か?」

「ええ、ライフェイザ家のメリアさんは?」

「彼女とは婚約をしたが――――君との会話が楽しくてな。彼女……あの女とは婚約を解消した」

「えっ? あら……」

「つまりだ。君を迎えに来た――――アイリス、君と婚姻を結びたい」

 

 もう、どうでもいいわ。この言葉を受ければ私は……一時だけど幸せになれる。

 そう、幸せに――――。

 

 この言葉……でもはウィリルムに相手はいなかったし、相手を探して見合いやパーティーを開いたりしてたはずだった。マリベルと関係のある人間が出てきているし、とは完全に違っている。

 これは、もしかして私が諦めなければ……。

 

 ――――マリベルっ!!

 

 廊下から騒音がし、徐々に大きく騒がしい声が飛び交っている。

 

「どうした?」

 

 ウィリルムが部屋を見回している時、メイドが血相を変えて扉を開けると父親が息切れをしながら部屋に入ってくる。

 

「はぁっ、はぁ。ウィリルム王子すみません」

「どうした、何があった?」

「アイリス。武器を持って直ぐに仲間ともに出立するんだ」

「だから、何があったというんだ?」

「王子! 魔王の部下である四魔将の1人が北東の地アイミアヤフに現れました。王からの通達で直ぐにと」

「なっ、おと……王から……と」

「分かりました。ウィリルム王子すみません。この話は無かった事に」

「くっ、そうだ! 勇者が他に3人もいるんだ。アイリス君が行かなくても……」

「ウィリルム王子。私は勇者としてこの国の皆を守りたい。王族のあなたなら……分かるはずですわ」

「今回は止めることは出来ないが、君が戦わなくてもいいように、勇者は3人とする事を父を説得してみせる」

 

 何故か笑いながら部屋を出て行くウィリルム。その後ろ姿にため息しか出ないわ。父は腰低くウィリルムを送り出し、私はドレスから鎧に変え仲間と共に北東の地へ向かう。

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