第20話 Re:恐怖から始まる一途な想い。やっとアイリスと出会えそうですわ。

 《女神の祝福》いや《女神の呪い》によってわかった事がある。まずは私の足元には猪オークの死体が転がり、足の裏にはあのペンダントを踏んだ感触が……。

 そして、肝心なのは私が一途にアイリスを慕わない……探さないとなった時、私はこの《女神の祝福》というある意味呪いのスキルで、分岐点に戻される事。別の相手と一緒になった時私は女神様に殺される。つまり今回は4回殺されたって事。

 気づかなかった私に分かるように姿を見せて殺しに来たって事ね。

 拾い上げるペンダントを眺めながらも、《スキル》欄であの《女神の祝福》を探していると合った、合った。

 この《女神の祝福》というスキル、全く内容が分からないというか、内容が空欄。

 正直、今の私は、女神様のシルエットが襲ってきて首を絞めてきた恐怖を隠せないでいるのよ。だからスキル欄なんて見ちゃっているし、ペンダントを眺めてもいるのよ。

 すると、ナディアが近づいてくる。

 

「マリベル。顔が青白い……何かあった?」

「えっ、あぁ〜このペンダント」

「それね。私も手に入れたけど……」

 

 ナディアの手には2つペンダントを見せてきて、不要だから私は受け取る。前にもそうだったわね。あの3人と赤の勇者グレンには見られてないようで私はナディアに告げる。

 

「これ、あの4人には言わないで」

「あぁ、まぁ――――わかったわ」

 

 歯切れの悪い返事だけど、まぁドロップアイテムを秘密にするってあまり良い事じゃぁなさそうね。

 オークの解体が終わり、私たちは街に戻る。

 馬車の中では、先の戦いでの話でグレン活躍を3人が語ってたわ。私は興味なしだから、『ふーん』や『へー』で流してたらグレンが、怒鳴ってきたけど3人が抑えてくれたわ。

 

「グレンの強さに、マリベルも感心しているのよっ」

「ほら、ランクが離れてぇグレンの強さがぁ、表面しか見れないって感じじゃないぃっ」

「そうですわよ。グレン落ち着いて、そうよねマリベルちゃん、ナディア?」

「――――姉さんの言う通りかも」

 

 一瞬ナディアがチラッと私に視線を振る。私の当たり障りのない笑顔をみてのナディアの言葉に、赤の勇者グレンは当たり前のように頷き胸を張る。

 

「オレは勇者だしな。マリベル! 俺の女にしてもいいぞっ」

 

 グレンの発言で一斉に視線を突きつけられる私だが、スっと手を上げる。

 

「――――お断りしますわ」

「な、なぜだ!?」

 

 当たり前じゃない! 私はアイリスが大大大好きなのよっ! だぁぁぁっれっがっお前なんかと一緒になるものかっ! と心の中の私が叫びまくっているわ。

 

「私には、やる事がありますので……」

「やる事……なんだそれはっ!?」

「お話してなかったですわね。私は勇者アイリス様の助けになりたいのです」

「あの白の――――勇者か?」

 

 隣で頷くナディアを見て、赤の勇者グレンと3人は信じているみたいだ。もしかして、寝てない?

 

「ええ、まだ小さかった頃と言っても3年前。私はアイリス様に助けられたんです。だからその恩返しとして微力ながら力添えをしたいのですわ」

 

 力添えもだけど、心も添えたいですわ。

 深刻な面持ちで話す私に、先程まで顔を真っ赤に怒鳴っていた赤の勇者グレンが、静かに座り自己完結してそうな頷きをしている。

 

「うむ、そうだな、これは悪いこと言った。3年前となると白のヤツがゴブリンを倒したっていう時の……そうか。マリベル、お前が無事で生きていて何よりだ――――」

 

 ん? 何か解釈が違うような……?

 

「――――まぁ、当時の事は忘れる事など出来ないが、その力、白のヤツに使ってやってくれ。うん、ヤツが勇者として役目を終えた時、俺の元に来い! お前と婚姻を結んでやろう」

 

 え? 話聞いてた。

 私はお前と婚姻どころか、一緒になるという事すらなりたくない。

 むしろお断りをずっと言っているんだけどぉ〜。

 街に着くまで赤の勇者グレンから、同じ話をしつこく迫られたが、私は断るのが続いた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 翌日、ナディアと話し合いで休みとなる。それは前の記憶通りだけど、ナディアが出掛けた後あの3人の内誰かか、もしくは3人やって来て、振り出しにあの猪オークの所に戻る。

 それだけは避けたい。

 攻略対象を落とすのに好感度というのがあるんだけど、あれは私には見えない。ゲームというあの中で、選択した主人公の女性から攻略対象の男性に対し、好感度の割合が見れていた。

 でも、今はその好感度を見る事が出来ないってことは、いつどこで、結ばれる出来事が起きるか分からないわ。それを回避する為なら宿で休んでいられない! いち早く出ていった方が安心だわ。

 ――――という事で、私はナディアと共に出掛けることにし今、冒険者組合の建物にいる。

 まずは今回オーク討伐でグッググッぐーんと、私のランクが上がっているだわ。それでアイリスの居場所を教えてくれるはず。

 ウキウキしなからナディアと共にカウンターへ。

 

「マリベルさんのランク――――『F』になります。それと……」

 

 受付嬢が笑顔で私に伝えてきたよ。『F』って……。

 いやいや、あの赤の勇者グレンとその仲間が、必死に戦っても私の討伐数より低いのよ。4人固まって倒した数より多いのよ。

 そんな目で受付嬢を見ていると、頬を痙攣させ少し青ざめた表情になりながら口を開く。

 

「あ、どんな数であろうと無印からのランクは『F』になりますので……」

 

 その言葉を突きつけられ一瞬固まってしまったわ。あれだけ頑張ったのに……固まった表情のままナディアに視線を動かすと、満面の笑みで頷くナディア。

 

 なんで?

 

 受付嬢と心地よく話をしているナディアの横で、私の視界がぼやけてくる。

 すると、背後から聞き覚えのある男の声と女性3人の甲高い声を浴びる。

 

「おい、やはりここにいたか!」

「今日休みでは無かったのか?」

「てっきり宿にいると思ってたのに」

「ホントよっ、一緒にゴロンとしてあげよう思ったのぉ」

 

 気が遠くなる声に私の視界はハッキリとなりその声に振り向くと、赤の勇者グレンとその仲間3人。特に女性3人が血相を変えてやって来ているのがわかる。

 

「こいつらがマリベルと遊ぶとか言い出すからよ。宿に行けば居ないし――――それなら組合じゃないかと、来てみれば案の定居たな」

 

 説明ご苦労ですわ。という事はもしかして既に好感度は上限いってて、あのペンダントが相手か状況を選ぶ場面だった?

 

「それにしても、そんなランク明日でも良いんじゃなかったのか?」

 

 グレンが、カウンターに置いてある私の冒険者登録証を見て言い放つ。

 

「私は、ランク上昇が大事なのっ! アイリスを探すのに」

 

 怒鳴る私にグレンは、少し黙った後笑いだした。

 

「そっ、そっかぁっ……そうだよなぁっ」

「何がおかしいのっ!?」

「いやぁ、勇者の動向なんて庶民が知るとしたら新聞か、こういう場所でしかないもんな」

「そうよっ、だからランク上がれば、教えてくれると思っているの」

「ぶっ……まぁ、そうだな。白の勇者のヤツは今王都にいるぞ」

 

 笑うのを堪えつつ話してくる赤の勇者グレン。

 

「えっ?」

「オレは勇者だし、それなりの家だから話は入ってくるぞ。知りたいなら、俺の嫁になれば沢山調べてやる」

 

 やってやった感満載の表情をする赤の勇者グレン。だけど、私はすぅっと手のひらをグレンに見せる。

 

「お断りします」

 

 悔しさなのか項垂れるグレン。女性3人がグレンを心配そうに声をかけている。

 こんな時に有力な話が入ってきたし、この男使える時は使えるのね。

 まさか王都にいるなんて……王都にいるってことはアイリスはもしかして……。

 私の不安が、頭の中で駆け巡る。苛立つ私は早く王都に……とアイリスに駆けつける事だけしか考えていなかった。

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