第8話 そう簡単にはいかないのですね。貴族と平民の常識に疎かったですわ。

 ナディアに案内され、冒険者組合の長の部屋に入る。

 偏見な見方だったが、意外と小綺麗で座ったソファがふわふわだった。

 ナディアも、離れたイスに座っている。

 いきなり扉が開くと、無精ひげを生やした中年男性が入ってくる。この中年男性、顔とか於いといて筋骨隆々の体。いかにも冒険者で生活してますって感じに見えるわ。

 だが、私には自由に動けるという第1歩を掴んだんだ。

 早く、アイリスが何処にいるか、知りたい。

 それは、あのゲームとやらでは各一部で四天王の一人を倒すのが目的で、5部目でラスボスだったのを記憶していし、【人物図鑑】の経歴でそれは書かれている。

 しかし、それを知ってから3年間。四天王の話すら耳にしていない。

 もしかして、話が違う?

 それにゲームはゲーム、現実は現実――――と言う事なの?

 私のギフトに頼りっぱなしでなく、情報は多く持ってなきゃね。

 そんな事考えていると、私の向かいに無精ひげの男が、息を吐きながらソファに腰掛けると、真っ白い歯を輝かせ笑ってくる。

 

「君が、マリベル=ライフェイザか?」

「――――ライフェイザという家名は捨てましたので、今はマリベルです」

「済まない。妹の……ナディアから報告貰った時はそう聞いたのでな」

「兄……組合長!!」

「女性の名を呼んで自分も名乗らないのは失礼だな――――俺はここの冒険者組合の長をやらせて貰っているグリフだ」

 

 グリフは、ソファに深く腰を掛け先の魔障調査での件を根掘り葉掘り聞いてきた。何度も聞かれたのは子爵だが貴族令嬢である私が、異様なまでに魔障の魔物と戦えたか。

 その解答は「3年間みっちりと、王都から来てもらった家庭教師たちに指導してもらっただけですの」だけ。

 

「しかし、妹……ナディアからの話では――――とても考えれん」

 

 言い方を変えても私の返答は一緒。だって、事実だわ――――3年間ではなかったかも知れませんけど……。

 グリフは、同じ返答に頭を掻きため息をつく。

 

「まぁ、マリベル。魔障発生の地域は危険が高い上に初陣であるなら、新人の冒険者は魔物に出会っただけで臆するし、もしくは怯え逃げる事を選択する者が多いのにも関わらず――――」

「私は、家庭教師のご指導が良かったのですわね」

「――――ナディアの報告が、嘘のようだ……」

「お兄ちゃ――――」

 

 グリフの鋭い視線を捉えるナディアは、自分の失言を言い換えす。

 

「――――組合長。私は一切嘘は言ってない」

「それも、俺は分かっている。だが、まぁ……この話は同じ返答しか貰えなさそうだ」

 

 兄と言っていたナディアが、『お兄ちゃん』と言いかけてましたわ。けっこう外ではしっかり者に見えるナディアももしかしたら内では……と頭を過ぎらせていた。

 だが、私が求める情報は1つ。

 

「組合長グリフ。今度は私が聞きたい事がまります」

「最低限答えられるものは応えよう」

 

 最低限?

 

「私が知りたいことは勇者……アイリス様の行方――――ですわ」

「勇者アイリス――――か」

 

 私が知っている状況、あの時ゲーム内思い出せる事は確か、王都より東の土地に行っている筈ですわ。それがあっているなら向かう先はわかっているのよ。

 ギフト《メニュー》で【人物図鑑】でアイリスの経歴が見れないし、ここは現実世界――――あのゲームの世界では無いのよ。真偽はわからないし、やはり情報が価値を生みますから。

 マリベルの神妙な面持ちで組合長グリフの発言に驚く。

 

「あの勇者は今。王都か西方面に向かってその後、何も通達来ないな」

「はっ……東の……では?」

「この領地を抜け王都経由で西の――――誰だっけ……まぁ、西の方だ」

「ほほほ他にぃ何かぁっ! アイリスの情報ぉぉっ!!」

 

 記憶と違う情報が舞い込んで私は、狼狽えてしまう。

 一度、別の情報で整理できればと組合長グリフに突っかかってしまった。

 

「あるには……あるがなぁ〜」

「じゃぁ、早く教えてっ!!」

「勇者アイリスの事になると、目の色が変わったな」

「!!」

 

 当たり前よ、早く会いたい。

 もう1度一目会いたい。

 出来たら……。

 だけど、情報が食い違う。

 頭の中はぐちゃぐちゃよ。

 

「こちらとしても、お前さんの先程の答えを聞いてないからな――――それに……」

「それに?」

「あぁ、それにだ。冒険者として何も成果を出てないお前さんに、組合として何か応える義理もないからなぁ」

 

 私は唾を飲む。そうだ、先程冒険者になったばかりな上、外に生死をかけた戦いをしたのも数日前。

 そんな貴族でもない、何か実績や実力がない小娘を信じるかってことだよね。

 

「なら、依頼受けるわよ。受けて成果残すわ」

 

 私の強気な言葉に組合長グリフは、ため息を吐いて頭をしょげる。

 

「この街では受けられんし、ここの領主様の地でも依頼を通す事はできん」

「はぁ、なんで……ですの?」

「冒険者組合も教会も王族、貴族らと争うことはしたくないし、依頼なら別の地に行って受けてくれると助かる」

 

 ナディアが、私に近づいてきて目を輝かせながら、私の顔を注視する。

 何か、顔に付いている?

 ナディアの表情が明るいんですが、もしかして私が別の地に行ってくれるのを喜んでいたりして?

「お兄ちゃ……」と口を滑らすナディアは、咳払いをして発言を有耶無耶にしようとする。

 まぁ、公の場以外はいつもそれで呼んでいるのねナディア。私はその状況に口が緩みそうになる。

 だが、ナディアの発言は私の眉間にしわがよっている。

 

「組合長。マリベルは常識を知らないのです。だから私が付いて行きます」

「常識? 教育受けてないのか?」

「う、受けているわよっ!! ナディア私は知って――――」

「露店で肉串を買った時……。金貨出したのよマリベルは」

「はっ、金貨?」 

 

 ナディアの言葉にグリフも頭を傾げている。

 思い出したわ。魔障調査から戻ってきてナディアに少し平民の暮らしを知りたいと言った時、露店で買い物をしたんだったわ。

 

「肉串買った時、金貨は出さないわ普通。マリベルは貴族の世界では常識を知っているけど、平民、庶民的な暮らしでの常識は全く知らないわ。他の領地に行って変な事して、冒険者登録がココだと知れたら……」

「ヤバいな。査察が入ってしまうかもしれん……」

「だから、私が着いていけば何か合っても安心よ。マリベル」

 

 私は女神様から授かったアイテムの他にお金もある。いい香りのする肉串食べたいかったの。だから店主が金額『3枚』と示したから私は3枚を出したわ、金貨3枚!!

 店主にムッとし睨まれる私。

 わからない。わからないけど、多分ゲームの世界は貴族水準だったのかもしれない。すると、庶民には金貨よりもさらに小さいお金があるのかもしれない。

 

「マリベルよっ、うちから【B+】の冒険者一人を出すんだ――――」

 

 俺は、早くアイリスに逢いたいから「遠慮しま……」と言いかけだけど拒否しようとしたら、無視されたよ。

 

「1人旅は危険だ。ナディアを連れて行くといい。マリベル!!」

 

 組合長グリフも輝かせる瞳と、ナディアの輝かせる熱い瞳。私は返答する事が出来なく。ナディアが着いてくることに、なくなく諦め、ため息混じりで了承してしまった。

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