第9話 冒険者の冒険は宿探しから始まるなんて、知りませんでしたわ

 庶民的な常識が持ち合わせてないとレッテルを貼られてしまった私、マリベル。

 冒険者組合長グリフに見送られ、私は生まれた街スフィースを離れる。私についてくるナディアは肩を回している。

 

「お金の事は身をもって分かったわ。でもナディアが、着いてくることないじゃない?」

「何言っているの。庶民の常識を知らないマリベルにも、冒険者としての心得ってもの教えないと」

「本当にぃ?」

「えっ、ええ……決して組合長の妹とランクB+だからと言って依頼も受けさせてくれない上、受付に駆り出されてたのが嫌だなんで言わない」

 

 本音が漏れてるわよ。ナディアは、じっとしているのがイヤで動きたいタイプなのね。

 

「冒険者の登録証って便利なの初めて知ったわ」

「街の出入りにお金取られないし、冒険者組合と提携している宿やお店は割引してくれるし、と良いとこ尽くしだわ」

 

 私は登録証を片手に満面の笑みで、視界に入るこの都市を囲む壁へと向かうの。早くこの都市からでて、一刻も早くアイリスに逢いたいから、アイリスの動向も知りたい。

 壁に近づく。出入りする人々で守衛の兵達も忙しそうだわ。早く出れるかしら……。

 ナディアが何か喋っているわ。いや大声なのよ。あっ、ナディアはどこに行った?

 私は、登録証とこの先のアイリスの事で、ナディアの存在を忘れてしまったわ。すると急に後ろから肩を掴まれる。

 

「きゃっ!!」

「マリベル! 何度呼んだらわかるの?」

「なっ、何よ。行く先はあっちなんだから呼ばなくても良いじゃないのっ」

「はっ、はぁ〜だから一人で出すのは危険なのよっ」

「何が!?」

「行商人でもないし、近くの村や街人でもないのよ。それに、依頼を受けた冒険者でもないの――――私達は少し離れた場所に向かうって言ってたのよ」

「わかっているわよ。だからあそこから出て向かうんでしょ」

「歩いて!!」

「何で笑う?」

 

 ナディアは苦笑しているわ。ナディアこと可笑しいんじゃなくて?

 

「歩いて行く発想が……。馬車で行くのよ、馬車で」

「……あっ」

 

 ナディアの言葉に唖然だわ。歩いていたらアイリスに逢える日が遠のくわ。兄フォクスと騎士団と共に魔障調査でも馬車でしたわ、貴族しか馬車が使えないのかと……。

 ナディアの後についていくと、沢山の人集りと馬車の数々。

 乗合馬車というのに乗りこむ私達。あんなに人集りができてたのに意外と乗る人が少ない。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 街道とはいえ凸凹のある道を通る馬車は、揺れ動きに私は問題ないんだけど、目の前にいるナディアもだが、乗り合わせていた数人が、無言になっているし本当に無表情で寂しい旅のようだわ。

 馬車を囲み守るように陣取る冒険者達が、数名いるが御者の中年の男がナディアに声をかけてくる。

 

「サウザリアウスは、初めてかいお嬢さん方?」

「お嬢さん……いや、昔通った事があるぐらいかなぁ」

「失礼だったか。そうか、領主様が変わってな今はかなり人が多くなってな。賑やかな街になった」

「噂には聞いていたけど、かなりのような……」

「着いたら人通り多いから早めに宿を取るようにな」

 

 うなずくナディアに、私はその会話を聞いているだけだったが、御者の中年男性が、ナディアと私の姿を舐めるように視線をうごかしている。

 なに、もしかしてどこからが野盗が現れて乗客を襲うとか? そして、この御者の男も冒険者もグルだったりとか?

 警戒した私の視線に、少し怯む御者の男。

 

「いやいや、悪気があった訳でなくて。君ら冒険者か?」

「だったらなんなの?」

「まぁ、その昔3兄妹の冒険者を思い出してな。君の髪色でおもいだしたんだ。どんな話をしたか忘れたが……元気の良い男の子と妹を心配するお姉さんを――――元気でやっているといいいけどな」

「あっ、えぇ、3兄妹は上手く元気にやっていると思うわ」

「紺色の髪のお嬢さんに言われたら、そうなのだろうな」

 

 笑いながら手網を裁き、馬車は加速する。

 道中、魔物が襲ってきたりすると馬車を囲む冒険者達が、その魔物と戦う。その間は馬車の進行をとめている。

 夜間は馬車を止め野営となり、冒険者達が見張りを立ててくれていた。

 馬車に乗る前に釘を打たれたのよ。「マリベル、道中決して冒険者に手を貸しちゃダメだよ。向こうから助けを求められたら良いけど、基本手を出してはダメ。出したら処分があるから」結構何度も何度も言われ耳だこになっている程だ。

 そんな何度も言われればわ、私だって分かるわ。それに男どもの冒険者パーティーに手を貸す気は無いし。

 数日経ち、私達が乗せた馬車は無事にサウザリアウスの街の一つクルエール。賑やかな街と聞いていたが、人の行きかい、騒めき、賑やかな街なのは馬車を降りてすぐに分かるわ。

 街並みを眺める私にナディアが背を伸ばしながら声を張る。

 

「さぁ、着いたらまずやることはっ!!」

「冒険者組合に行くっ」

「先ずは宿よ。泊まるところ決めとかないと、埋まってしまうわ。明らかに流通が盛んなの街って沢山の人が来ているから」

「そ、そうね」

 

 私たちの乗せた馬車の他に各方面から、到着した馬車が多数ある。

 

「組合の近くに泊まれる所探すわよ」

「あっ、うん」

 

 ナディア後に付いてく私。

 冒険者となって1人だったらと思うと、宿無しで不清潔。そんな私、想像出来ないわ。馬車での移動の時はある意味それだったけど、見張りも致し安全ではあったわ。でも、街に着いたらキョロキョロして不審者と思われるかもしれない。

 あぁ〜怖い。

 

「ナディアが一緒で助かるわ。本当にありがとう」

「やっと分かってきたようね。マリベルは」

「冒険者の心得ね。『街に着いたら先ずは宿を抑えよ』っこと」

「はぁ、馬車に乗る時もお金を払って無いし。冒険者の心得は『何事にもお金は掛かる。節制していこう』かな」

「ぬぐっ!!」

 

 確かに、乗る前にお金を払ってないわ。記憶が無いもの。

 あぁ、絶対ナディアは頭を抱えぶつくさ言って私を睨んだんだろうなぁと。

 思考する私は、ナディアの背中を見つめている。

 すると、ナディアが徐に振り返る。

 

「まぁ、マリベルが世間の常識を身についたらいいな」

「なっ、ぬぐぐっ」 

 

 全く言い返せないわ。お金の使い方なんて……特にお金に種類、金貨や銀貨、銅貨などある事すら知らなかったのだから。

 言い返せない私に笑いをこらえるナディア。

 ナディアの力で私たちは、冒険者組合の近くにある部屋を取ることが出来た。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る