第22話 メリア・ライフェイザと父ダグラスの思惑。

「ちっ、ちくしょうっ!! 白の勇者アイリス。何故私がこんな目にぃぃっ」

 

 王都の高くそびえる城の一角。政務室にてマリベルの元姉メリア・ライフェイザが、怒り狂っている。

 この国の第三王子ウィリルムと婚姻を結び浮かれていた時、白の勇者アイリスと面会。そして数日後、突然ウィリルムから婚約破棄を言い渡された。

 歯ぎしりをし地団駄を踏むメリアの怒りは収まらない。何故から彼女はウィリルムと婚姻を結び、王族に連なろうと画策していたからだ。

 父親ダグラスもメリアに協力し、当時相手を探しているウィリルムに紹介していた。メリアのスキル【並列思考】と【思考加速】によってウィリルムを巧みに扱い気を引いていた。

 だが、ウィリルムは白の勇者アイリスと出会ったあと私に対する目が違ってたわ。

 アイリスの父もマリベルの動向を探っていたし。

 もしかしてあの女ウィリルムに何か……吹き込んだんでは?

 あの女、マリベルと歳が近そう――――マリベルが嫁いだことで焦りを感じた?

 お兄様の報告で、アイリスはマリベルと仲良く話していたと書いてあったわ。友達が何も連絡もなしに嫁いだ事を恨んでいる。あの女、確か公爵家だったわ……権力を使って非常識と言って私の家、ライフェイザ家を滅ぼそうとしているのでは?

 ちぃっ、こんな時に父親や家名の面汚しされるなんて。

 マリベル、私の邪魔をしやがって!!

 

「あの時、お兄様がマリベルを殺していれば」

 

 その言葉を吐き捨てメリアは城を出て、ライフェイザ家のあるサウスヴェスの都市スフィースに向かう馬車に乗る。

 怒りが収まらない数日間、マリベルを思い出しては苛立ち、白の勇者アイリスを思い出しては妬んでいた。そして、家に到着するや荷物もメイドに任せ、そのまま一直線に父ダグラスのいる部屋にはいる。

 自らの机で筆を持ち書類を目を通す父ダグラスは、入ってきたメリアを睨む。

 

「ノックもせずに入ってくるとはっ」

「緊急事態なんですお父様」

「ウィリルム王子と婚約したと聞いたが、ついに婚姻を結んだか?」

「その逆ですっ、婚約破棄ぃっ!!」

 

 メリアの目には涙と鼻をすする音を立て怒鳴る。その言葉に父ダグラスは机を叩き立ち上がる。

 

「何故――――何故だぁぁぁっ!」

「そんなのっ、ぜぇぇぇぇんぶぅっ。マリベルが原因ですわ」

「なにぃ、マリベルがっ! 出来損ないがっがぁ?」

 

 ノックする音で怒り狂った父ダグラスとメリアは、呼吸を整え「入りたまえ」と冷静を装った父ダグラスの声。

 中に入ってくるのは黒い鎧を身につけたフォクス・ライフェイザ。

 

「お父様。今戻りました……それにしてもメリア戻って来ていたということはっ、ついにウィリルム王子と婚姻を結んだか?」

 

 平穏な空気だった部屋が一瞬にして凍りつく。

 不愉快な表情の父ダグラスとメリア。

 

「あら、お兄様。そんな訳ありませんわ?」

「は?」

「フォクス。少し黙っててくれないか?」

「メリアが帰って……2人共――――何があったんだ?」

 

 笑みを失った2人から放たれる鋭い睨みで、フォクスの顔が強ばる。

 

「話は戻るが、何故マリベルなんだ?」

「それは――――」

「なに、マリベル元気だったか?」

「「フォクス! (お兄様っ!! )」」

 

 鬼の形相の2人に縮こまるフォクス。

 メリアは事の顛末を話す、特に白の勇者アイリスがマリベルを探していることを強く。

 

「で、なんでマリベルを?」

「わかりませんわ。でも友達と」

「伯爵のおかげでアーモンド家に、嫁いだ事にしてもらっているからな」

「でも、正式では無くて? だから白の勇者アイリス――――アイリス・ヴァーレティア」

「ヴァーレティア公爵なら――――」

「それよりも、ウィリルム王子から白の勇者を引き離して、再び私に振り向かせてやるわ」

「振り向かせるか……。それをするのには至難の業だな。それに――――だ」

「それに……なんですかお父様?」

「振り向かせるというが、それよりもマリベルが原因というのが繋がらん」

 

 眉を寄せ首を傾げる父ダグラスが、頭に血が上っているメリアに告げる。

 

「アイリスはかなりの期間王都に在中してましたわ。その間多くの貴族と見合いをしてましたの。でも彼女は誰とも婚約を結ぼうとはしてなかったの――――だけど、ウィリルムと出会ってほんの数日で」

「魔性と言うべきか……いや、そういう事かっ!!」

 

 机を叩く父ダグラスだが、思いっきり叩き過ぎて手を痛めている中、メリアとフォクスは無言のままでいると咳払いをする父ダグラスが口を開く。

 

「マリベルの仕業だな。マリベルが友達として白の勇者アイリスにウィリルムとの婚約を勧めたと」

「え、えぇそうとしか考えられません。お父様」

「お父様もメリアも、俺でさえそれはおかしいと……」

 お互い頷く父ダグラスとメリアにフォクスが口を挟むと、2人の険しい顔と「「うるさいぃっ」」と怒鳴られフォクスの言葉を止める。

「とにかく、ウィリルム王子とアイリスの関係が深まる前に、今一度ウィリルム王子が私に向くようにしなくては……このライフェイザ家が上に行くことはありません」

「うむ……だがなぁ」

「おい、それを言うならメリア、お前が国王陛下に俺の力とスキルの事を言えば、ライフェイザ家を引っ張って高い爵位を授けてくれる筈だ」

 

 真っ直ぐな目をし怒り気味に大声を上げるフォクス。しかし父ダグラスとメリアは頭を抱えため息を吐く。

 

「フォクスお前な――――」

「お父様?」

「――――冒険者組合の社員にお前の悪事を知られて、国王陛下にお前の事を話を上げることは出来やしない」

「そ、そうですお兄様、各地で魔物による被害を食い止めるには資金や人を多く投じる必要があるんです。それを冒険者組合がやってくれているのです、その冒険者組合を敵に回せば……わかりますよね?」

「わかったなら、フォクスお前はゴブリンやウルフなどの討伐でなく、もっと大きな、そうだな――――オークとか倒せ……」

「どうしました、お父様?」

 

 父ダグラスが『オーク』という言葉をした途端、何やら考え事を始める。不安になるメリアと肩が落ちるフォクス。

 

「メリアァッ! オークだっ、オークっ」

「おオーク、お父様どうしたんですか?」

「オークのドロップアイテムが確か『淫魔のペンダント』と言うやつでな」

 

 笑いを堪えながら話す父ダグラスは、メリアの真剣に聞いている顔を見て、深呼吸をし落ち着きを取り戻す。

 

「オークが落とす『淫魔のペンダント』はそれを渡すと受け取った人が渡した相手に恋心を抱くという物だ」

「よく分かりませんわ」

「そのペンダントをお前がウィリルム王子に渡して付ければ、ウィリルム王子はお前しか好きにならないって言うことだ」

「はぁ……ってそんなの代物どこにあるんです?」

「そう言えば……」

「フォクス知っているのか?」

「お、お兄様、早く」

「最近、南のサウザリアウスでオークが出たと」

 

 地名を言われ一瞬固まる父ダグラスとメリア。フォクスが平然と話を進める。

 

「例のアレが払拭できるなら、騎士団を率いて長期討伐という形で遠征できます。伯爵の許可が必要ですが……」

 

 フォクスの言葉に目が鱗状態の父ダグラスとメリア。

 

「さすが、フォクス」

「お兄様、今だけ頭が冴えてますわ」

「今だけって!」

「「うるさいっ」」

 

 再びフォクスにキレる2人。黙り込んでしまったフォクス。

 

「伯爵には上手く言いくるめよう。しかしマリベルが何かするかも知れん」

 

 父ダグラスは目ヂカラでフォクスとメリアに圧をかける。

 

「メリアはマリベルの動向を探りアイリスとの接触を遮れ、もしくはあんな意味不明なスキル持ち、ライフェイザの家系の汚点なのだ。あんなヤツ殺してしまえ、確実に」

「そして、フォクス。お前は確実にオークを倒し『淫魔のペンダント』をメリアに届けろ。さすればライフェイザ家は高い爵位を得られるだろう。わかったなフォクスゥッ!」

「ハッ!」

 

 ほくそ笑む父ダグラスとメリア、2人に併せ笑いあげるフォクス3人の汚い笑い声が、部屋の外の廊下まで漏れていた。

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